廣田 彰男 院長、廣田 尚紀 先生の独自取材記事
広田内科クリニック
(世田谷区/千歳烏山駅)
最終更新日:2025/10/07
千歳烏山駅から徒歩2分の「広田内科クリニック」。院長を務めている廣田彰男先生は、むくみ・リンパ浮腫治療の分野において、当時専門家がほとんどいなかった30~40年前から打ち込み、数多くの患者の治療にあたってきた。むくみ・リンパ浮腫が中心の専門クリニックとして、全国から訪れる多くの患者に対応する同院に、2025年より日本糖尿病学会糖尿病専門医である息子の廣田尚紀先生が加入。尚紀先生は、内科診療を行いつつ、長年栄養をテーマに診療に従事している。その経歴を生かし、糖尿病や生活習慣病を患った際の食事や栄養に関する情報をしっかりと伝えるべく、糖尿病専門の外来の年内の開設に向け準備を進めている。今回はそんな先生方に、それぞれの専門や診療への思いを語ってもらった。
(取材日2025年9月10日)
通院を続けやすいことを第一に
尚紀先生のご経歴を教えてください。

【尚紀先生】医学部を卒業し、初期研修を終えた後、最初の2年間は血液内科に所属していました。その後2015年に、新宿にある東京女子医科大学病院の糖尿病内科に入局。そこで糖尿病診療に従事しつつ、大学院に入学して、栄養の研究も行ってきました。そのご縁で、2016年からは東京大学大学院の研究員として研究に勤しみ、2020年頃には東京女子医科大学を辞めて産業医学を学び始めました。今は糖尿病診療をはじめとする内科診療や研究を並行して行っているところです。これまでも週に1回は当院に来ていたのですが、ここまで研鑽を重ねてきて、準備が整ってきたので、この経験を生かして当院でも糖尿病の外来診療を開くことにしました。週に1回ぐらいから始めて、少しずつ診療日数を増やしていく予定で、2025年中には始められればと考えています。
糖尿病の外来診療はどんなものになりますか?
【尚紀先生】予防と治療の両方に軸足を置くつもりです。糖尿病の予防・治療は、生活習慣が重要な要素ではありますが、体質や加齢による影響も小さくありません。ですので、生活習慣の改善をめざしつつ、体質や加齢などの自分でコントロールできない部分は治療を併用していくイメージですね。これは私個人の考えですが、糖尿病診療で一番大事なことは、とにかく通院を続けてもらうことだと考えています。というのも糖尿病は、最初はまず自覚症状がなく何も困らないことが多い病気なので、5年10年放置してしまい血管や神経がボロボロになってしまっている方も多いんです。途中でお薬を飲むのが面倒になってしまったり、通院が嫌になってしまったりで、治療が途絶えてしまう方も多くて。だからこそ、通院を継続していただけるような診療を心がけるようにしています。
診療にあたっては、特にどんなことを大切にされているのでしょう?

【尚紀先生】一番は、血糖値数値などの病気の状態について、患者さんに怒ったり、嫌な思いをさせたりしないことですね。「こんなに血糖値が高いなんて駄目じゃないか」といった怒り方をして、患者さんにその記憶を強く残してしまうようなことは避けたいです。あと、私の専門分野である栄養に直結するところですが、適切な知識を伝えることも大切にしています。例えば「揚げ物は駄目」「甘い物は駄目」という指導ですが、栄養学的にこれは間違った指導です。甘い物も量や頻度、種類によって体への影響は異なるので、基本的に糖尿病だから食べてはいけないというものはありません。間違った情報はいたずらに患者さんの自由を奪うことになってしまうので、食べ物に対する誤解を解くことについてはすごく意識して取り組んでいます。
適切な情報と必要最小限の治療で、症状の改善へ
患者さんに適切な知識を持ってもらうことが重要なのですね。

【尚紀先生】そう思います。最近は、テレビやSNSなどで「血糖値を下げるには〇〇を」といった情報が多く発信されていますが、その中には間違ったものも多く、情報を信じて逆に悪くなってしまう方もかなりいらっしゃって。そういう誤解を解いていくことも、すごく大事になっていると思います。なかなかやめていただくのは難しいかもしれませんが、患者さんは「良くなりたい」という気持ちから情報を信じて実践されているわけなので、行動を変えられたこと自体は絶対に否定しません。その上で、できる限り抵抗なく適切な情報を受け入れてもらえるように、日々コミュニケーションの取り方を試行錯誤しています。
ここからは彰男先生に伺います。まず、リンパ浮腫とはどのような病気なのでしょうか?
【彰男院長】リンパ浮腫には、生まれつきリンパ管などの発育が悪いことでむくんでしまう一次性と、乳がんや子宮がんなどの手術後にリンパ節が切除、または破壊されて起こる二次性とがあり、9割が二次性の患者さんです。基本的に痛みはなく、腕や足がむくんで太くなります。リンパ管の役目は排水管のように体の老廃物を運ぶこと。排水管が詰まると水が止まったりあふれたりするのと同じで、がん治療などによってリンパ管が切断されるとリンパ液の流れも低下し、やがて水分が引き寄せられ、リンパ浮腫になります。この病気は古くからありましたが、放っておいても命には別状がないことなどから、10年ほど前まであまり注目されていませんでした。今は医療者にも患者さんにも知られてきて、治療にあたる医師も増えてきたかなと思います。
治療はどのようなものになりますか?

【彰男院長】近年はリンパ管静脈吻合術が非常に盛んですが、私は弾性スリーブや弾性ストッキングによる圧迫を中心に、必要なら併せてマッサージを行うなどの内科的保存的治療を勧めています。人間は朝から寝るまでの日常生活の中で立っている時間が一番長いので、その一番長い時間帯をいかにうまく過ごせるかが大事。そのため、弾性スリーブや弾性ストッキングなどの選択や履き方の指導が治療の中心となります。手術が適している場合もありますが劇的な回復はめざせませんし、患者さんの金銭的・肉体的負担を考えれば、まずは適切な診断のもとで必要最小限の内科的治療を行うことが一番ではないかと考えています。もちろん、少しでも良くなる可能性があるなら手術を受けたいという方もいらっしゃると思うので、何が正解とはいえないのですが。
栄養に関する情報を適切に広めたい
どんなタイミングで受診すれば良いですか?

【彰男院長】新品のセーターは伸ばしてもまた縮むけれど、一度伸びきってしまったら元に戻らなくなるのと同じで、むくみがたまって皮下組織が変化してしまったら、治療しにくくなってしまいます。常に弾性スリーブや弾性ストッキングで押さえておかなくてはいけなくなるので、初めて少しむくんだタイミングで、早いうちに治療につなげたほうが良いですね。がんなどで手術をすると、リンパの機能は必ず悪くなります。むくみが出るとは限りませんが、術後すぐから注意しておいたほうが良いでしょう。なお当院のむくみ患者さんの約9割が女性です。特に婦人科系がんの術後が多く、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんの順で多くなっています。
尚紀先生より、今後の抱負をお聞かせください。
【尚紀先生】一般的な糖尿病診療に加え、専門分野での積み重ねを生かして栄養指導も行っていきたいです。また、産業医学の勉強をする中で、糖尿病予防のためには予防的なアプローチの重要性を強く感じるので、まだ糖尿病や生活習慣病になっていない方に対する予防的な働きかけは、ぜひやっていきたいですね。既に動いているものもいくつかあるので、どんどん大きくしていき、将来的にはクリニックで企業の社員さんたち向けに予防のお話しなどもできれば良いなと思っています。
最後に一言ずつメッセージをお願いします。

【尚紀先生】今は栄養に関するデマや誤解がとても多く、人を苦しめていることは大きな課題だと感じています。私は栄養疫学を専門とする医師として、栄養に関する情報を適切に伝えたり、視野が広がる話ができる立場だと思うので、疑問に思った際は頼りにしていただければと思います。糖尿病や生活習慣病により食事に課題を抱えている人は、気軽にご相談にいらしてください。
【彰男院長】手術後の患者さんでリンパ浮腫の可能性がある方がいらっしゃったら、あまり周囲のうわさに惑わされずに、必要最小限の治療をしていただければと思います。20~40代の方はリンパ浮腫は少ないですが、足がむくんで太くなる脂肪浮腫というものもあります。こちらについても、いつでもご相談ください。

