木内 千暁 院長の独自取材記事
木内女性クリニック
(西宮市/西宮北口駅)
最終更新日:2024/02/26
女性の体と心を診療する「木内女性クリニック」。2001年に木内千暁(きうち・ちさと)院長が開業した、女性のためのクリニックである。日帰り手術をはじめ、超音波や内視鏡を使った検査など、患者負担の少ない治療や検査に力を入れるだけではなく、更年期の抑うつの症状や思春期の摂食障害などメンタル面を重視した診療など幅広く対応する。木内院長1人でクリニックを立ち上げ、自身が仕事と子育ての両立や更年期の不調などのさまざまな困難を乗り越えた経験から、当事者のつらさを知った上でのアドバイスやカウンセリングを行う。「人のために生きる」ことをモットーに患者の人生に深く長く寄り添う診療を心がける。「私はややこしい人が好き」と話す木内先生にたっぷりと話を聞いた。
(取材日2024年1月9日)
女性のために役立てる医師をめざして
産婦人科の医師をめざしたきっかけや、これまでのご経歴を教えてください。
産婦人科の医師になろうと決めたのは大学時代です。「もし自分が患者だとして、女性の医師に診てもらえたらうれしいのはどの科だろう」「女性がかかる科なら、女性の医師がいたら喜ばれるのではないだろうか」。こうしたニーズを考えて産婦人科を選びました。私が医師になった頃は、産婦人科に限らず女性の医師が珍しい時代。医師としての仕事に忙殺される中私は結婚と出産を経験したのですが、時代的にも産前産後休暇や育児休業を取ることが難しく、ブランクを空けざるを得ない状況でした。それでも、子どもが少し大きくなったらすぐに仕事に復帰しました。パルモア病院という周産期医療を専門とする病院に勤め、帝王切開や分娩に多く携わりました。患者さんの中には、妊娠・出産を通して精神的な悩みを抱える方も多く、さまざまな症状の方が来院されていましたね。
精神的な症状のある方も来院されていたのですね。
いわゆるマタニティーブルーや育児ノイローゼと思われる方も来院されていました。精神科と連携して対応していましたが、診療が難しいんです。精神科で処方される薬の量が多いと母乳に影響があり、赤ちゃんに母乳があげられず余計に悩む方。症状が重く母子分離を促され、赤ちゃんと離れたくないと戸惑う方。そのような悩みを抱えた患者さんをどうにか自分で診られないだろうかと思い、パルモア病院に勤めながら大学病院の精神科へ研究生として通いました。精神医療を勉強したことで、メンタル面を重視したじっくりと患者さんに向き合う診療が必要であると感じたんです。女性の医師である私が女性のために役立ちたい、女性の体も心もすべて診たいという思いから開業に至りました。
こちらでは、どのような診療を行っていますか?
月経異常、更年期障害、性感染症、不妊治療など、婦人科診療全般に対応し、日帰り手術も行っています。子宮内膜症の日帰り手術が行えるよう、内視鏡の機械を導入しました。従来の方法ではある程度の痛みを伴いましたが、これを用いた場合手術中も術後も痛みの大幅な軽減が期待できます。もちろん念のために麻酔をかけて行いますから、安心して手術を受けていただければと思います。導入のきっかけは、これまで入院が必要だった治療が日帰り手術でできることになったから。今後も患者さんのために、負担が少ない治療はどんどん取り入れていきたいですね。また、子宮頸がんの精密検査であるコルポスコピーも実施しています。異形成のレベルが高くなった場合には、高周波メスによる焼灼蒸散まで当院で一貫して行えるようになっています。
体も心も診療するクリニック。人生に長く深く寄り添う
治療する上で、大切にしていることは何ですか?
たくさんの検査をしてから診断する方法もありますが、私はどちらかというと、検査は数を絞り込んだ上で行います。患者さんが何を要望しているか、しっかりとカウンセリングすることで実施する検査の数をできるだけ少なくして、ポイントを定めた治療を大切にしています。その理由は、無駄な費用はかけないほうがいいと思うのと、医師としての誠意ですね。もう1つ当院が大事にしているのが、できるだけ同じ医師のもとで診療することです。当院には複数人の医師がいますが、どの先生も初診時に段階を踏んだ治療計画を考えるものなんです。診療の方向性にブレが出ないように、また患者さんの安心のためにも、できるだけ最初に診察した医師が引き続き診るようにしています。
クリニックの特徴を教えてください。
当クリニックは患部だけを診るのではない産婦人科をめざしています。女性の心から体の中まで全部を診る、メンタル面の診療も重視した産婦人科です。ですから、患者層もいわゆる産婦人科に来院される患者さんとは異なります。更年期の抑うつの症状、摂食障害による無月経、DV、結婚後に性交ができない悩みなど、訴えに応じてカウンセリングでお話を伺っています。女性というのは、いろいろ大変なんです。一人ひとりの人生に深く関わってぐっと入り込むことも、ケースによっては強く意見を言うことや諭すこともありますよ。お薬を出すだけの治療ではなく、共感性を持って励まし合いながら、「ここに来ると元気になる」と言ってもらえるような対応をめざしています。
産婦人科の枠を超えた診療をされているのですね。
そうですね。私自身、太っていたこともありますし、運動をしすぎて激痩せしたこともあります。そこから無月経、更年期障害、骨粗しょう症、骨折などいろいろな経験をしました。つらい時期もありましたが、これらを経験したことで女性の総合的な医療のアドバイスができるようになったと前向きに捉えています。どこも悪いところがないのにつらくなることもあると思うんです。それは「老化」かもしれませんが、老いていくことは自然なことですから、これでいいんですよ。老化を受け入れましょうと患者さんには伝えています。自分が元気なら体を壊さない程度に好きなことをどんどんやって、楽しく生きていきましょう。お酒だって楽しく飲んでいいし、多少太っていても健康ならいいと私は思っています。
いつまでも人の役に立てる存在でありたい
マラソン大会の救命ボランティアもされています。その原動力はどこから?
これまでの20年以上、100回近くのマラソン大会に救命ボランティアとして出場してきました。救命ボランティアはマラソン中に倒れた方の心肺蘇生を行うため、出場者と同じようにコースを走らなくてはいけません。正直なところマラソンを続けるのはそろそろ体がつらいのですが、それでも役割があるというのはうれしいことじゃないですか。私のモットーが「人のために生きる」なんです。長く健康でいるために自分のできる範囲でどういったことをすればいいか、自分自身も体験して、それを患者さんへのアドバイスに生かしています。頑張っている自分を見てもらって、「私も頑張ろう」とか「背中を押された」と思ってもらえたらうれしいですね。
オンライン診療やウェブ問診の導入など、クリニックのアップデートも積極的ですね。
オンライン診療は、一時的に転勤した人など通院できなくなった患者さんに利用いただいています。近隣以外も他府県や海外の患者さんも受診されていて、今後は災害時にも活用していければと思います。ウェブ問診は初診でも再診でも活用しています。患者さんがお越しになる前から、どういった悩みか、現在飲んでいるお薬、これまでの既往歴などもわかるので助かっています。例えば、患者さんの訴えが更年期相談であっても、現在の症状に生理不順がなくめまいがひどいのであれば、先に耳鼻咽喉科の受診を勧めたり、膀胱炎の訴えで必要な検査が先にわかっている場合には、診療の前に検査を済ませていただいたりと、スムーズな診療に役立っていますね。
クリニックの展望や先生のこれからについてお聞かせください。
当クリニックは産婦人科ではありますが、体のことも心のことも気軽に相談できるかかりつけ女性クリニックでありたいですね。将来的には私のノウハウを副院長へ引き継ぎ、私は健康管理、栄養指導、運動指導などの健康相談を行いたいです。ますます出産年齢は上がるでしょうから、当院の保健師や助産師にも協力してもらって、母子のための育児教室や、マラソンの経験を生かした体操教室もいいかなと思っています。いつまでも何か人のためにできることをしていきたいです。いつか私が寝たきりになったときも、入院して隣のベッドで寝ている人の脈を取りながら「私も寝たきりだから大丈夫よ」なんて励ませる役割があればいいなと思っています(笑)。