岩井 芳弘 副院長、岩井 裕子 先生の独自取材記事
中村外科医院
(目黒区/中目黒駅)
最終更新日:2021/10/12
中目黒駅から徒歩3分、駅前のにぎわいの余韻を残しつつも落ち着いた雰囲気の住宅街の一角に、「中村外科医院」を訪ねた。院長の中村倫彬先生がこの地に開業して60年。現在はその娘夫婦である岩井芳弘副院長、岩井裕子先生が診療にあたり、外傷や皮膚のトラブルから、2人の専門領域である心臓や胃腸に関わる疾患も含め、身近な不調の訴えに幅広く対応している。夫婦二人三脚で診療にあたる2人に、クリニックのこれまでの歩みや裕子先生が担当する女性専門の外来、スタッフとの連携についてなど、今後の抱負も交えてたっぷりと話を聞いた。
(取材日2021年8月5日)
互いの専門分野を生かしつつ、身近な症状全般に対応
こちらのクリニックは今年で開業から60年だそうですね。
【芳弘先生】当院は妻の父である中村倫彬院長が開業しました。院長が長年にわたって専門の外科・整形外科・皮膚科を中心とした診療を手がけてきた中で、消化器外科が専門の妻と、循環器が専門の私が加わり、2004年からドクター3人の体制になりました。それぞれの経験や得意分野を生かし、例えば「足にけがをしてしまった」「体に発疹が出てかゆみが治まらない」「胃の痛みが続いている」「動悸が激しくて心配」など、生活の中でありがちな身近な症状全般に素早く対応していけることは、当院ならではの強みだと思っています。院長は高齢のため、現在は私たち夫婦がメインで診療にあたっていますが、院長の代から長年通院されていて、そのお子さん、お孫さんと3世代にわたってかかりつけにしてくださっている患者さんも多いんですよ。
院内に複数のドクターがいるのは、患者さんにとっても心強いですね。
【芳弘先生】どんな医師でも、症例によっては診断に悩むケースがありますからね。その場合、つい自分の専門分野に偏った見方をしてしまいがちなのですが、当院ではその点、気軽に相談できるんですよ。何しろ家族ですからね(笑)。一人では判断がつけづらい時は、「こんな症例があるんだけど、どう思う?」「いや、その症状はこっちの病気を疑ったほうがいいんじゃないか」といった具合に率直に意見を共有し合っています。院内に別の専門分野を学んできた医師がいることで異なる視点が加わりますし、診断の難しい症例であっても互いの意見を持ち寄ることで、より正しい診断・治療につなげていくことができますからね。
患者さんは近隣にお住まいの方が多いのでしょうか?
【芳弘先生】そうですね。かかりつけで来られているのは、この地域に住むご高齢の方が中心です。加えて40、50代の方が突然のけがやぎっくり腰、膀胱炎など急性期の疾患で駆け込んでこられたり、近所の保育園から軽いけがをしたお子さんが保育士さんに連れられて来院したり……。小さいお子さんからお年寄りまで、日によって幅広い年齢層の患者さんが来られていますよ。また自宅周辺に外科医院がないとか、当院に女性医師による女性専門の外来があることをインターネットで知って、遠方から来院される方も少しずつ増えてきました。
女性専門の外来を設け、症状の早期受診を促す
女性専門の外来についても詳しく聞かせてください。
【裕子先生】月曜と木曜の週2回、女性専門の外来の時間を設けて私が診察を担当しています。内容としては、やはり異性である男性ドクターには相談しづらい痔や膀胱炎に関するご相談が圧倒的に多いですね。他に、乳腺のしこりが気になるとか、便秘などのお悩みで来院される方もいます。膀胱炎は症状が出たら比較的すぐ受診されるのですが、痔は症状があってもちょっと我慢して様子を見る傾向があるようです。痔で受診された方にお尋ねすると、「実は何年も前から悩んでいたんです」と打ち明けてくださる方がとても多いことからも、受診のハードルの高さが伺えます。いきなり大きな病院や肛門外科のような専門クリニックを訪ねるのは抵抗感が強いかもしれませんが、身近に女性の医師が診てくれるクリニックがあることで「ちょっと行ってみようかな」と思ってもらい、我慢せず早めに受診するきっかけになればと願っています。
副院長のご専門は心臓だそうですね。
【芳弘先生】はい。こちらに来る前は横浜市立大学病院の勤務医として、心臓の弁膜とバイパス手術を専門にしていました。バイパス手術というのは、詰まってしまった血管を新しいものと取り替える手術のこと。かつては大腿部の血管の一部をもらってきて心臓につなげたりしていたのですが、技術の進歩とともに現在では、心臓の近くを走っている別の血管を引っ張ってきて、元の血管の横に通すような手法が主流になっていますね。私は子どもの頃から機械いじりが好きで、医学部に入る前には工学部で学んでいたということもあり、こうした外科手術には技術的な側面で面白さを感じていました。そして何より、手術をすることで患者さんに喜んでいただけるのであれば、とてもうれしいことですからね。
クリニックでは、経験豊富なスタッフ陣も活躍していますね。
【裕子先生】日々の診療を支えてくれているスタッフたちの中には、院長の代から10年以上勤めているメンバーもいて、私たちよりも患者さんのことを本当によく把握してくれているんです。受付や待合室、理学療法室で患者さんと何げなく交わす世間話の中から、患者さんの家族構成や生活環境の変化など、健康状態に関わりそうな内容はいち早く私たちに共有してくれるので、本当に頼もしい存在です。例えば高齢の患者さんの場合、同じ年齢であったとしても一人暮らしか家族と同居しているかによって、生活状況も大きく異なります。そうした患者さんのバックグラウンドを知り、その方の生活に即したアドバイスで健康面をサポートしていくことも、かかりつけ医の大切な役割の1つですからね。
困っている時にこそ支えになれるクリニックでありたい
こちらでは、胃の内視鏡検査やエコー検査にも対応されているそうですね。
【裕子先生】目黒区では2017年から胃がん検診の項目に内視鏡検査が加わったので、50歳以上の方であれば自己負担なしで胃カメラの検査を受けられるとあって、当院の患者さんの間でも積極的に受ける方が増えました。また、エコーでは腹部や心臓などのほか、女性で胸のしこりが気になる方に対して、乳がんや乳腺炎の検査も行えます。放っておいて病気の発見が遅れ、症状が進んでしまうと治療が難しくなってしまいます。「大丈夫だと思うけど、念のため一度診てもらっておこうかな」といった具合に、全身の健康に関わる身近な窓口として、検査に関しても気軽にご相談いただければと思います。
クリニックとして今後取り組んでいきたいことはありますか?
【芳弘先生】若いドクターのように新しいことをどんどんやっていくというわけにもいきませんが、必ずやらなければいけないと思っていることは、災害時でもかかりつけ患者さんを守るための「情報面の備え」です。地震や風水害など、都市部でもこうした災害はいつ襲ってくるかわかりません。医療機関はどこもデジタル化が進んでいますが、災害時で機器類に蓄積しておいた情報を引き出せなくなったとき、やはり確実なのは紙ベースの情報でしょう。ですから当院でもデジタル化を進めるのと並行して、既往症やケアにあたっての注意点を患者さんごとにまとめた紙ベースのリストを用意し、いざという時に役立てられるようにしたいと考えています。どんな状況下でも患者さんを守ることが、かかりつけ医の責任ですからね。
最後に、読者に向けて一言メッセージをお願いします。
【芳弘先生】当院は何かに特化して治療するというよりも、暮らしの中でありがちな疾患を漏れなく診られるように、というスタンスのかかりつけ医院です。より専門的な診察を要すると判断した場合には速やかに専門の医療機関を紹介しますので、安心してお越しください。
【裕子先生】区の胃がん検診に対応するなど、自治体の取り組みにも適宜、対応しています。医師2人だけですべてを網羅することはもちろんできませんが、患者さんが困っている時にこそできるだけのことをして支えて差し上げられるクリニックでありたいと思っています。相談に訪れた患者さんに対して何らか解決の道筋をつけられるよう、精一杯サポートしていきたいですね。