清水 千鶴 先生の独自取材記事
清水小児科医院
(世田谷区/駒沢大学駅)
最終更新日:2025/04/24

世田谷区上馬の静かな住宅街にある「清水小児科医院」は、清水寛子先生が1962年に開院、今年で62周年となる。現在は娘である千鶴先生と夫の清水浩信先生が中心になって運営する小児科クリニックだ。カーペットが敷かれた明るい院内に靴を脱いで上がると、まるで友人宅を訪れたかのようなリラックス感が広がる。動物の描かれた壁紙、小さな子ども用トイレ、赤ちゃんがハイハイをして一人で診察室に入って来られる小窓など、子どもの視線に立った工夫が院内の随所に施されている。「子育ての一瞬一瞬を大切に、丁寧に向き合ってほしい」と語る清水千鶴先生に、現在の診療について聞いた。
(取材日2024年9月20日)
子や孫の世代を迎え、町の小児科医院として診療を継続
歴史ある小児科医院なのですね。

母が1962年に開設し、60年以上診療を続けています。当初は近くで開院したそうですが、私が生まれたタイミングでこの場所に移って自宅兼医院に。娘としても診療する母の姿を身近に育ちました。診療時間が短いのですが、これはお昼休みの間に母が家事をして、私と過ごす時間をつくっていたため。診療時間になるとまた母は医師の顔になっていたのが印象に残っています。現在は外来診療の大半は私が担当。同じく小児科医の夫・浩信先生とともに、運営にあたっています。2019年に院内はリフォームしましたが、母が使ってきた木製の机はそのまま残しており、訪れる方に「懐かしい」と言っていただくこともあります。
長く通い続けている方が多いのでしょうか。
小児科の対象は赤ちゃんから中学生くらいまでが基本ですが、この辺りは二世帯住宅も増えており、小さい頃に通ってくださっていた方が親になってお子さんを連れて来られることはよくあります。「この子のおじいちゃんも来院していた」という方がいらして驚いたこともあります。親御さんやお子さんが一人で子育てや日常の悩み相談に来られることもあります。診療する時間よりも相談を受けている時間のほうが多いかも知れません(笑)。母は何十年もお子さんを診ており、私もそこそこの臨床経験を積んできました。どうしても「今」に集中してしまいがちな子育て中にこそ、長い目で見て「大丈夫」と言ってもらえることが、悩み多き親御さんにとって助けになるのかもしれません。
主な診療内容を教えてください。

町の小児科ですから、風邪などの感染症による発熱や嘔吐・下痢、頭痛、腹痛といった症状の診療が中心です。また、赤ちゃんの便秘や湿疹、あせもといった皮膚症状も多く診ています。大学病院勤務時に皮膚科診療も経験しており、その際に恩師から受けた教えが診療に生きています。皮膚のトラブルは目に見えるだけに毎日気になりますから、私たち医師もできるだけ早く改善に向かうよう、いろんな手を尽くしています。また、浩信先生はアレルギーが専門で、気になる症状が本当にアレルギー由来のものであるか否かの判断を含め、信頼できるクリニックとも連携しながら診療しています。健康診断や予防接種も行っており、赤ちゃんの発育・発達や育児の相談をお受けすることも。時には、下にきょうだいが生まれた子の赤ちゃん返りを相談されることもあります。
子ども本位を基本方針に、具体性を大切にした診療を
診療方針をお聞かせください。

基本的に「子ども本位」であることです。これだけは譲れない方針とし、時には親御さんに厳しくあたってしまうことも。例えば、発熱や下痢があった場合、検査で特定の感染症が見つからなければ登園や登校を良しとする医師もいます。しかし、そうした対応で状態が悪化し、さらに長い療養が必要となることも。当院では発熱は解熱後24時間平熱が続くまで、下痢は良いうんちが2回出るまで、集団生活に戻ることはNGとしています。共働きが増えた中で難しいことだとは思いますが、子どもたちのことを最優先に考えてお話ししているのです。また、具体性を大切にしており、下痢や湿疹などの目に見える症状が出ている場合は、スマホなどで写真を撮ってきていただくようにお願いしています。治療上も、例えば胃腸症状後の食事は「具なし茶碗蒸しや白身魚を」、軟こうは「顔がテカテカ光るくらい塗る」など、具体的に指示するようにしています。
院内処方をされているのですね。
具合の悪いお子さんを連れてあちこち移動するのは大変だろうと、母の代から院内処方を続けています。薬局での感染を避ける意味でも、調剤中の待ち時間でお子さんの自然な様子を観察する意味でも院内処方が良いと感じています。在庫の管理は浩信先生が担当なのですが、供給不安が続く中で、必要な薬を切らさない努力をしています。また、後発医薬品も多岐にわたる中で、新しい薬の導入を検討する際には、必ず味見をして、従来品と比較して過度な苦味がないかなどをチェックしてくれています。眼科や耳鼻咽喉科、皮膚科、整形外科、脳外科など、時に患者さんをご紹介する必要があるクリニックについても、必ず自分で受診して納得した先のみに絞ってリストアップするなど、さまざまな面で診療の質向上に貢献してくれています。
院内感染の予防として取り組んでいらっしゃることはありますか?

2019年のリフォームはちょうど新型感染症が流行し始めた時だったので、感染症が疑われる患者さんのための入り口を別に設けました。また、午前と午後にそれぞれ1時間ずつ、予防接種と健康診断専用の時間枠を設けて対応しています。子連れの通院では、親子双方の体調や天候に左右されることもあると考え、思い立ったら来ていただけるよう、基本的に予約制は取っていません。来院された順に対応するかたちです。ただし、一部には予約して来たいという要望もあるので、初診の方と発熱症状がある場合のみ、事前にご連絡いただくようにしています。浩信先生と私で近隣での園医・校医を複数務めており、流行データが把握できるのも強みです。エリアの感染コントロールにも貢献していければと考えています。
観察と傾聴をベースに、経験則にも基づく見立てを提示
診療の際に大切にしていらっしゃることは何ですか?

お子さんの様子をよく観察し、親御さんの話をじっくり聞くことです。医療は日進月歩で進化を続けていますが、やはり医師の経験に基づく「勘」ともいえるものが鍵となることも多く、そのためには観察と傾聴が欠かせないと感じています。母は「預言者」と呼ばれるほど、お子さんの少し先が読めるんです。お子さんの顔色が良くないのを見て「今夜あたりから熱が出るかも」と言ったり、逆に「大丈夫、もう安心」と言ったり、また入園前の健診時に「最初の一年は立て続けに病気をもらって大変だから覚悟して」と伝えたりなど、それがことごとく当たるのです。経験則に基づく見立てなのですが、良いことも悪いことも包み隠さず伝えることが、不安を抱えがちな親御さんを支えることにつながります。当院では来院された患者さんを最初に見る受付も、浩信先生が担当していますから、来院時の様子からトリアージして対応することも可能です。
今後の展望があれば教えてください。
むやみに手を広げるようなことはせず、今までどおりの診療を続けていければと考えています。子どもたちにとっての病院は決して積極的に行きたい場所ではないかもしれません。それでも、「行くのが嫌」と言われないクリニックでありたいと思います。これも母の代からの想いにより、私たちも白衣を着ず診療しています。また、浩信先生チョイスの絵本やおもちゃをたくさん並べ、時期ごとに入れ替えるなど、楽しく過ごしてもらえる院内づくりに注力しています。「帰りたくない」という子や、通りすがりに「寄っていきたい」という子もいてうれしい限りです。
読者に向けて、一言メッセージをお願いします。

子育ては、その時、その一瞬に限られた特別な時間です。お仕事などでお忙しいことは重々承知していますが、お子さんの一瞬一瞬に、丁寧に向き合っていただきたいと思います。抱き癖なんてものはありませんから、できる限り抱っこしてあげてください。外来診療ではもちろん、診療を離れた時間でも、お子さんの誕生から卒業までの成長や変化を見られることに、大きな喜びを感じています。皆さんのことをわが子のように思い、常に「自分の子だったら」を考えながら診療しています。困ったことやわからないことがあれば、お気軽にご相談ください。