福本 素由己 院長の独自取材記事
今川クリニック
(大阪市福島区/福島駅)
最終更新日:2025/06/02

大阪市福島区にある「今川クリニック」は心療内科・精神科・脳神経内科を扱い、近畿2府3県から数多くの患者が訪れる。院長の福本素由己(もとゆき)先生は、前院長の今川正樹先生の手法を継承しつつ、認知症、発達障害、睡眠障害、適応障害、不登校、思春期の問題、抑うつなど患者のさまざまな要望や悩みに対応。栄養学からの視点も含め、さまざまなアプローチを行っている。積極的に論文を熟読し、新薬の情報を取り入れつつ常に研鑽を積むと同時に、患者の心や知識を理解するためにSNSや動画サイトなどからの情報収集も怠らない。個人的な趣味の中からも患者に役立つツールを発見するほど患者への思いやりを忘れない。そんな熱心に取り組む福本院長に詳しい話を聞いた。
(取材日2025年3月14日)
認知症や思春期専門の外来など幅広い年齢層が受診
先生はなぜ精神科の道に進まれたのですか?

小学校の高学年の時に心理テスト番組を観て心理学に興味を持ち、相手の行動や特性からどういう心理で犯罪に至ったのかを分析する心理捜査官に憧れたのがきっかけです。現在は科学捜査がかなり発展していますから、心理捜査官への道は挫折して良かったかもしれません(笑)。それでも心理学への興味は捨てられずに医学部へ進学したのですが、研修医時代の初期は医学界の花形である外科をめざしていましたが、大阪大学で認知症とアルツハイマー病の領域を研究されていた恩師の先生と出会ったことから、精神科の道を志すようになりました。
どんな患者さんがいらっしゃいますか?
前院長の今川正樹先生が20年以上前から認知症予防に注力していたことから、認知症の患者さんは多いですね。また私は大阪大学で統合失調症と思春期の患者さんの研究をメインとしていたので、院長就任後に思春期専門の外来を開設したのですが、最近は受診される方が増えています。働く世代の患者さんもたくさんいらっしゃいますし、幅広い年齢の患者さんを診ていますね。それぞれの患者さんが抱えているさまざまな悩みや問題にふれる際に、私のこれまでの経験や、日常生活の中で起きた良いこともつらいことも、すべて診療に生かせるという特性があるのが精神科だと思っているのですが、そう考えると少し特殊な分野なのかもしれませんね。
精神科と聞くと気軽に行きづらいのですが、どんな時に受診すれば良いのでしょうか。

世代によってケースは異なりますが、どの年代の方にもお話しするのは「しっかり眠れて、おいしい物を食べて、体を動かして、趣味を楽しんで、できればその余力で勉強や仕事ができれば理想的だね」ということです。特に「眠れない」「食べられない」「趣味を楽しめない」の3つは、心に大きな影響を与えてしまいます。皆さんつい軽視してしまいがちですが、これらはすべてうつ病の診断基準に入っているほど重要なことです。この3つに心当たりがある時が受診のタイミングといえるでしょう。また精神科の場合、初回にご家族のみが相談に来られることは保険診療外になってしまいます。なかなか難しい問題ではありますが、まずは不調を感じているご本人の意志で受診していただくことが肝心です。
独自のアプローチ法で認知症や思春期・働き世代に対応
クリニックの方針を教えてください。

今川先生は、抗認知症薬に頼らずに、アルツハイマー型認知症の原因物質とされるアミロイドβを脳内で増やさないという観点から、脳の血管の炎症、栄養不足、芸術と精神の関係などに着目したアプローチ法を取り入れていました。現在はそこに私独自の視点も生かしてぬり絵や計算、漢字の練習なども組み込んでいます。当院独自のアプローチ法は、易しいものから難しいものまで、ご家族と一緒に考えられるものを用意しているのでコミュニケーションツールとしてもご活用いただいています。私が院長になってからは、思春期専門の外来や働く世代のうつ病、発達障害など、見えないストレスを抱える人たちの言葉にできない叫び、悲鳴に応えるべく取り組んでいます。特に思春期の子どもたちの診療にあたっては、興味を同じくするために、普段から若い世代に人気の動画サイトやゲーム、アニメまで常に幅広くアンテナを張ってお話のきっかけをつくるようにしています。
認知症に関してはどのような治療を行っているのでしょうか。
当院ではMCI(軽度認知障害)の段階から治療を開始します。MCIの自覚が出てから1年間で10~30%の方が認知症に進み、かつ診断から5年で約半数の人が認知症になる可能性があるという報告があります。ですから早めの対応としてMCIレベルを維持する取り組みと、認知症になってから進行速度を緩やかにするための取り組みの両方が重要と考えています。介護を続けるのは大変なことなので、その期間を短くすることはご本人やご家族にとって非常に重要です。認知症治療では血液検査をして高血圧、糖尿病、脂質異常症などがあればそちらの治療を行いつつ、薬物療法を行います。必要に応じて運動、栄養指導、芸術を用いたアプローチも行いながら、幅広い観点をもって進めていきます。またご家族の方がご自身の人生を楽しみながら無理のない介護を続けられるために、専門のスタッフが公的資源の活用の仕方まできめ細かく指導していくのも当院の特徴です。
睡眠障害にも対応されていると伺いました。

睡眠の質が悪く、よく眠れているつもりでも実はしっかり眠れていないというのが、睡眠の問題では多く見られます。主な原因は2つあって、一つは特に30~60代に多い睡眠時無呼吸症候群です。こちらの場合は適切な医療機器を用いた治療を行っています。もう一つは動画配信など24時間退屈しない社会状況が整っていることです。理想の睡眠に必要なのは、就寝1時間前には準備をして、眠くなってから布団に入るというスタイルですが、今は布団の中でスマートフォンを操作する方も多いと思います。まずはその意識を変えていかないといけないのですが、時には患者さんの状態に応じて漢方などの薬剤を処方していきます。
心の診療に栄養と遊びを取り入れていく
こちらでは栄養学の観点からも指導をしてくれるそうですね。

心の問題で食べ物のアドバイスをする先生は他にはあまりいないかもしれませんね。実は前任の今川先生が20年も前に論文を出されていて、私はその観点に感銘を受けて師事させていただき、結果としてクリニックを引き継ぐことになりました。栄養の観点というのは認知症だけでなく、全年齢の方に大事なことです。しかしこの分野は身近で興味があるがゆえに情報が古かったり、エビデンスが薄いものが広がりやすいので、やはりわれわれ医師がしっかりとエビデンスの研鑽を積んだ上でしっかりお伝えすることが大事だと考えています。特に思春期のお子さんでは亜鉛不足が問題になっているため、指導とサポートを実践しています。また腸内細菌のバランスも重要なのでそういった観点にも着目しています。
スタッフの皆さんも親切で優しい方ばかりですね。
現在当院では10歳くらいから、中高生・大学生、社会人、100歳までの患者さんにご来院いただいています。幅広い年代の診療をして認知症、思春期、ワーキングパーソン、スポーツ精神医学など複数を専門としているかなり珍しいクリニックなので、スタッフにも大きな負担がかかっていると思うんです。その中で看護師・公認心理師・社会福祉士・事務スタッフの笑顔を絶やさない対応には、いつも感謝しています。またぬり絵を掲示する展覧会なども、院内で催して明るい雰囲気づくりをしてくれていて、自慢のスタッフです。
最後に今後の展望を聞かせてください。

私の個人的な趣味でもある麻雀は口と手を同時に動かすので頭のトレーニングに有用とされ、最近では「健康麻雀」として60~80代の女性に人気があるんですね。またもう一つの趣味であるボードゲームも、思春期のコミュニケーションツールとして役立ちそうな気がしています。今後は医師の知識や経験を各所とコラボレーションすることで広めていきたいとも考えています。