久野 昌隆 院長の独自取材記事
ひさの矯正歯科
(世田谷区/千歳烏山駅)
最終更新日:2021/10/12
千歳烏山駅前通り商店街を抜け、にぎやかな路地に面したビル2階にある「ひさの矯正歯科」。理事長の久野昌隆先生は東京医科歯科大学に20年勤務し、多彩なキャリアを積んできた。落ち着いた院内には、イギリスのアンティーク家具が並び、子どもたちにも落ち着いて待ち時間が過ごせるように、小上がりには机まで置かれている。「夏休みにはここで宿題をしながら待つお子さんも多いですよ」と久野先生。本棚には本がたくさん並び、中には治療後もなかなか帰りたがらない子どもも多いという。本来あるべき医療の姿を大切にして「きちんと治す」ことに力を注ぐ久野先生。開業からどのような歩みを続けてきたのか、詳しく話を聞いた。
(取材日2015年10月2日)
手先の器用さよりも、診断力が鍵
千歳烏山に開業しようと思われた理由は?
世田谷区は矯正治療を受けたほうがいいという潜在受診率が高く、健康に対する意識の高い住民が多いのと、千歳烏山は子育て世代も多く、環状八号線より外側のエリアは15歳未満の子ども人口が増えているからです。10年単位の長い目で見た時、地域に根差したクリニックをめざせるのではないか、そう思ってこの場所を選びました。
院内はカフェのように落ち着いた雰囲気ですね。
「病院」というイメージにしたくなかったのと、歯科医院特有のにおいをさせたくなかったからです。共感を持っていただきたい中心層が、30〜40代の小学生や中学生のお子さんを持つお母さんたちなので、ブランド志向よりも、品質や安全を重視する世代に合うようにしました。僕自身がアレルギー疾患をもっているということもありますが、壁や天井は、においを吸着するケミカルフリーの鹿児島の火山灰を使用し、床には無垢のメープル材を、ユニットの仕切りにはせっ器質タイルを使用して、空間を広く感じられるよう半個室にしています。
お子さんはどのくらいの年齢が多いのでしょうか。
3歳くらいからお母さんが連れて相談にいらっしゃいます。実際に治療を開始するのは早くて6歳くらいからですが、早いうちから矯正に関心があることはたいへん良いことだと思います。お子さんの歯について、どこに相談していいか迷っていらっしゃるお母さん方も多いですね。最近は、学校の歯科健診で不正咬合にチェックが入ると、それをきっかけに受診される子どもさんも多いです。今は歯を悪くしないためのケアを行うのは当たり前になってきていますから、同じような流れで、歯列矯正を受けるように変わってくるのではないでしょうか。
大人の患者の年齢層は?
80歳くらいの方もいらっしゃいます。ただ、子どもと大人では矯正の目的やアプローチの仕方がまったく違いますね。大人の場合は、生涯自分の歯で噛めるようにするための目的が強く、歯を失ってもなるべく入れ歯を使わないようにしようとか、トータルで噛み合わせを治そうとか、一人ひとりに必要な治療を見極め、一般歯科の先生と連携を取りながら行います。私が矯正歯科に携わったばかりの頃は、とにかく歯を動かすというトレーニングが主体でしたが、今は幅広い年代の方が受診されますし、目的もそれぞれ違うので、矯正専門の歯科医師は包括的な診断力を身につけていくことが大切だと感じています。
治療本来のプロセスを誠実に踏み「きちんと治したい」
先生が掲げている「きちんと治す」とは具体的にどんなことですか?
本来医療は、患者さんの状態を調べる検査があり、それをもとに診断がなされ治療方針を決めていきます。治療方針が決まれば、今度はそれに合わせた装置や、手術が必要な場合は手術が行われるといった一連のプロセスがあるわけです。ところが、今の矯正歯科は、この装置や手術といった、手段の部分からいきなり入っていくことがほとんどです。手軽な手段がある、やりやすい手段がある、という部分からたどって治療を当てはめていくのは、本来の医療の姿ではないと思っています。まず患者さんの状態をしっかりと調べて、きちんと治るように道筋を立ててから手段を選ぶのが医療の本質です。患者さんが何を求めているのか、どんな治療を望んでいるのかを、治療前のカウンセリングで十分共有してから治療方針を立てるのことが、本当の「きちんと治す」ということにつながると考えています。
新たに取り組んでいる治療もあるそうですね。
顎口腔機能診断料算定に対応している医療機関なので、先天疾患に伴う噛み合わせの異常や顎変形症に対する矯正治療が保険診療で行えます。これらの治療は大学病院で対応することが多いのですが、やはり矯正歯科の専門家として、困っている患者さんの力になりたいと思い取り組んでいます。今は近隣の国立成育医療研究センターや、勤務していた大学病院からの紹介で、遠方からも多くの患者さんが受診されています。
新たな情報や知識を得るために、普段からどのようなことをされていますか?
学会や勉強会などに出席し、また、歯科医療全体の中で矯正専門の歯科医師は何ができるかということを、常に考えるようにしています。矯正は、保険がきかない高額な医療と捉えられがちですが、本来は虫歯や噛み合わせの治療と同じ歯科医療の一部です。一般歯科や歯周病の専門家、口腔外科の専門家など、さまざまな分野の先生方との情報交換をして、包括医療を担う一員として役割を果たしていきたいと思っています。
診療で心がけていることは?
初診で、その方の価値観や人生観をいかに見抜くか、でしょうね。その上で患者さんが何を欲しているか、あるいは子どもさんにどうしてあげたいのかという親御さんの気持ちをくみ取り、そこを中心とした説明をすることが大事だと思っています。矯正治療では診断が非常に重要で、現状を分析して治療の方向性を決めるわけですが、僕はこの診断にとことん力を注ぎます。また、その後の経過説明と装置を外すにあたっての根拠の提示を重視しています。矯正治療というのは評価基準が明確ではありませんから、患者さんは本当に良くなっているのか不安になってしまう。実際に写真を見ていただきながら現状や変化を説明していくと、患者さんの気持ちが落ち着き、安心して治療に臨んでいただけます。
後進を育て、チームとしてさらなるステップアップを
開業前は東京医科歯科大学で長く勤務されていたそうですね。
僕は長崎大学歯学部を卒業後、東京医科歯科大学の歯科矯正学の教室に入り、大学には20年在籍しました。これだけ長く大学に残っていたので、30代で開業した人たちに比べると、ちょっと違う世界を見てきたんだろうなと思いますね。年上、年下問わず幅広い世代との深いつき合いがありましたから。東京医科歯科大学の先輩方はこの道の重鎮といわれる方が多くて、それこそ教科書に出てくるような先生方とも、気さくにお話ができる機会がたくさんありました。これは得がたい経験だったと思います。
先生はなぜ歯科医師になられ、矯正歯科の道を志したのですか?
会社員になりたくなかったのが一番の理由です。小さくても自分の城が持ちたいと思ったからです。両親や親戚に歯科医師がいたわけではありませんし、特に父親は僕が歯科医師になることには大反対でした(笑)。矯正歯科に進んだのは、歯学部の学生の頃に、矯正で歯が動いたのを見てとても興味が湧いたのと、当時はまだ、矯正は特別な治療という認識があったので、デンタルIQの高い人たちの治療に携われると思ったからです。でも今は、矯正は一部の人たちだけでなく、もっと多くの方々に浸透させていかなくてはと思っていますし、そうすることが使命だと感じています。
院内にギターが置いてありますが、先生が弾くのですか?
歯科医師会の中に音楽部があり、仲間とバンドを結成しています。僕は学生時代の経験からギターを担当していて、今年出場した世田谷のコンテストでは、審査員特別賞とオーディエンス賞を頂きました。夜、仕事が終わった後にスタジオに集まって皆で練習をしていますが、プロのミュージシャンたちの知り合いもできましたし、人間関係も広がって楽しいですね。偶然始めたのがきっかけでしたが、今は仕事とバンド活動で日々過ごしています(笑)。
新たに取り組んでみたいこと、展望についてお聞かせください。
おかげさまで、この5年間で患者さんもだいぶ増えましたので、今後は若い先生たちに治療の多くの部分に携わってもらう体制をつくっていきたいですね。重要な方針の決定などは私の責任で行いながら、クリニック全体がチームとして治療にあたれるようステップアップしていけるようにしていきたいと思っています。
自由診療費用の目安
自由診療とはカウンセリング/2000円
歯列矯正(子ども)/45万円(目安価格)
歯列矯正(成人)/85万円(目安価格)