田中 啓広 先生、野澤 宗央 先生の独自取材記事
桜新町アーバンクリニック
(世田谷区/桜新町駅)
最終更新日:2024/07/31

地域のファミリードクターをコンセプトに、2000年に開院した「桜新町アーバンクリニック」。外来診療と在宅訪間診療、デイサービスを提供するのが大きな特徴。それぞれのチームが連携を図り、患者の病気や年齢に応じて、専門性の高い医療を実践している。家庭医療を専門とする田中啓広先生を中心に、患者の小さな悩みや些細な不安もすくい上げる同院。「何でも相談にのる」ことをモットーに、子どもから高齢者まで幅広く対応し、家族で来院する患者も多い。今後は、認知症専門の外来を強化していくという。話を聞いた田中先生と、認知症の外来を担当する野澤宗央(もとひろ)先生は撮影中もにこやかに談笑し、チームワークの良さが見られた。そんな2人に、同院のコンセプトや診療する上で心がけていることについて聞いた。
(取材日2023年7月19日)
家庭医療を専門に、外来、在宅医療、デイサービスも
クリニックについて、ご紹介ください。

【田中先生】当院は、内科、小児科、心療内科を標榜する地域密着型のクリニックです。外来診療だけでなく、在宅医療やデイサービスも提供し、幅広く専門性の高いチーム診療を行っていることが特徴です。そのため、家庭医療、在宅医療、呼吸器、循環器、認知症を専門とする医師がそれぞれ在籍するほか、看護師、社会福祉士、理学療法士、作業療法士、ケアマネジャー、薬剤師など、専門的なスタッフがそろっています。また、家庭医療を専門としていることも当院の特徴です。
家庭医療とは、聞き慣れない分野です。
【田中先生】イギリス、アメリカなど諸外国では身近な存在ですが、日本ではまだ浸透していないかもしれません。年齢、性別、病気の種類を問わず「どんな症状の相談にも乗れる」というのが家庭医療です。内科や小児科を中心に、皮膚科、整形外科、心療内科などすべての健康問題の初期対応の窓口となります。0歳から高齢者まで、さまざまな年代を診ることができるため、家族で通う患者さんも多いです。当院には、お子さんは予防接種や風邪などの急な体調不良、中高年以降はこれらに加えて高血圧・脂質異常症・糖尿病といった生活習慣病などのご相談が多いです。そのほか、足腰の痛み・しびれなどの日常的なケアで来院される方や、健康な方には病気の予防や再発防止なども行っています。精神的なことや排泄に関することなどの相談しづらい問題、めまい、首の腫れといった、どこに相談すればいいのかわからない時などにも、ぜひ頼っていただきたいです。
「どのような症状にも対応してくれる」というのは心強いです。

【田中先生】地域の方たちにとって「困ったときの相談窓口」になりたいと思っています。どのような症状でもまずは診察して、対応できないものは連携している病院へ紹介する手配をスムーズに行います。患者さんのお困り事は、治療ではなく生活支援で解決が図れることも少なくありません。足腰が弱かったりふらつきがある高齢の患者さんで、リハビリが適当と判断される事例などには、介護保険サービスにつなげるために「地域包括支援センターに相談してみては」とお勧めすることもあります。患者さんやご家族を総合的にケアすることも当院の特徴ですから、病気だけでなく生活への影響も含めた診療やアドバイスをしています。
認知症専門の外来を強化し、患者と家族をサポート
診療する上で、心がけていることを教えてください。

【田中先生】患者さんは、不安、心配、希望などのさまざまな気持ちを抱えて受診されます。そのため、コミュニケーションを大切にし、ご希望に沿った治療やケアをすることを心がけています。まずは、症状について思いあたるきっかけがないか、治療や検査について希望があるかなどを、しっかりと伺うようにしています。また、病気の説明を丁寧にして共通の理解を持ち、一緒に治療プランを考えることも重要だと思っています。例えば、健診で糖尿病を指摘された方の場合、「なぜ血糖が上がったのか」を確認し、「間食するから」「運動しないから」といった原因の一端をひもときます。一方的に治療法を指示しても、生活習慣の改善につながらなかったり、治療を途中でやめてしまったりすることがあるからです。患者さんご自身に原因を理解していただいた上で、治療について考える姿勢を持ってもらい、一緒に治療計画を立てることが大切です。
クリニックでは、認知症専門の外来に力を入れているそうですね。
【野澤先生】物忘れの外来で、認知症の症状を専門的に診ています。認知症とは、さまざまな原因で脳細胞がダメージを受けて、記憶力や判断力などに障害が現われ、生活に支障が出る状態です。初期の症状は、直前にしたことを忘れる、同じ話を何回もする、以前はできた料理や買い物に手間取る、お金の管理ができない、周囲の出来事に関心を示さなくなった、趣味などをする意欲がなくなった、怒りっぽくなったなど。「いつもと違う」といった程度でも良いので、心配になったら受診することをお勧めします。当院の患者さんの年齢層は、60代の手前から90代まで幅広いです。ご家族からの相談も増えています。
認知症の主な原因とは?

【野澤先生】代表的なのは、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症などです。とはいえ、原因となる症状は70種類以上あるといわれています。原因を調べるために、採血検査や心理検査などを中心に、外部施設へ委託して脳の画像検査を行うこともあります。原因がわかったら、内科の医師、看護師、社会福祉士、栄養士、理学療法士、作業療法士などと相談し、薬物療法や、運動機能回復のリハビリテーション、栄養指導など、患者さんに合ったアプローチを展開します。さまざまな方法をミックスしてチームでサポートできるのは、当院ならではと言えるでしょう。今後は、認知症の患者さん同士が交流を持って、お互いをサポートし合う「ピアサポート」活動のシステムづくりも考えています。
どんな些細な症状でも気軽に相談を
認知症の治療で、大切なことを教えてください。

【野澤先生】認知症は、徐々に進行していきます。壊れた脳細胞を元に戻すことはできないので完治は難しいですが、進行を緩やかに抑えるための手立てはあります。早い段階で原因を探って治療につなげれば、改善も見込めます。物忘れがあると、「年だから、受診しても仕方ない」「よくあること」と、本人も家族も思ってしまいがちです。しかし、投薬やリハビリテーションなど、受診が早いほどできることはたくさんあります。認知症治療は、社会問題との関連もあり進歩がめざましい分野なので、先進の情報を提供しています。また、悩みを抱えがちなご家族向けに、「家族支援プロジェクト」も用意しています。家族が知識を深めて無理のない介護ができれば、患者さんの負荷も減るでしょう。怒りっぽくなったり、変な妄想をしたりするなどの周辺症状を減らすことにもつながると思います。
外来診療以外の部門とは、どのように連携していらっしゃいますか?
【田中先生】例えば、外来診療の患者さんが高齢になるにしたがって、だんだん通いづらくなってくることがあります。そのような方を外来診療の医師が在宅訪問診療チームに情報提供しながら、良いタイミングで訪問診療に移行できるように連携を図っています。在宅チームには医師、看護師の他、ケアマネージャーや相談員などが在籍しており、多職種が関わりながら在宅医療を支えます。クリニック内の短時間機能回復デイサービスでは、ケアマネジャーがそれに近い役割を果たします。また、世田谷区内では当院を含めてグループクリニックが3つあり、入院、もしくは外科的な治療が必要といった場合は連携をとることが可能です。各専門家たちが意見を出し合って、ふさわしい治療やケアを多角的な視点で考え、患者さんの希望に添った医療の提供に努めています。
最後に、読者へメッセージをお願いします。

【田中先生】気になることがあれば、どんな些細なことでも気兼ねなくご相談いただければと思います。症状によっては、治療をせずご自身で解決できることもあります。そのヒントを提供できることもあるので、「ちょっと聞いてみようかな」といった感覚で足を運んでみてください。「病気じゃないかもしれないけれど、気になる」といったところまで診るのが、家庭医療を専門とする私たちの役割です。小さな不安や悩みでもきちんと受け止めるので、一緒に解決法を考えていきましょう。