内野大輔 院長の独自取材記事
内野医院
(横浜市青葉区/市が尾駅)
最終更新日:2021/10/12
のどかな風景が広がる横浜市青葉区。市が尾駅からバスで5分、目の前には田園風景が広がるのどかな地に「内野医院」はある。近隣にクリニックが少ないその地域で、祖父の時代から60年余り地域に根ざした医療を続けてきた。3代目となる内野大輔院長が医院を継いでからリフォームされた院内は、明るく清潔な雰囲気。ひっきりなしに出入りする患者たちはみな笑顔で、クリニックに寄せる信頼が手に取るようにわかる。テンポのいい会話で話し手の緊張をほぐしてくれる内野院長は、どんな些細な質問にも丁寧に答えてくれる気さくな先生。診療においても、不安な気持ちを抱えて来院した患者に、安心感を与えてくれることだろう。そんな内野院長に、開業医となることに迷いはなかったかと尋ねると、「地域医療こそが自分の道だと素直に思えた」と誇らしげな笑顔をみせる。地域に向ける深い愛情が垣間見えた瞬間だ。インタビューでは、「内視鏡検査に力を入れ、胃腸がんの早期発見に尽力したい」と語る専門医としての信念と、「患者一人をトータルに診られる“かかりつけ医”でありたい」と語る医師としての信条をたっぷりとお聞かせいただいた。
(取材日2014年3月10日)
「経鼻内視鏡」の利点は患者の負担を極限まで減らせること
消化器内科とはどのような診療科でしょうか。
消化器内科とは、胃腸、肝臓、膵臓、胆嚢など消化器の疾患に携わる診療科です。体の中でも扱う範囲が幅広く、患者さんの数も非常に多いのが特徴でしょう。僕のようなジェネラリスト(ここでは、総合的な内科診療をめざす一般医のこと。専門医はスペシャリストと呼ばれる)には向いている診療科なんです。僕が消化器内科を専門に選んだのは、研修時代に末期がんの方を担当したことがきっかけでした。その方が研修中に亡くなられて以来、「がんの早期発見」に強い想いを抱いています。胃がんや大腸がんというのは、しっかり検診をして早期発見できていれば、手遅れになる危険性はまずありません。なのに、未だにたくさんの人たちが手遅れになって亡くなられているんです。がんは、症状が出てから検診をしても、手遅れになる可能性が高い。自治体が検診を呼びかけているにも関わらず、あまり検診率は上がっていません。無症状の時から検診を促し、少しでも胃腸の検診の重要性を知っていただきたいと思っています。
がんの早期発見のために、内視鏡検査技術を特に勉強されてきたのですね。
そうなんです。僕の所属していた横浜市立大学第二内科の消化器グループは、まず基本のジェネラルをきちんと学んだ上で、自分のスペシャリティを持ちなさいという教育方針で、非常に僕の考え方に合っていました。そんな中で、出向先の一般病院に行って一般内科医として幅広い分野に携わったり、消化器内科医として専門性の高い検査や治療に専念したりと、様々な環境で経験を積むことができました。中でも一番力を入れていたのは、内視鏡検査やがんのスクリーニング検査でした。それは僕自身、大切にしたい分野でもありましたから、本当にいい勉強になりました。開業してからは、がんの早期発見のためにも、40代になって一度も内視鏡検査をしていない人には、検査をおすすめするようにしています。ただ、誰もが毎年バリウムや胃カメラを飲む必要はないんですよ。たとえば胃がん検診であれば、まずは血液検査でピロリ菌と慢性胃炎のスクリーニングをし、発症の可能性が高い方だけ胃カメラに回っていただくようにする。この手順での検査法はまだ全国に浸透していませんが、これからは主流になっていくと思いますよ。
「経鼻内視鏡」の利点はどんなところですか?
まず、鎮静剤の注射をしなくていいところ。経口内視鏡の場合も、必ず鎮静剤を使用するわけではありません。しかし、嘔吐反射の強い方は注射したほうが楽に検査することができます。ただ、鎮静剤の注射は体への負担が大きいんです。経鼻内視鏡の場合も、局所麻酔のゼリーを鼻から喉にかけて使いますが、これはあまり患者さんの負担になりません。また、経鼻の場合は、患者さんとお話ししながら検診ができるのも大きな利点でしょう。会話ができると、それだけでリラックスしていただけますから、内視鏡初心者の方には経鼻をおすすめします。一度内視鏡検査を受けて、問題がないと判断されれば、その後頻繁にカメラを飲む必要はありません。バリウム検査は年に1回くらいしておいたほうがいいですが、内視鏡は3年から5年に1回程度でいい場合が多いでしょう。ただしピロリ菌陽性者や慢性胃炎の方は、がんのリスクが高いですから、こまめな検診が必要になります。医師の指示に従って、きちんと検査を受けるよう心がけていただきたいですね。
地域密着のかかりつけ医として、オールマイティーな診療を大切にしたい
医師を志した時から、いずれはクリニックを継ごうと思っていたのでしょうか。
父とは歳が離れていたので、僕が医師になった時に父はもうかなり高齢だったんですよ。なので、当時は父の後を直接継ぐのは無理だろうと考えていました。でも、結局父が80歳まで診療を続けてくれたので、僕はそのままクリニックを受け継ぐことができました。もし父がもっと早くリタイアしていたら、僕は開業医にはならなかったかもしれません。だから、というわけでもありませんが、当時は勤務医を辞めるかどうか悩みもしました。でも、開業を決意した後は、「これこそが自分の進むべき道だ」と素直に思えたんです。僕は、ここで生まれ、物心ついた頃から地域の方と関わり、地域に貢献する父の背中を見て育ちました。誰にすすめられるでもなく自然と医師への道をめざしたのも、地域の方々との交流があったからこそだと思います。僕らの世代の医者は、ジェネラル思考より専門思考が強い傾向があるんですが、そんな環境で育ったからか、僕は専門思考の強い当時の医学教育制度に少々違和感を感じていたのだと思います。2年の研修医期間を終え、入局した頃にはジェネラリストとしての道を選択していました。その頃から、無意識に“かかりつけ医”を意識していたのかもしれませんね。
先生で3代目の院長だそうですね。
はい。祖父は明治生まれで、もとは軍医でした。第2次世界大戦が終わって地元に帰ってきた時、医師がいなかったこの地域に貢献するため開業したそうです。開業したのは昭和20年代後半だったと聞いています。生活習慣病という昔は少なかった病気が増え、患者さんの様子も変わりましたが、当然医師も変化してきました。祖父の代、父の代、自分とクリニックを受け継いできて、一番変わったと思うのは、患者さんとの接し方。昔は今ほど医療の情報が豊富ではありませんでしたから、医師が「この薬を飲むように」と言ったら患者さんも疑問に思いませんし、医師も細かく説明はしなかったと思うんです。僕が開業してから心がけているのは、患者さんに安心してもらえるよう「しっかりと説明すること」。例えば、とくに消化器内科の患者さんは、メンタル面で繊細な患者さんが多いように感じることがあります。それだけが理由ではありませんが、だからこそ余計に、患者さんにはわかりやすく説明して、安心して診療を受けていただけるよう気を配っています。同時に、診察の中では「患者さんの話を聞くこと」も意識しています。当たり前に聞こえるかもしれませんが、勤務医時代は膨大な数の患者さんを診るのが精一杯で、なかなか一人ひとりと向き合って話をすることができませんでした。それも開業の決め手になったと思いますね。今は患者さんの話も以前よりしっかりと聞いてあげられるので、開業して本当に良かったと思っています。
いろいろな葛藤があったのですね。
そうですね。例えば、お腹に異常を訴えて来られる患者さんは比較的、精神的な部分で具合が悪くなっている人も多いんですよ。そういう方は、まずしっかりとお話を聞いた上で、胃カメラなどの検査をして「大丈夫ですよ」と声をかけると、それだけで治ってしまう方もいらっしゃいます。何よりも患者さんの「不安」を取り除いてあげることが大事だと感じますね。血液検査でも、異常値があると過度に心配してしまう方がいますが、必ずしも病気があるわけではないんですよ。逆に、全ての値が正常の範囲内という方は少ないと思います。検査値はひとつの病気を発見する手がかりに過ぎないので、あまり神経質になりすぎず安心していただける言葉をかけるようにしていますね。
診療の中で最も大切にされていることを教えてください。
丁寧な説明をするのは大前提ですが、一番大事にしているのは、地域密着型の「かかりつけ医」であること。専門は消化器ですが、自分の専門性を前面に押し出すのではなく、患者一人をトータルに診られる医師でありたいと思っています。近隣の病院との連携も大切にし、専門性の高い診療が必要な方には、適切な病院と医師をご紹介できる準備を整えてあります。また、紹介した先できちんと処置していただいた後は、当院に戻ってきていただき、その後の経過を診るのもかかりつけ医の役目。その中でも例えば、寝たきりで地元に戻ってらした患者さんがいるなら、できる限り往診に伺わせていただきたいと思っています。他病院をご紹介した患者さんであっても、この地域にお住まいの方であることは変わりありません。最後の最後までお付き合いさせていただければ、うれしいですね。
今後の使命は「大腸がん検査」の重要性を広く伝えること
休日はどのように過ごしていますか?
2人の子どもがまだ小学生なので、一緒に過ごすことが多いですね。それ以外は、趣味のランニングをして過ごしています。ランニングを始めたきっかけは、ダイエットのためでした。開業した当初、ずいぶん太ってしまって、健康指導をする立場でありながら、これではダメだと思ったんですよ。そんな時、勤務医時代の同僚がマラソンをやっていて、「一緒に大会に出ませんか?」と言われて(笑)。中高ではバスケットボール部でよく走っていたので、できそうな気がしたんですよね。それで、その話をしてから2ヶ月後にハーフマラソンに出て、その後は5年間で8回フルマラソンを完走しています。フルマラソンは毎回つらいですが、完走後の達成感とみんなで飲むビールがうまくてやみつきになりました。ランニングは1時間もあれば気軽にどこでもできるのが魅力で、健康維持のためにもうってつけです。
患者さんへはどのような健康アドバイスをしますか?
生活習慣病の予防のため、ダイエットや運動療法をおすすめすることがあります。しかし、ただ予防方法をおすすめするだけだと、無理をしてしまう方が多いんです。2、3ヵ月で急に10kg痩せれば必ずリバウンドしますし、高齢者が急に運動すれば関節痛は免れません。ですから、長続きするような無理のない運動とバランスの良い食事を心がけていただきたいですね。
今後どのような診療に力を注いでいきたいですか?
大腸がん検査の受診率を上げたいと思っています。現在、とくに女性で大腸がん検査を受ける方がほとんどいらっしゃらず、受診率は10%そこそこです。これはあまり知られていませんが、女性がかかるがんの中で一番死亡率が高いのは大腸がんなんです。婦人科のがんに警戒心を抱いている方は多いですが、根拠もなく「大腸は大丈夫」と思っている患者さんが大多数。検査さえしていれば、まず手遅れになることはない病気ですから、そういった意味でもっと多くの方に検診を受けていただきたいと思っています。
最後に読者へメッセージをお願いします。
当院が大切にしているのは、地域密着型のクリニックとして、可能な限り幅広く対応すること。ちょっとした健康相談など、患者さんが気軽に相談に来られるクリニックをめざしています。内科、消化器内科だけでなく、他の診療科のことでもご要望があれば可能な限り対応させていただきます。また、専門的な治療が必要な場合は、適切な病院をご紹介いたします。この辺りは病院の数が多いので、どこを選べばいいのか、迷われている方も多いかもしれません。他病院との連携を密に取り、皆さんの不安を少しでも解消できるよう努力してまいります。一人で悩まず、何でもご相談に来てください。