八木英一 院長の独自取材記事
八木歯科医院
(茅ヶ崎市/茅ケ崎駅)
最終更新日:2021/10/12
JR東海道本線茅ヶ崎駅北口を出てエメロード商店街を歩くこと約5分。白いビルの2階に位置する「八木歯科医院」は、1934年開業という歴史あるクリニックだ。現在は3代目の八木英一先生が院長を務める。院内は海をイメージさせるスカイブルーと白で統一され、車いすやベビーカーでも入りやすいように、ゆったりとした作りになっている。診療では、虫歯や歯周病などの一般歯科、小児歯科、予防歯科、審美歯科治療の他、訪問診療にも積極的に取り組む。「病状にあわせた治療法を提案・説明し、患者さんの理解と同意を得てから治療を行っていきます。」と“インフォームドコンセント”の大切さを語る八木先生。終始穏やかで落ち着いた語り口の中には、患者に対する優しさや地域医療への思いがあふれていた。
(取材日2014年12月18日)
開業から80年、「親切さ」を大切にした患者本位の医療を提供
1934年のご開業だそうですね?
はい。私の祖父が茅ヶ崎市十間坂に開設したのが当院の始まりです。祖父の逝去により父がクリニックを継承し、30年ほど前に現在の場所に移転してきました。私は1999年に日本歯科大学の大学院を修了し、伊勢原市と相模原市の歯科クリニックに勤務していましたが、2004年から当院で診療を始め、2012年に院長に就任しました。父から「歯科医師になれ」「跡を継いでくれ」と言われたことはないのですが、長男ということもあって子どもの頃から、自分も歯科医師になって跡を継ぐのだろうなという気持ちでした。もしかしたら気づかないうちに少しずつ洗脳されていたのかもしれませんが(笑)、歯科医師以外の道は考えなかったですね。子どもの頃はよくクリニックに遊びに行っていましたし、夜中に「痛いから診てほしい」と自宅に電話が入って、着替えて診療室へ出かけていく父の姿を見ていましたから、歯科医師は人のためになる仕事なんだと感じて、憧れていました。
実際に歯科医師になって、子どもの頃に抱いていたイメージとのギャップはありますか?
患者さんから感謝していただけるところは、今も昔も同じではないでしょうか。特にこの地域の患者さんは、本当に良い方ばかりでありがたいですね。患者さんが私を信頼してくださっていると感じるので、私も自然と「患者さんのためにベストを尽くそう」という気持ちになります。今後も患者さんとの信頼関係を大切にしていきたいと思っています。
先生の代になって新たに取り入れたことはありますか?
昔の歯医者さんは「治療は痛くて当たり前」といったこともあったかもしれませんが、今では治療のやり方も随分変わってきています。当院では「痛みの少ない治療」、「なるべく削らない治療」を心がけています。具体的には、例えば麻酔の際にはまず最初に塗り薬の麻酔を塗って歯肉をしびれさせたあとで、新鋭の歯科用電動麻酔注入器を使って一定の力でゆっくりと麻酔液を注入するといった工夫で、痛みを軽減することができます。父から患者さんを引き継いだ当初は「若先生、大丈夫なの?」という感じの方も多かったのですが、痛みの少ない、丁寧な治療をすることで「若先生も大丈夫だ」と思っていただけるようになってきたのではと感じています。
先生の診療方針をお聞かせください。
当院の一番の特長だと言えるのは「親切さ」だと思っています。いきなり「歯を抜きます」ではなく、まずは病状をご説明して、「こういう状態なので抜いたほうが良いと思いますが、どうしますか」と治療法を提案し、患者さんの理解と同意を得られてから治療する。”インフォームドコンセント”が大切だと思います。また、例えばホワイトニングなどの審美治療を希望される場合は、「とりあえず話だけ聞いてみたい」とご相談だけで来院される方もおられます。予防のために大切な定期的なクリーニングに継続的にいらっしゃっていただけるよう、患者さんと末永くお付き合いできるような関係を築いていきたいと思っていますので、患者さんに寄り添う診療を心がけています。
虫歯・歯周病治療とならび、予防歯科にも注力
どのような患者さんが多いですか?
父の代からずっと通院されている方も多く、さらに中には「あら、お孫さんね。おじいさんの頃から通っているのよ」という、患者さんもいらっしゃいます。その一方で、私の代になってからは若い患者さんも増えてきました。午前中はご高齢の方、午後は小さなお子さんとそのお母さん、夕方以降はお仕事帰りの方と、時間帯によって多い患者層は異なりますが、小さなお子さんからお年寄りまで、幅広い方が来院してくださっています。
ご相談内容で多いのは?
痛みのほか、「お口の中がむずがゆく違和感がある」、「歯磨きで出血した」というご相談ですね。疾患としては虫歯と歯周病が中心ですが、当院では予防歯科にも力を入れています。虫歯も歯周病も口腔内の細菌が原因で起こる感染症なので、何よりも「お口を清潔に保つこと」が大切です。そのためには正しいブラッシングが欠かせません。食事のあと、お口の中の食べかすだけ掃除して「スッキリした」というところで終わっている方が多いと思いますが、虫歯予防・歯周病予防を考えるなら、食べかすだけでなく細菌を除去する必要があります。
ブラッシングの仕方なのでしょうか?
そうですね。細菌を除去するには、歯垢を取り除かなければなりません。歯垢は食べかすではなく、口腔内の細菌が増殖してできた塊で、食事をしなくても歯に付着します。歯垢が付きやすい歯と歯茎の境目に歯ブラシをきちんと当て、デンタルフロスなどを使って歯と歯の間に溜まった歯垢を取り除かなければ、虫歯や歯周病を治療しても同じ状態に逆戻りしてしまいます。「一生懸命磨いているのに、虫歯ができてしまう」という方には、食べかすだけでなく歯垢を除去するためという歯磨きの目的をお話しして、毎日のブラッシングに加えて、自分では磨き切れない汚れを除去するためにクリニックでの定期的なクリーニングをお勧めしています。
患者さんの反応はいかがですか?
最初のうちは少し触れるだけで出血していた患者さんも、クリーニングを続けることで徐々にお口の状態が良くなっていきますね。「もう何年も虫歯の治療をしていないけど、きっとクリーニングに来ているからだね」とおっしゃって、メンテナンスの大切さを実感されている患者さんもいらっしゃいます。当院には診察台を4台設置しており、そのうち1台をクリーニング専用にしています。今後は歯科衛生士の人数を増やして対応していきたいと考えています。美容院に行く感覚で歯のクリーニングに通っていただけるとうれしいですね。
原動力は「困っている人の力になりたい」という思い
ところで、先生のリフレッシュ法は何ですか?
音楽が好きで、ジャズや洋楽、Jポップまでジャンルを問わず何でも聞いています。先日は、あるバンドのライブへ行って、飛び跳ねてリフレッシュしてきました(笑)。あとは観劇も好きで、好きな劇団の舞台をよく観に行っていますね。
訪問診療にも力を入れていると伺っています。
はい。父の代から車いすで通院されていた患者さんが多かったのですが、高齢になり通院が難しくなると、今度は訪問診療に切り替えて診させていただいています。認知症のある方だと会話が難しいことも多く、なかなかお口も開けてもらえないこともあります。その場合は無理に治療せず、最初は握手、次は腕や肩をマッサージ、今度は首や顎に触れるという具合に、だんだんとお口に近づいていくようにしています。私に慣れていただくところから始めて、少しずつ信頼関係を築いていくので時間がかかりますが、歯科医師としてのやりがいを感じますし、求められているのであれば全力で応えていきたいと思います。
最後に、今後の展望をお聞かせください。
これからの歯科医師は虫歯の治療や入れ歯作りだけでなく、「飲みこみ」についても診ていく必要があると思います。私も、大学時代の後輩で同じ茅ヶ崎市で開業している松井新吾先生が立ち上げた「茅ヶ崎食べたい気持ちを支える会」や、神奈川県の「摂食・嚥下障害歯科医療担当者研修会」に参加して、飲みこみに必要な筋肉を鍛える訓練法や、飲みこみやすい姿勢などを学んでいるところです。訪問診療の現場では「入院中に胃瘻になったが、家ではまた口から食べられるようにしてあげたい」「もう長くはないけれど、最後に好きな食べ物を食べさせてあげたい」といった依頼が増えています。今はまだ勉強している段階ですが、今後は「飲みこみ」に関するサポートもしていきたいですね。そのように困っている方々の力になることが、歯科医師として私が進む道なのかなと感じています。