内藤 雄二 院長の独自取材記事
内藤クリニック
(枚方市/光善寺駅)
最終更新日:2023/07/13
500年以上の歴史を持つ光善寺からほど近い、枚方市立伊加賀小学校の南隣に位置する「内藤クリニック」。院長の内藤雄二先生は関西医科大学を卒業後、大学院での基礎研究を経て、南カリフォルニア大学に研究留学へ。帰国後は関連病院において内科副部長を務める一方、医学部や看護学校の学生教育や附属肝臓研究所の講師として後進育成にも尽力してきた。介護時代を見据え2001年に開業してから19年、内科・小児科・消化器内科・リハビリテーション科を標榜し幅広い疾患に対応する。現在、終末期の患者とその家族の望みにそえる在宅医療として、事前の検討を重ねたケアプランニングで訪問診療に取り組む内藤院長。その思いに耳を傾け、今後の抱負までじっくり話を聞いた。
(取材日2020年2月5日)
コミュニケーションが豊かなリラクゼーションを生む
まずクリニックの歩みについて教えてください。
開業した2001年当時は今と逆で、小児受診率が高くご高齢の方は3割ほどでした。というのも大型マンションがこの伊加賀西町に完成し、入居者の大半が30~40代のファミリー世帯だったため、少子化にもかかわらずこの地域は例外的に子どもさんが増えたのです。その後クリニックが手狭になり約80m離れた現在の場所に移転する頃には、高齢化が進んで介護の必要性が高まり、特にここ10年は在宅医療の需要が増えています。診療は慢性期疾患から、脳卒中、くも膜下出血、急性心筋梗塞などの急性期疾患まで大抵診てきました。最近は、第3の医療のあり方と言われる在宅医療、つまり往診や訪問診療も行っています。
開院時からリハビリテーションに注力されておられますね。
当院では、「用手的なケア」に重点を置いたリハビリテーションを行ってきました。用手的なアプローチを行う際、そこには会話が生まれると思います。つらいことや悲しいことは全部吐き出して気持ちを楽にし、うれしいことや楽しいこともどんどん話していただいたら、心も体もハッピーになります。私たちは、リハビリの中でコミュニケーションによって生まれる心のリラクゼーションも大切にしています。混雑した外来診療の中ではゆっくりお時間が取れない場合も、こうしたリハビリの取り組みがチーム医療として役立つと思いますし、患者さんにも喜ばれ、定期的に楽しみに通って来られる動機になればと思っているんですよ。
独自の診療スタイルが伺えます。
私は診療全般において少なくとも3つの「見る」を使い分けています。1つ目は患者さんをしっかり観察するという意味で「見る」。2つ目は診察によって得られたデータから適切に診断、あるいは鑑別診断をする「診る」。3つ目は治療やケアを進めていって治療効果や臨床経過を「見る」ということ。また、患者さんの家庭的・社会的背景やご家族まで「見る」こともかなり多いです。もう一つ大切にしている診療スタイルは、現場第一主義の診療です。在宅医療では電話による問い合わせがよくあります。しかしながら、行ってみると聞いた様子と全然違っていて慌てることがあります。事実を科学的に「見る」ために、時間をつくってでも現場に赴くように心がけています。
医療と介護の多職種によるハイブリッド・チームが鍵
アドバンス・ケアプラニングを重視されていると伺いました。
人生の最終段階における看取りについても、建設的に前向きに向かい合うことが大切だと考えています。看取りに携わる医療と介護の多職種ハイブリッド・チームは、事前に患者さんご本人の意思確認を繰り返し行います。同時に、ご家族の皆さまとも一緒に十分話し合います。看取られる方がいれば看取る側もいて、双方に常に心を通わせています。ただ、事前に在宅看取りを確認していたにもかかわらず、心肺停止に気づいた瞬間にパニックになってしまい救急車を呼んでしまわれることもまれにあります。私たちはケアプランニングの段階でこんな事態まで想定し、お話しさせていただきます。患者さんご本人の希望をかなえられるよう、ご家族に寄り添えるよう、私たち医療・ケアチームは何時でも、必ず、ご自宅へ駆けつけますので、安心してご連絡ください。
高齢者の抱える問題の一つに認知症を挙げておられますね。
高齢化・長寿化に伴って認知症性疾患の頻度が増えてきました。「転居や入院をきっかけに、急に認知症が出てしまって……」といったお話をよく聞きますが、認知症が急に発症することはまれです。慣れた場所で知った人たちと普段どおりの日常生活を送るには何ら支障がないわけですが、入院などで急に大きく生活環境が変わってしまうと、それがきっかけとなって水面下にあった認知症状が表面化するわけです。そして認知症には特効薬がないので、対症療法から始めることになります。その人やご家族の生活まで面倒を見ることになりますから、医療だけではなく介護の多職種を含めたプロフェッショナルな医療と介護のハイブリッド・チームが鍵となります。
地域での介護サポートについても教えてください。
先ほどお話しした「見る」「診る」は介護にも使います。介護保険においてもご利用者さまの心と体のケアはもちろん、その人の日常生活の面倒を見ますし、さらには家庭介護者であるご家族の方々まで見ています。介護保険サービスの指揮者にあたるのがケアマネジャーで、介護計画の作成だけでなく医療、保健、福祉などとの調整も行います。長年通院されてきた患者さんを最期まで診て差し上げるためには多くの場合在宅医療を導入しますが、この時必要な医療とケアのハイブリッド・チームを動かすためにはケアマネジャーが不可欠な存在になります。これからも、ケアマネジャーを中心とした介護のプロフェッショナルと協力し合って、地域包括ケアを推し進めていきたいと考えています。
医療・介護連携で最期の看取りまで
医師を志したきっかけを教えてください。
医師を志すきっかけは兄の闘病生活を目の当たりに見てきたことと、当時父が学校長を務めていた公立盲学校における体験にあります。生まれながらに視力に支障がある生徒さんには先天的な身体障害や知的な発達遅延などを合併されることが多く、幼児から小・中学生、成人に至る多くの方々が寮生活を送っておられました。日常生活には養護教務員や介護・看護者らによるケアやサポートが常に必要で、寮長を兼任していた父は時には泊りがけで寮生の生活も見ていました。実は最近気づいたのですが、その時に体験したことと、今私たちがしていること・しようとしていることには、大きな共通点があります。つまり、病気だけを、人だけを見るのではなく、その方々の生活をケアすること・サポートすることは、父の場合と同じ意義があるんですね。盲学校とその寮で経験したことが私の奥深くにあり今に結びついていることは、やはり感慨深いです。
それだけ大きな影響を受けられたのですね。
一般的な学校は通学してきた生徒さんを教育するところですが、盲学校とその寮生活はまったく異なる世界でした。特に寮生の生活を24時間サポートしている養護・介護者の方々の献身的なご努力には強く心を打たれました。彼らはケア、あるいはサポートを必要とする人たちと強い絆でつながっています。これらのことは、自宅における看取りをも視野に入れた在宅医療の在り方に大いに通じるところがあると確信しています。看取られる人と看取るご家族らと十分なコミュニケーションを重ね、医療者と介護者も確立された信頼関係の中で最期のその時を自然なかたちで迎える。こんな看取りが、当該者にとってもご家族の皆さまにとっても最も望まれるところではないかと考えています。
今後の展望についてお聞かせください。
一つは他科クリニックとの連携をさらに深め、「ちょっと診てほしいんだけど……」と言える相互関係の構築に努めたいです。1人の患者さんを最期まで診ていくには、1人の医師だけでは難しい。重度な床ずれでは皮膚科、骨折は整形外科、転倒して頭を打った時は脳神経科、他にも目や耳・鼻の病気など介護に必要な科目は多いため、診診連携は常に重要です。認知症においてもMRIを導入されている脳神経外科クリニックでお世話になったり、反対にがん末期の患者さんの緩和ケアをお引き受けしたり、こうした多科連携が今後地域包括ケアの核になってくると思います。もう一つは息子夫婦による診療を常勤体制にして、私が在宅医療に専念できる展開を考えており、訪問介護・看護サービス、在宅緩和ケアやホーム・ホスピスにも力を入れていきたいと考えています。