上野 隆生 院長、大畠 清香 さんの独自取材記事
上野歯科医院
(世田谷区/上野毛駅)
最終更新日:2021/10/12

下町風情の残る上野毛の地で30年間、地域の人々の歯の健康を守ってきた「上野歯科医院」。院長の上野隆生先生は、歯が生える前の新生児から高齢者までを幅広く診療する、気さくな雰囲気の歯科医師だ。近隣住民のほかクチコミで地方から通院する人も多く、予約は2ヵ月半先まで埋まっている。また、近年は新生児の発育アドバイスにも力を入れ、歯科衛生士の大畠清香氏が専門で担当。抱っこやおんぶの仕方、寝かせ方、授乳の仕方など、日常生活に密着したアドバイスを行っている。「全身から口腔を診る」ことを大切にする2人に、診療方針や診療内容に加えて、新生児の発育のアドバイスやデンタルエステについても話を聞いた。
(取材日2018年9月20日)
他院でも「良い治療をしていた」と言われる治療を
こちらの院長に就任されるまでの経緯を教えてください。

【上野院長】もともと上野歯科医院は、父が東京の杉並で開業していましたが、1989年にこちらに移転してきました。移転後も地方から患者さんが訪れるほど、信望の厚い父でしたが、僕が大学4年生の時にがんを患い他界してしまったんです。その後、僕が一人前になるまでという話で、姉夫婦がこのクリニックを引き継いでくれたのですが、2人には「自分たちのクリニックを開業する」という夢があったので、僕もそうゆっくりはしていられない。大学を卒業して数年間、他院で経験を積み1996年にここの院長となりました。今思えば大変なスタートでしたが、院長になって学ぶことはたくさんありましたし、歯医医師という仕事をつらいと思ったことは一度もありません。
どのような患者さんがいらっしゃいますか?
【上野院長】新生児から高齢の方まで幅広いです。当院の大きな特徴は、歯がまだ生えていない新生児も診療するということ。歯が生える前から、正しいおしゃぶりの仕方や授乳法を意識することで、歯並びはもちろん、脳の発達にも影響が考えられます。その辺りの発育・発達のアドバイスを行うことが最近は増えています。
【大畠さん】「歯の治療で苦労をしたので、もうつらい思いをしたくない」という方が紹介でいらっしゃいます。地域密着型のクリニックですが、東京都23区のほか、神奈川県、千葉県、埼玉県、遠いところでは福岡県などから、新幹線・バス・飛行機で通われている方もいるようです。ただ最近は2ヵ月半先まで予約で埋まっているので、「すぐに治したい」という方のご要望にお応えできないことを心苦しく思っています。
診療で心がけていることを教えてください。

【上野院長】これは26年間変わらない思いですが、これまで診ていた患者さんが出張や転勤でほかの歯科医院にかかった時、「前の先生は良い治療をしていたね」と言ってもらえる治療を心がけています。そのため、転勤で地方に行かれている方が飛行機に乗ってまで治療に来てくれたり、福岡県にお住まいの方が帰省を利用して来てくれた時は、「僕の治療が評価されたのかな」とうれしくなります。また、患者さんの希望に対して「できない」とは言いたくないので、常に海外の文献をチェックし、治療法の引き出しを増やすようにしています。1つの症状に対して、常に2、3の解決法を用意することで、患者さんの希望に沿った治療を提供していきたいですね。
子どもの発育・発達のアドバイスにも熱心
新生児の発育のアドバイスに力を入れていらっしゃいます。具体的にどのようなことですか?

【大畠さん】抱っこやおんぶの仕方、寝かせ方、授乳の仕方、離乳食の与え方など赤ちゃんに関することすべてです。例えば、おっぱいの吸い方でも歯並びに影響しますし、抱っこの仕方で精神状態にも影響があるといわれています。最近のお母さんがよくする対面の抱っこは、人や車など動くものを目で追う力が育たず、成長した時に「文字を頭の中で読めない」「授業中に歩き回る」といった行動につながる恐れがあるんです。今は一人で子育てをするお母さんが増えているので、そんな生活に寄り添ったアドバイスを行うようにしています。
こちらで行っているデンタルエステについて教えてください。
【大畠さん】精油を使用し、デコルテから上の筋肉・リンパ・皮膚に対して行うマッサージです。40代以上の方の利用が多いですね。また、最近は舌がんや乳がんの患者さんも増えています。舌がんはマッサージや舌の体操を行うことで、嚥下や会話がしやすい状態を促します。はれやひきつれに悩む乳がんの方は、胸鎖乳突筋にマッサージを行います。近隣の大きな病院から、手術や治療後のケアとして紹介でいらっしゃる方も多いですよ。近年、医療技術の進歩でがんの治癒率も変わってきたものの、生活の質の低下に悩む方が多いので今後も続けていきたいですね。
患者さんの心のケアも大切にされているそうですね。
【大畠さん】そうですね。例えば小学生になると家族に言えないことも出てくるので、「何かあった?」と聞くようにしています。言いづらそうな子には「私の秘密を1つ話すから○○君も1つ教えて」というふうに聞くこともあります。そうすると「実はいじめられてる」「こんなことに悩んでる」と心を開いてくれるんです。そのときはいろいろお話しをして「ここは1年中開いているから困ったときはいつでもおいで」と伝えています。また、当院には一人暮らしの高齢の方も多くいらっしゃるので、歯のことに限らず「何か変わったことがあったら電話してくださいね」とお話ししています。悩み事や病状を話せる相手、相談できる場所があるということが、きっと心の支えになると思うんです。
長先生は、子どもに対する接し方で意識していることはありますか?

【上野院長】「自分のかわいさが通用しない人間」も小さい子には必要なので、診療中は怖いです(笑)。ただ、治療が終わった後は膝をついて、その子の目線に合わせてハイタッチをすることもあります。慣れてくると1、2歳の子でも、お母さんより先に診察室にトコトコと入ってくるようになりますよ。ちなみにハイタッチはコミュニケーションの一環ですが、その子にどれくらいの力があるか、腕がちゃんと上がるかなどもチェックできるんですよ。
歯の治療だけでなく、患者の心に寄り添うケアを
お二人がこの仕事に就こうと志したきっかけを教えてください。

【上野院長】父も一番上の姉も歯科医師だったので、中学、高校の頃から「自分もこの道に進むのかな」と感じていました。ただ、父は僕が大学生の時に他界したので、歯のことについて話したことはありません。自分が親父を超えているかどうかもわからない。きっと今もまだ親父を超せていないでしょう。そういう気持ちで、ずっといたいと思っています。
【大畠さん】家族が歯科医師なので、私も歯科医師になりたかったんです。でも試験に合格できず、歯科衛生士の道へと進みました。当初は歯科医師になりたいという思いが強かったのですが、地域に密着したこのクリニックで、赤ちゃんの発育・発達に関するアドバイスや、患者さんの心に寄り添ったケアを行うことに大きなやりがいを感じ、この道に進んで良かったと実感しています。
休日はどのようにお過ごしですか?
【上野院長】最近は、家で映画や録画したテレビ番組を観ていることが多いですね。容量が3テラバイトあるディスクが、あと少しでいっぱいになるほど撮りためています。そのせいもあって、ありがたいことに20代のスタッフと話が合うんですよ。よくテレビ番組の話題で盛り上がっています。
【大畠さん】神社仏閣が好きなので、仕事の合間に巡っています。先日もセミナーの後に比叡山に行ってきました。夏休みや冬休みには、3日間ほど神社仏閣巡りの旅に出ています。
今後の展望についてお聞かせください。

【上野院長】これまでと変わらず、ほかの歯科医師に見られても恥ずかしくない治療を続けていきたいですね。また、これは僕の一つの夢ですが、マイクロスコープを使った精度の高い治療も行いたい。ただ、一人ひとりの診療時間がさらに長くなる上に、趣味の世界に入りそうなので周りから止められています(笑)。
【大畠さん】これからも目の前の患者さんをしっかりと診ていきたいと思っています。また、保育園や幼稚園での講演、専門家の勉強会やセミナーなどで、子どもの発育や発達に関する情報を発信していきたいですね。