大前 隆仁 院長の独自取材記事
おおまえホームケアクリニック
(尼崎市/塚口駅)
最終更新日:2025/02/17

阪急神戸本線塚口駅北口から徒歩5分のマンションの1階に「おおまえホームケアクリニック」はある。その名のとおり、訪問診療を柱にするクリニックだ。院長の大前隆仁先生は、内科の総合診療で研鑽を積んだ後、緩和ケアを専門に定め、神戸大学大学院で医学博士号を取得。地域で数少ない緩和ケアのスペシャリストとして、患者に寄り添っている。同時に、東洋医学の知見を生かした漢方診療にも注力。専門の外来も開設している。病気だけでなく、社会背景なども含めて心身両面から患者全体を診ることを心がけ、「生活の現場で、一人ひとりに合う診療を提供したい」と語る大前院長に、同院の診療の特徴について話を聞いた。
(取材日2024年1月4日/情報更新日2024年12月9日)
豊富な緩和医療の経験を生かし、地域で在宅医療を提供
まずは先生のご専門について教えてください。

医学生時代は、東洋医学の講義をきっかけに、漢方診療ができる医師になりたいと思っていました。ただ、師匠と仰ぐ先生から、「患者全体を診る漢方診療を行うには、まずは全身をしっかり診られるようになるべき」とご指導いただいたのです。それで、東洋医学と内科系の総合診療、それぞれの科がある兵庫県立尼崎病院に入職し、内科疾患全般を診る、ER総合診療科に配属されました。5年目の時、内科系の中で特定の分野について専門性を深めるカリキュラムがあり、そこで私が選んだのが「緩和ケア」でした。もともと緩和ケアチームに携わり、もっと専門的に学びたいと思ったことが理由です。当時を振り返ると、東洋医学だけに限定せず、緩和ケアも取り入れた医療をやっていこうと決断したことは、私の人生における分岐点でしたね。
緩和ケアのご経験を積んでから、こちらに開業されたのですか?
はい。緩和ケア病棟があった宝塚市立病院で研鑽を積んでから、神戸大学大学院で学び、緩和ケアの分野で医学博士号を取得しました。勤務医として経験を重ねながら、専門家向けの勉強会にも参加するなど、この地域でも数少ない緩和医療専門の医師だと自負しています。もともとここは、在宅での緩和医療や看取りをしていた先生のクリニックがあり、勤務医時代に、病院で担当した患者さんをご紹介させていただいていました。そうしたご縁から先生が引退される際に私が引き継ぐ形で、2022年に当院を開業した次第です。
こちらのクリニックの特徴を教えてください。

当院では緩和ケアを行う訪問診療を軸に、外来診療にも対応しています。こうした体制としたのは、先代院長から引き継いだ患者さんをしっかり診療したかったのと、漢方診療を行う外来を開きたかったのが理由です。加えて、必要性が高いのが緩和ケアの外来。患者さんの中にはいきなり訪問診療ではなく、まずは外来に通い、通院が難しくなったら在宅に切り替えたいという方も少なくありません。外来があれば、そうしたニーズをくみ取り、将来を見据えた診療ができると考えました。また、病院で積極的抗がん治療を受けていらっしゃるがん患者さんに対して副作用マネジメントなど支持療法も行えれば、その後の緩和ケア主体のフェーズへも切れ目なく移行できるはずです。一方で「緩和ケア=がん患者の方のケア」と考える人も多いのですが、それだけではありません。地域のかかりつけ医として、がん以外の慢性疾患がある方の訪問診療にも尽力していきたいです。
総合診療の視点を緩和ケアに生かし、患者の心身に配慮
緩和ケアを行う上で、大切にしていらっしゃることは何ですか?

患者さん一人ひとりに焦点をあてると、当たり前のことですが、まったく同じ方はいらっしゃいません。例えば痛みのコントロールでは、それぞれに適切な量の医療用麻薬(オピオイド鎮痛薬)の投与に努めるなど、個別性や安全性に配慮し、身体と心の両面において病院同様の緩和ケアとなるよう配慮しています。高いスキルを持つ医師や看護師のメンバーとともに、これからも患者さんの状態を多角的にとらえて診ていきたいですね。小さなチームではありますが、皆で同じ目標に向かって何でも言い合える環境です。意思疎通がうまく図れる強みを生かし、迅速な対応につなげています。
緩和ケアを行う上での、先生の強みを教えてください。
日本内科学会総合内科専門医の資格を持ち、総合診療の研鑽を積んできたことが緩和ケアにも生かされていると思います。体の一部だけでなく、全身をトータルに診て判断することができるのが私の強みです。例えば、患者さんが認識されている主訴の裏に、予期せぬ疾患が隠れているかもしれません。そうした疾患による痛みや苦しみを早期に発見することができたら、患者さんご本人はもちろん、そのご家族にも安心していただけるのではないでしょうか。そもそも私は、人を臓器ごとに診るというより、人として患者さん全体を診ることに興味があり、緩和ケアの道に進みました。つらい中にも希望を持てる医療を提供できることが緩和ケアの魅力です。持続可能な診療体制を築き、患者さんが笑顔になって満足してくださるような医療を提供できたらと思います。
漢方の外来については、どんな方がいらっしゃいますか?

不定愁訴にお困りの方が多いですね。あえて西洋医学にあてはめるとすれば、心身症や自律神経失調症と診断されるような症状です。当院に来る前にいろいろと検査を受けたけれど、「異常はない」「心配いらない」と言われてくる方が少なくありません。東洋医学には、患者さんの全体をとらえ、心と体を分けずに一緒に診るという視点があります。この視点は、緩和医療や心療内科とも通ずるところがあるように思います。そうしたことから、実は心療内科にも興味を持ち、日頃の診療の中で意識して経験を積んできました。公認心理師の資格も持っていますので、身につけた知見を患者さんのために役立てていきたいです。
医師・看護師が支え合うチーム医療を重視
スタッフ間のチームワークを重視していらっしゃるそうですね。

ええ。当院には在宅看護に精通した常勤看護師が在籍しており、「患者さんのために自らできることを見つけてほしい」と日頃から伝えています。なぜなら、医師にもできることが限られているからです。例えば、それぞれの専門性をフルに生かして自ら医師にアドバイスをくれるくらいが理想ですね。そのために、上下関係のないフラットな関係を築き、一人ひとりが主体的に動ける環境づくりを心がけてきました。そもそも訪問診療は、患者さんの「生活の場」で行うもの。医師の指示を待つのではなく主体性を持って看護をしたいという人には、やりがいがあるはずです。また、24時間体制を継続する上で、今後は夜間対応にも耐え得る「若い力」も加えていけたら。ただ、緩和ケアには一定の専門知識や経験値も求められるため、病院勤務の経験が豊富なスタッフが理想的です。もし私たちと一緒に成長してくれるような若いスタッフが来てくれたら、院内も活気づくでしょう。
今後の展望を教えてください。
開業から2年間。ひたすらに走り続けて来ましたが、「外来ではなく訪問診療の患者さんを増やしていく」という当初の理想の入り口には到達できた、と感じています。今後は地域の中での役割を安定して全うできるよう、診療の質にも量にもこだわりたいですね。クリニックとしての地盤が固まらなければ、新しいことにもチャレンジできませんから。そしてもう一つは、地域の緩和ケアの質を底上げすること。なぜなら、私自身が直接行える緩和ケアにも限界があるからです。当院だけでなく他の医師や看護師のスキルも向上することができれば、地域全体で患者さんにアプローチできると考えています。そのために今、地域で協力して訪問診療や緩和ケアが行えるよう、医師会での普及活動に取り組んでいます。医療と介護を含めた多職種連携や協同がフラットに行える環境を整えたいですね。
最後に、読者や地域の方にメッセージをお願いします。

患者さんが笑顔になれる医療、つらい状況の中で少しでも希望を持って過ごせる診療を行いたいといつも思っています。大変なときにこそ、患者さんやご家族が無理をするのではなく、訪問診療のことを知り、ぜひ利用していただきたいですね。クリニックやご自宅という、患者さんの生活に近い場所で診療を行うだけに、フィールドに入れていただくという謙虚な気持ちを持ちつつ、一人ひとりに合った医療を提供します。チーム各自の専門性を融合することで、特に支持治療や緩和治療、終末期ケアにおいて貢献できると思います。いただいたご縁を大切にしながら全力で臨みますので、お困りのことがあれば何でもご相談ください。