伊藤 敏雄 院長の独自取材記事
いとう内科呼吸器科クリニック
(浦安市/新浦安駅)
最終更新日:2025/04/09

「いとう内科呼吸器科クリニック」は、新浦安駅南口から徒歩5分の場所に位置するクリニックだ。東京逓信病院の呼吸器科で15年以上呼吸器疾患に携わってきた伊藤敏雄院長は、咳に関する書籍の出版や講演会などを通して、広く咳に関する知識を伝えている。日本で吸入療法がまだ普及していない頃から有用性を訴えてきた。患者とのコミュニケーションを大切にし「診療では友達のように気さくに話している」と語る。気軽に相談できるような対応を心がけ、地域に根差した医療を提供。咳の原因を特定するため、エックス線検査や呼吸機能検査などの検査を実施するだけでなく、気道の模型や独自資料を使い、患者が納得して治療に取り組めるよう注力している。今回は伊藤院長に、診療時の心がけや長引く咳などについて詳しく話を聞いた。
(取材日2025年3月12日)
咳止めに頼らない、原因から治す咳治療をめざして
これまでの経歴を教えてください。

私は長崎大学医学部を卒業し、国立国際医療センター内科研修医、呼吸器内科を経て、東京逓信病院の呼吸器科に勤務しました。その後、カナダのマギル大学医学部で喘息の基礎を学び、帰国。当時、日本ではまだ吸入ステロイド薬が一般的ではなく、むしろ「かえって喘息を悪化させるのでは?」という懸念まであった時代です。ですが、私はカナダでの研究から、 吸入ステロイド薬が喘息治療の鍵になると感じていました。その頃に喘息の病態が慢性のアレルギー性の気道炎症ということが判明し、吸入ステロイドに注目が集まり始めました。当時は今のように吸収しやすい製剤ではなく、正しく使わないと効果につなげられなかったため、吸入指導を徹底することにしたんです。アメリカや東京で発表をするなど、吸入療法の有用性を伝える活動も続けてきましたね。
開業に至ったきっかけを教えてください。
開業の一番の理由は、吸入ステロイド薬の治療をもっと広めたいという思いからでした。これをしっかり使えば「もっと喘息の人が楽になることをめざせる」と伝えたかったんです。開業後、最初は喘息の患者さんを中心に診療を始めたんですが、慢性的な咳に悩む患者さんからのご相談がとても多いことがわかってきました。特に咳喘息の患者さんが多く、咳が長引いているのに適切な診断や治療を受けられていないケースが多くありました。
診察で説明する際、工夫していることはありますか?

患者さんに説明をするとき、大切なのは「ちゃんと伝わること」だと思っています。どれだけ医学的に正しくても、患者さんが理解できなければ意味がないのではないかと思うんです。言葉だけの説明では伝わりにくいことが多いので、視覚的にわかりやすい方法を工夫しています。例えば、喘息や気管支炎の患者さんには気道の模型を使って、健康な気道と炎症を起こした気道の違いを見てもらいながら説明します。実際の状態を見てもらうと、言葉だけよりも理解しやすいんですよね。そこから、「だから、こういった薬を使っていきます」とお話しています。
多角的な視点で、小さな異変の取りこぼしを防ぐ
咳の患者さんにはどのような診療をするのでしょうか?

まず、咳が出る原因をきちんと見極めることが大切だと考えています。原因に対する治療をしない限り、咳は止まらないというのが僕の考えです。ですので、初診の患者さんで長引く咳の症状がある方には、まずエックス線検査を受けていただきます。これは、肺がんなどの重篤な疾患がないかを確認するためです。その後、呼吸機能検査を行います。これによって、咳喘息なのか、その他の慢性的な呼吸器疾患なのか、原因を特定するための検査です。こういった検査を行うことで、咳の三大疾患と呼ばれる喘息、咳喘息、アトピー咳嗽を区別することが可能になります。
まずは原因を特定することが重要なのですね。
そうですね。検査の結果、気道の状態がわかったうえで、鼻炎が咳の原因となっている可能性を問診などで突き止めます。咳の原因を考える上で、鼻の状態が非常に重要だと考えていて、海外の研究では、鼻炎が咳の原因となっていることが多く指摘されています。咳の原因を特定するためには、鼻炎の有無をきちんと調べることが重要なんです。ですが、問題は自分が鼻炎だと自覚していない人が非常に多いということ。結果を説明する際に、「鼻炎がありますね」と伝えると、驚かれる方もいらっしゃいます。ですから診察の際には、患者さんに鼻の症状について詳しくお聞きし、鼻炎の可能性について丁寧に説明するようにしています。鼻炎に対しての適切な薬を使うことによって、咳の改善も期待できます。
鼻炎の他に、どのような原因が多いのでしょうか?

鼻炎の治療だけでは症状の改善が図れない場合、最も多い原因の一つとしてストレスが挙げられます。咳で悩んでいる患者さんによく話を聞いてみると、仕事上のストレスや、人間関係の悩み、家庭環境の変化など、ストレスが咳の症状を悪化させていることが少なくないんです。例えば、仕事で配置換えがあり嫌な上司ができた、子どもの受験や介護などで精神的な負担が増えたなど、ストレスが咳の原因となっているケースが増えていると感じます。気管支に対する吸入薬や強力な鼻炎の薬を使ってもよくならない方にストレスを除去するための薬を用いて改善を図ります。
咳が続く場合、医療機関にかかるタイミングの目安はいつですか?
3週間が一つの目安です。3週間以内の咳は風邪や感染症などが原因であることが多く、自然に治るケースも多いです。ただし、3週間以上咳が続く場合は注意が必要です。さらに8週間以上になったら、咳喘息や慢性気道疾患など別の原因がある可能性が高いので、一度しっかり検査を受けるのがお勧めです。咳が長引くと、「そのうち治るかな」と思って放置してしまうこともあると思います。でも、長引く咳は放っておくと慢性化する可能性があるので、「いつもより咳が長引いているな」と感じたら早めに専門的な診察を受けることが大切です。
患者との信頼関係を重視し、気軽に話せる空間を
吸引指導も徹底されていると伺いました。

はい。当院ではしっかり吸入指導をするようにしています。ただ薬を処方するだけではなく、実際に使い方を指導しています。実は、吸入薬を処方されたけど、うまく使えていない患者さんがたくさんいらっしゃると思っています。「処方されたのですが、よくわからなくて……」「吸入薬の蓋も開けずに、そのまま放置していた」という患者さんもいましたね。こういう人は決して珍しくないんです。どの薬を処方しても、患者さん自身が「なぜこの薬が必要なのか」「どうやって使えばいいのか」を理解していなければ、治療はうまくいきません。だからこそ、模型を使ったり、なぜ吸入薬が必要かわかりやすい言葉で話したり、実際に吸入指導を徹底したりと、いろいろな工夫をしています。
診療の際、患者さんにどのように接していますか?
患者さんとは自然な感じで友人のようにお話しするようにしていますね。例えば、動物を飼っていらっしゃる方には、「どんな動物を飼っているんですか?犬でしたらどういう種類ですか?」という感じで会話を通して、患者さんの人となりを知るようにしています。かしこまった雰囲気ではなく、気軽な会話の中から不安や悩みを聞くようにしています。このような診療スタイルは特に意識したわけではないのですが、尊敬する先生の影響は大きいかもしれません。患者さんと話すときにベッドに座って目線の高さを合わせて会話するというような診療方法を間近で見て、感銘を受けました。その先生のように患者さんの心に寄り添える医師になりたいと思ったことも、今の診療スタイルに通じているのかもしれません。
最後に、今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

今後の展望として、特にストレスが関与する咳のメカニズムを、もっと学術的に明確にしていきたいという思いがあります。今、臨床の現場ではストレスによる咳の存在が広く認識されつつありますが、まだ研究データを整える必要があると思っています。僕自身も現場で患者さんと向き合いながら、新しい治療の可能性についてもアンテナを張って、より良い医療を提供できるように取り組んでいきます。大切なのは、何が原因なのか、どんな状態なのかをしっかりと見極めること。鼻炎なのか、咳喘息なのか。咳が悪化してきた時期やきっかけは何か。咳の原因は、ご自身や状況によってまったく異なります。それを見極め、適切な治療を行うことが、咳の改善への第一歩になるのではないでしょうか。