高橋 英里佳 院長、川原 千鶴子 名誉院長 の独自取材記事
あかちゃんからのこどもクリニック宮前平
(川崎市宮前区/宮前平駅)
最終更新日:2025/06/10

患者として目にした医師の姿に憧れた子どもが、努力の末に一人前のドクターとなってクリニックを引き継ぐ……そんなストーリーが現実になった小児科医院がある。神奈川県宮前区、宮前平駅近くの「あかちゃんからのこどもクリニック宮前平」だ。地域に根差した小児医療を続けてきた川原千鶴子先生を名誉院長に迎え、子育てにも奮闘中の高橋英里佳先生が院長として刷新した。新生児からの小児科診療はもちろん、発達相談や偏食の外来、離乳食指導などの育児サポートも充実。高橋院長自身の子育て経験も生かし、「ちょっとした心配も気軽に相談できる場所」をめざす。世代を超えた信頼で結ばれた2人の医師による、温かな地域医療の現場に迫る。
(取材日2025年5月16日)
医師になる夢をかなえ、縁のある医院を継承
クリニックのなりたちと、リニューアルの経緯を教えてください。

【川原名誉院長】内科の開業医だった父の葬儀の際に地域の皆さんから「困った際に助けてくれた」との言葉をいただき、地域医療の温かさを肌で感じました。自身も地域医療に貢献したいと決意して、1993年12月に川原小児科を開業。そこに患者としてお母さんに連れられてきたのが英里佳さん、つまり高橋院長でした。
【高橋院長】小学1年生の時に宮前区に引っ越してきたのですが、それがちょうど開業されたくらいのタイミング。喘息もあってそこから頻繁に通院することになりました。
【川原名誉院長】小学3年生の頃かしら、「小児科医になります」と言いだして。「じゃ、いずれここを継いでくれる?」なんて冗談で話していたのですが、素晴らしい努力でこうして実現してくれました。
当時は互いにどのような印象をお持ちでしたか?
【高橋院長】当時の母は特に不安が強いタイプ。大切に育ててくれていたからこそですが、親の不安は子どもに伝わります。具合が悪くなると「また心配させてしまった」とつらく感じていましたが、ここに来ると母が元気になるんです。もちろん、私の心配もしてくださるんですが、親の表情から子どもの状態を推測して、親の不安へのフォローもしてくださる。喘息で各所通院しましたが、親の気持ちにここまで寄り添ってくださる先生はいないと子ども心に感じていました。
【川原名誉院長】当時からしっかりしたお子さんでした。年の離れた妹さんのために、おうちまで1人で走ってベビーカーを取ってくるなど、頼れるお姉さんの面も。医学部に入学してこの土地を離れてからも、帰省のたびに顔を出してくれて。夏休みには6年間アルバイトをしてくれました。
高橋先生は継承を視野に経験を重ねられたのですね。

【川原名誉院長】当時はまだ医学生なので診療には携われず、事務職としてでしたが、遊びたい盛りだろうに真面目に取り組んでくれていました。医師としても日本周産期・新生児医学会周産期(新生児)専門医の資格を取得されるなど、本当に頼もしい存在です。
【高橋院長】開業に向けて、1年間はさまざまな小児科クリニックで経験を積ませていただきました。育児サポートや乳幼児の睡眠に関する外来など、特色ある医療サービスを提供されているクリニックを選びました。いずれ医療的ケア児の訪問診療も手がけていきたいとの考えから、訪問診療も経験させていただきました。そこで培った経験と人脈は、当院にも生かせています。
新生児からの小児科診療に加え、育児サポートも充実
育児サポートにも注力されているとか。

【高橋院長】管理栄養士や理学療法士、作業療法士といった専門家を講師に、離乳食や発達を促す遊び、ねんね改善法などを教えていただく育児サポートクラスを開講しています。すべて、私自身が子育てをしながら「こんなのがあれば」と感じた内容です。靴の選び方や抱っこひもの正しい使い方などもあります。私も受講している親子クッキングクラスは、いわゆる台所育児を実践できる場で、整った環境で楽しみながら体験できるのが魅力です。
【川原名誉院長】子育て中の親御さんの悩みに応えるこうしたサポートは、どれも私が「いずれやりたい」と考えてきたものばかり。抱っこ一つとっても、改善することで子どものご機嫌が大きく変わります。高橋院長の人脈により専門家との連携がかない、こうしてかたちになりました。
診療についても詳しく教えてください。
【高橋院長】新生児から思春期まで幅広く診ています。NICU(新生児集中治療室)での経験から、低出生体重児や心疾患を持つお子さんなども診られます。発達に関する外来で染色体異常をお持ちのお子さんも多く診てきました。また、アレルギーの専門知識を持つ看護師や助産師もいるので、喘息やアトピー性皮膚炎の対応や授乳指導などにも対応可能です。子育て中の母親として親御さんの気持ちにも寄り添いながら、困り事をすべて相談できる場所にしていきたいと考えています。
【川原名誉院長】私が行う週に1度の外来では、漢方診療にも対応しています。育児中の困り事解消のため補助的に、「母子同服」といって母子で同じ薬を服用してもらうこともあります。
診療方針を教えてください。

【高橋院長】病名にこだわらず、困り事に寄り添うことを意識しています。インターネットで調べれば調べるほど不安になる方も多いので、ちょっとした悩みでも気軽に相談してもらえたらうれしいですね。
【川原名誉院長】やはり「顔の見える診療」ですね。赤ちゃんの時から見ていた子が、就職してからも会いに来てくれるなんてことも。そういう長い付き合いができる場所。病気を診るだけではなく、その子の人生を一緒に見守る。それが地域医療の醍醐味(だいごみ)だと思います。
地域の子育て拠点として、訪れる家族の人生を豊かに
少し特殊な院内設計ですね。

【川原名誉院長】開業当初から「すべての患者さんが感染源」という考え方で、個室にしてきたんです。診療を待つ間も、診療後に服などを整える際にも、時間や人目を気にすることがありません。
【高橋院長】感染症の流行時にも安心して受診していただけますから、リニューアルに際しても、個室スタイルはそのまま残しながら、ロビーの床や壁紙を一新。授乳室を整備し、ベビーカーが通りやすいドアも設けました。個室で動画を視聴できる環境を整えるなど、小さなお子さんと親御さんが安心して過ごせる空間をめざしました。
息抜きに楽しんでいらっしゃることはありますか。
【川原名誉院長】新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに動画配信などを観る機会が増え、「推し活」に目覚めました。ライブ参戦が元気の源になっています。現在の目標は推しの還暦ライブに行くこと(笑)。これがあるから頑張れます。
【高橋院長】2歳と4歳の子育て中なので、毎日朝から晩までバタバタ。そんな中では、たまに甘いカフェラテを買ってきて、夫とゆっくり飲みながら語り合う時間がささやかな癒やしです。旅行も好きなので、時には家族でグランピングに行ってリフレッシュすることもあります。
今後の展望を教えてください。

【高橋院長】偏食についての外来を始めました。お子さんの食事面で悩む親御さんはとても多く、なんとかしたいという思いからです。離乳食や偏食、食べすぎによる肥満の悩みなど、管理栄養士の先生と連携し、食べ方の姿勢や環境も含めてサポートしていきます。また将来的には、医療的ケア児の訪問診療も実現したいと考えています。あと、やはり診療で多くのお子さんと向き合っていく中で、自分のように小児科の医師をめざしてくれる子がいたらうれしいですね。
【川原名誉院長】昔めざした「地域の子育て拠点」の理想を、高橋院長先生がどんどん実現してくれています。子どもたちの成長を見守り、関わりが深まるのはうれしいもの。私が経験してきたそうしたたくさんの「うれしい」を、今後高橋院長にも味わってほしいですね。
最後にメッセージをお願いします。
【高橋院長】ここに来る人の人生を少しでも豊かにし、家族の皆さんが幸せになっていくのを見られたらと思っています。子育て中のモヤモヤを吐き出す場としても、病気のときもそうでないときも気軽に足を運んでください。
【川原名誉院長】昔は情報が少なかったけど、今は情報過多で逆に不安になることも多いようです。育児の悩みは時代とともに変わり、私などは子育て世代とはジェネレーションギャップを感じることもあります。対して、高橋院長はまさに同世代として寄り添えるのも強み。陰ながらサポート役となり、地域の子どもたちや子育て中の親御さんたちが、困ったときにふっと寄れる場所を守っていきたいです。