日野 浩志 院長の独自取材記事
日野メンタルクリニック
(大阪市此花区/西九条駅)
最終更新日:2025/07/09

大阪環状線・阪神なんば線の西九条駅から徒歩1分にある「日野メンタルクリニック」は、病気を本当に治したい人を本気でサポートするために奮闘するクリニック。院長を務める日野浩志(こうじ)先生は、哲学や社会学への興味から精神科を選び、勤務医時代には精神科だけでなく内科や終末期ケア、救急対応や入院患者の全身管理など幅広い臨床経験を重ねてきたという。当時を振り返って「当時は厳しく叱られることもありましたが、この頃の経験が私を医師にしてくれたのかもしれない」と日野院長は目を細める。現在はうつ病や不眠症、統合失調症など、さまざまな悩みを抱えた患者の声に熱心に耳を傾け、時に優しく時に厳しく、本音でぶつかりながら患者の人生に寄り添う。そんな同院の診療の特徴や精神科医としてのポリシーを日野院長に語ってもらった。
(取材日2025年6月23日)
医師になる資格があるのかと悩み続けた高校時代
まずはこの場所にクリニックを開業した経緯から聞かせてください。

私は此花区の出身で、区内の小・中学校を卒業しました。その後、お隣の西区にある市岡高等学校に進学。通学時には西九条駅を利用していましたので、この辺りは私にとって多感な時期を過ごしたなじみのある場所なんです。大阪環状線と阪神なんば線が乗り入れる便利のいい場所でもありますし、「西九条なら開業しても大丈夫」だと思っていました。実際に開業してみると、地域にお住まいの方だけでなく遠方から足を運んでくださる人もとても多いので、この場所を選んで良かったなと思っています。現在は主婦、会社勤めの方、学生さんやお年寄り、そのご家族など、さまざまな世代や疾患の方が受診されています。
先生が医師になろうと思ったきっかけは何だったのでしょう。
親族に医療関係者がいるので、母に強く勧められました。「医師になりたい」と自分で選んだというより、半ば強制的でしたね(笑)。そういう経緯で医学部受験を決めたので、高校時代は「自分のように医学に対する熱い思いのない人間に、医師になる資格があるのだろうか?」と悩み、深い罪悪感を抱いていました。ところが医学部に入ってみると、医療に対して意識の高い学生はいたものの、私ほど真剣に思い悩んできた人はいませんでした。それで肩の力が抜け、「これまで罪悪感を持って悩んできた経験そのものが、自分が医師になれる資格なのかもしれない」と考えられるようになりました。その後は生涯の師と呼べるような先生方との出会いもあり、医師として医療の道を真っすぐに歩いてきたと思います。
精神科を選択したのはなぜですか?

私は数学と物理が好きで医学部に合格できたので、自分のことは理系の人間だと思っていました。しかし、大学で哲学や社会学の講義を受けると、これが本当に面白くて。完全に文系の学問の面白さに目覚めたんですね。それに、医学関連の講義でも、生物学より精神病理学や精神現象学が好きでした。ですから「自分には外科ではなく精神科が向いている」と早い時期に見定めたんです。精神科は人の心を診る診療科で、それはすなわち「一人の人間の人生の物語」をひもといていく診療科であると考えています。患者さんが精神科にたどり着くまでには、喜びや悲しみ、苦しみ、不安のもとになっているストーリーが必ずある。私はその一つ一つをとても美しく、尊いものだと感じています。だからこそ、丁寧に読み解き、その人らしく人生を生き抜くサポートができたらと考えています。
心の叫びに向き合い、症状の改善をめざす
大学卒業後は、勤務医として経験を積まれたそうですね。

三重大学を卒業した後は、大学病院に1年間勤務し、三重県内の精神科病院で働いていました。当時の職場の先生方は優れた臨床医ばかりでしたから、精神科だけでなく内科や終末期ケアまでさまざまなことをたたき込まれました。救急の当直で一晩に10人近い入院に対応したこともありますし、病棟での終末期ケアへ走って向かうことも日常茶飯事でした。時には厳しく言われることも多くありましたが、失敗して恥ずかしい思いをするのも、自らを成長させる糧だと思うと頑張ることができました。大変ではありましたが、気管挿管や抗生物質の選別など、内科的な全身管理も一通りできるようになり、医師として成長できた日々だったと思います。今は内科的な治療は行っていませんが、この頃の経験は今も診療に役立っています。
クリニックの診療方針についてお聞かせください。
物事の本質を見極め、根本的な治療を行うことを大事にしています。例えば「不眠」。これはあくまでも症状であって、病気そのものではありません。ですから単純に眠らせようと睡眠薬を処方してもなかなか改善しません。大切なのは不眠を引き起こしている「病気」を見つけ出してアプローチすること。うつ病で興奮があって眠れない患者さんには、興奮を鎮静するために抗うつ剤を用います。不安が強くて眠れない場合には、抗不安薬を用いて不安な気持ちを楽にしてあげることをめざします。「眠れない」ことに注目するのではなく、眠れなくなった「原因」を見つけ出すことが私たち精神科の臨床医の仕事。最終的には薬を飲まないほうが楽な状態にまで持っていくことが目標です。
お薬の処方にもこだわっているのですね。

私は依存性の高い薬はなるべく使用しないようにしていますし、投与が必要な場合にはその薬の特性をしっかりとお伝えしてから使うようにしています。患者さんの中には、依存性について理解しないまま長期服薬した結果、断薬したくてもうまくいかない人が少なからずいらっしゃいます。たとえ同じ病気だと診断されても、必要な量や種類は人それぞれ違います。お一人お一人に向き合い、本当に必要なものを見極めてから投薬しなくてはいけないと強く思っています。私は患者さんの病気を治したいと本気で思っています。自分らしく自分の人生を生きていけるように、患者さんの心が叫ぶ「怒り」や「寂しさ」、「不安」にしっかり向き合っていきたいと思います。
患者の人生という物語を本気でサポートしたい
高齢者の認知症は、どのように治療されていますか?

認知症の診断は問診を重視しています。認知症だと診断されていても認知機能には問題なく、実はうつ病が原因で周辺症状が出ていることもあります。まず、本当に認知症かどうかをしっかり見極める必要があるんです。また認知症の治療では認知機能そのものの低下である中核症状と、周辺症状をしっかりと分けて治療を進めることが大切です。中核症状の治療は非常に難しいのですが、物を取られたという妄想、徘徊、不機嫌、せん妄などの周辺症状は、合うお薬が見つかればかなりの改善が見込めます。実は中核症状と周辺症状は必ずしも比例していませんから、強いせん妄で受診された患者さんでも、中核症状が軽ければ自宅に帰って生活できるようになります。
うつ病の患者さんについてはいかがですか?
近年は、若いうつ病の患者さんが増えていると感じます。非定型うつ病や新型うつ病、うつ状態といった、古典的な薬では治療が難しいうつも増えています。現代は人間の本能からかけ離れた暮らしをしなくてはいけませんから、不安になったり苦しくなったりしてしまうのも無理はありません。患者さんには人間の本能についての話をよくするのですが、話を聞くと安心してくれる人も多いんですよ。また親子関係がうまくいかず、そのせいで自己肯定感がうまく育たなかったり、自己犠牲の精神が強くなりすぎたりすることも。そんなときも、なぜ今の状態が起きているかを精神臨床学の観点からお話ししています。私はどんな人が相手でも本音で話しますし、依存関係をつくらないように厳しくするときもあります。すべては患者さんにとって何が最良かを考えて判断し、行っています。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

高校3年の時の数学の先生が言った「数字だから客観的だと思ってはいけない。数字にはそれを出した人の欲望と偏見が含まれる。その数字にどんな意味があるのか、自分の頭で考えなさい」という言葉、また私の師匠からずっと言われてきた「検査ばかりしてデータだけを信じ、人そのものを見ないようなやぶ医者になるな」という言葉。この2つの教えは、今私が医師として歩む指針になっています。私が尊敬してきた先生たちのように、私も患者さんの美しい人生の物語を読み解ける精神科医でいたいと思います。本当に病気を治したいと考えている人がいれば、本気で向き合い、本気でサポートします。一人で苦しまず、まずは初回の予約を取っていただければと思います。