三島 賢郎 院長の独自取材記事
三島歯科
(大阪市東住吉区/針中野駅)
最終更新日:2025/06/23

大阪を代表する商店街の一つ、活気あふれる駒川商店街が目と鼻の先。近鉄南大阪線・針中野駅から徒歩すぐの、昔ながらの住宅地にある「三島歯科」は、れんが造り風の落ち着いた外観が目印だ。院長の三島賢郎先生が目標とする医療は「口腔内の治療を必要としない」という状態。研修医時代に出会って感銘を受けた、アメリカの歯科医師ダリル・レイモンド・ビーチ氏が提唱する「pd診療」を取り入れ、自らが定義する“正確な診療”をめざして日々奮闘する。患者と二人三脚、理想の歯の実現に向けた予防をはじめとする取り組みについて、三島院長に話を聞いた。
(取材日2018年9月18日/情報更新日2025年6月6日)
求める“正確な診療”をめざして導入した「pd診療」
診療台がチェアではなくフラットなベッドタイプなので驚きました。

重力の作用の関係で、人の体は「横になる(寝ている)、真っすぐに立つまたは真っすぐに座る」という状態が最も安定するといわれています。この水平な診療台では、完全に仰向け姿勢の患者さんの後方に、術者が真っすぐに座ることができます。これはビーチ先生が提唱した「pd(proprioceptive derivation)診療」という、水平のユニットを使用した診療スタイル。安定した無理のない姿勢の組み合わせは患者・術者の双方のストレスが減り、また、私が求める正確な診療が実現できると考え、取り入れました。もう一つの大きな特徴は、「うがい」をするところがないこと。何度も起き上がってうがいをすることで多くの時間が使われます。診療時間を大切にするために、アシスタントが横にいて、口の中をきれいに洗うシステムになっているんです。
どういうきっかけで、pd診療をお知りになったんでしょうか。
大阪大学歯学部を卒業後、研修医として残った小児歯科ではベッドを使用していました。子どもは、大人用のチェアだと背もたれを動かすたびに頭の位置が変わるのが理由なんですが、小児歯科の先輩がベッドを使って行うpd診療を紹介してくれたんです。後にセミナーに参加した際、真っすぐ座ったままミラーを使ったら口の中がよく見え、処置はこの状態で行うべきだと思いました。その後の勤務医時代に、チェアを目いっぱい倒して試行錯誤しながらでしたが模型などを使って練習。それから開院に際して導入しました。
日本ではあまり一般的ではないようですね。

“座る”というスタイルの発想は、診療に必要な明かりがその昔は太陽光しかなかったことからといわれています。口の中を光源に向け、術者が体を折り曲げてのぞき込むしかなかったんですね。歯科が始まった当初より、こうした椅子タイプが用いられてきた長い歴史があり、広がるにはどうしても時間がかかるんでしょう。患者さんもまずは座るのが当たり前と思っているので、ベッドを前にして戸惑われる場合がありますが、ほんの最初だけです。仰向けのままで会話をしませんのでベッドは治療だけ、説明はカウンセリングルームへ移動して行うなど、処置と会話の場所を別々に設ける仕組みです。この使い分けは、歯科医院での治療が苦手な人にも安心感につながるようです。
正しい歯磨きと歯科医師の定期的サポートで予防を
診療の中で、特に予防歯科に力を入れておられるんでしょうか。

「処置の必要がない」というのが健康な口腔内の状態で、私の目標です。定期検診で問題が見つからず、日頃のお手入れでは落としきれない汚れを掃除する以外は“何もしなくて良い”というのが究極の理想です。とことん悪くなってから受診されると、どこの歯科医院でもそうだと思いますが、シンプルな治療では済まなないことが多く、たくさんの複雑な処置が必要になって、時間・費用がかかる割に、なおかつ元の良い状態に戻すようなことが難しく、治療後も状態の維持に手がかかります。できれば、悪くなったと自覚する前に、思い切ってチェックのために受診するのが長い目で見れば自分の歯の健康を維持するためのスタートになると思います。虫歯も歯周病も初期には自覚症状がないから。
歯の健康な人が増えると、歯科医院に来る患者さんがいなくなってしまうのでは?
虫歯や歯周病は「細菌」というよりは「歯垢」が原因として深く関わるので、歯垢をしっかり取り除けば、かなり防げる病気ということになります。ただ、皆さんの努力だけではどうしても難しい部分もあるというのが現実。それをサポートするのが歯科医師、歯科衛生士の役目であると思っています。
毎日しっかり歯磨きをしているつもりの方は多いと思うんですが……。
ペーストをつけた歯ブラシを、1~2分ゴシゴシ動かすことが歯磨きだと思う方がいますが、本来は歯垢を取り除くこと。日々の歯磨きとはまったく別物です。ペーストに含まれる成分の薬効は補助的な役割です。誤った歯の磨き方で歯や歯茎を痛めた方もおられます。歯垢を取り除くために、ご自分の歯の形状をよく知り、“狙い撃ち”して磨く必要があります。歯と歯茎の間や歯と歯の間の隙間など、どの歯にどの角度で毛先を当ててどう動かすのかを意識することが大切です。真剣に磨けば10分ほどはかかるでしょうね。歯間部はデンタルフロスが非常に重要です。誰でも指導を受け練習すれば、疲れることなくきちんと歯垢が取れるようになります。お口の中を見たときに気になる所があればすぐに指導したいので、患者さんには使用している歯ブラシをいつも持参してもらっています。
10分も磨くとなると、朝昼晩で実行するのは大変ですね。

歯垢を取り除くためのしっかりした歯磨きは、寝る前に行えば十分です。けれどそれを助けるために、簡単に汚れを落とす程度でいいので、毎食後こまめに歯磨きをするのがお勧めですね。それから歯垢などとは別に、口の状態、具体的に言えば唾液の量や質によっても虫歯になりやすい状態があります。口が渇きやすい人は要注意です。定期検診ではそうした口腔内の状況の把握やケアも行えるので、痛みなど自覚症状がなくてもぜひ検診に来てもらいたいです。
蓄積した診療記録をベースにした臨機応変なケア
定期検診について教えていただけますか?

まずは問診を行い、冷たいものがしみる等といった気になり始めた症状があれば、この時点で申告してもらいます。次にエックス線写真の撮影。情報量が多く虫歯の検出がしやすいといわれる咬翼法という撮影方法で、半年に1回程度で行います。口腔内の写真も撮り、虫歯、歯周病、噛み合わせの状態をチェックし、診査の結果を記録します。最後にカウンセリングルームで結果報告とセルフケアの指導。もし問題が見つかれば応急処置や以降の治療についての相談をする、というのが一般的な流れです。
きちんと定期検診を希望される方が多いそうですね。
そうですね。歯の健康意識が高い患者さんが多く、継続的に診査や治療の記録を残すことで経過を見守ることができます。年齢とともに、視力の低下や、リウマチなどで歯ブラシが持ちづらくなりうまく磨けなかったり、唾液が減ってきたり。どうやって歯を磨くのか、どのように維持していくのか、蓄積してきた個々の資料をもとに一緒に考えています。急患の電話があった際も、以前の記録を比較すれば何が起こったのか見当がつくので、スムーズな治療に役立てています。健康を維持できていると思っている方も、加齢による歯や歯茎の変化は起こります。エナメル質が摩耗したり欠けたりして歯の形が変わったり、ひびが入る、歯と歯の間に物が詰まりやすくなる等と、その変化は受け入れざるを得ないわけで、状況に応じて必要最低限の手当をし、無事に年を重ねていただきたいです。
読者へのメッセージをお願いします。

虫歯になれば治療する方がほとんどですが、「治して終わり」では、口の健康は守れません。お口全体の状態を知った上で、こういうことが起こっているんだとわかってほしいです。歯磨きの方法や食生活、生活習慣など、要因は人それぞれなので、「こんなことをしていませんか?」と思い当たる原因を伝え、対策を探るようにしています。それだけでは予防に直結しないため、患者さん自身が自分の主治医の一人になるという自覚が必要です。歯は年齢とともに残念ながら悪くなることが多いのですが、それを前提に早期対応することが大切です。症状が少ないうちに、チェックや適切なケアを始めてほしいです。開院して22年、これからも皆さんと一緒に気軽に相談できる「かかりつけ医」として地域に寄り添い、誰もが自分の口の中は自分で守るという意識を持つように働きかけ続け、私たちも主治医の一人として精一杯お手伝いさせていただきます。