伊藤 中 院長の独自取材記事
医療法人 伊藤歯科クリニック
(茨木市/茨木市駅)
最終更新日:2021/10/12
阪急電鉄京都本線の茨木市駅から10分ほどのところにある「伊藤歯科クリニック」。吹き抜けの中庭がある院内は、自然光が優しく差し込む癒やしの空間となっている。院長の伊藤中(いとう・あたる)先生の診療モットーは、できるだけ身体への負担を抑えた治療。「かけがえのない天然の歯を失う負のサイクルを生まないために、メンテナンスこそが究極の歯科治療」と話す伊藤先生に、未来の歯の健康を見据えた歯科診療について話を聞いた。
(取材日2017年12月7日)
見えないところもこだわるプロ意識
中庭がすてきなクリニックですね。
ここから300mほど離れた場所で開業していましたが、2007年に今の場所に移転しました。やりたいことがいろいろあったのですが、そこでは設備の拡充ができないし、僕としてもテナントビルの一角ではなく、自分のクリニックを持ちたいという思いがあり、移転を決意しました。構想に1年ほどかけて、院内のレイアウトやデザインにはかなりこだわりましたね。明るく開放的な雰囲気にしたかったので、中庭を囲むように受付や診察室を配置して、院内全体に自然光が差し込むレイアウトにしました。キッズルームを完備しており、事前に予約をすれば専任の保育士が子どもを見ていてくれるので、お母さんも安心して治療が受けられます。2階は住居ではなく診療スペースになっていて、診療室や多目的ルーム、さらには専用の滅菌室を設けて、徹底した院内感染防止を行っています。
高度な治療機器が充実していますね。
精度が問われる治療を行うには、高性能な治療機器が不可欠だと考えていますが、それ以上に診療の効率化をめざしたいという思いが強くありました。保険診療であっても歯型をとる際の材料にこだわったり、ラバーダムや必要であれば歯科用マイクロスコープを使うことで、効率的に精度を意識した治療ができるようになりました。患者さんの見えないところにこだわる方針に、仲間の歯科医師から「自費と保険はちゃんと区別したほうがいい」と言われますが、設備や材料にお金をかけてでも、しっかりやるべき部分に時間を使いたいし、多くの患者さんを診れるメリットは大きいです。またこだわりの道具を使って匠の技を見せる、職人さんと同じような感覚もあり、力を尽くした治療を提供して、患者さんが満足してくれた時は「どうだ!」と心の中でガッツポーズしていますよ。
診療方針をお聞かせください。
一度、穴が開いたり抜けたりした歯は、元の状態に戻すことはできません。詰め物やかぶせ物を入れても、それは人工物を使って形を整えただけであって、根本的に病気を治すものではなくあくまで修復なんです。また、人の手で作ったものに永久に使えるものはありません。20歳で入れた詰め物が、60歳、80歳まで口の中でもつことがあればまさに奇跡であり、1度でも治療したことのある歯は、その後で何かが起こることを前提に経過を追っていく必要があります。本当の意味での「永久歯」というのは、何も手が加えられていない天然の歯だけなんですよ。虫歯が再発して再度治療が必要になれば、以前よりも大きく歯を削ることになります。天然の歯が失われていく負のサイクルを生まないためにも、根本的な原因を改善していき、治療が必要な場合は極力歯にかかる負担を抑えた治療を基本に、患者さんの歯と一生付き合い続ける覚悟で治療に挑んでいます。
メンテナンスこそ究極の治療
歯が悪くなる原因は何ですか?
虫歯や歯周病の原因となる細菌は、普段から口腔内にいる「常在菌」と呼ばれるもので、体調や生活習慣が乱れることで原因菌のバランスが崩れると、それらにかかるリスクが高まります。これは日和見感染症ということもできます。口腔疾患の厄介なところは健康と病気との境目がわかりにくいことです。そのまま放置したら3年先、5年先に歯周病に侵されるかもしれないし、もしかしたらすでに歯周病が進行していて、症状が出ていないだけかもしれない。そんな目隠しされた状況において、痛くなってから、歯茎が下がってきたから歯医者さんに行くのでは遅いんですね。常在菌とは一生の付き合いになりますが、そのバランスを崩さないよういかに上手にコントロールしていくかが重要になってきます。
そこで予防が大事になってくるのですね。
「予防」という言葉は、実は好きじゃないんですよ(笑)。歯科医師が触らずに済むための治療、つまりメンテナンスが必要なのです。もしも1億円払ってすべての歯が若返る治療を受けたとしても、その後のメンテナンスを怠れば悪い状態に逆戻りです。メンテナンスと聞くと「守備」をイメージするかもしれませんが、野球で言えばバントです。常在菌のバランスが崩れてしまう前に、先に手を打って試合の流れを有利にする。メンテナンスこそが究極の歯科治療だと、僕は思っています。歯科医院でメインに活躍するのは歯科医師ではなく歯科衛生士であり、当院には勉強熱心な6人の歯科衛生士が、患者さんの大切な歯を守り続けています。
メンテナンスの大切さを伝えていく必要がありますね。
入れ歯になって初めて、うまくしゃべれない、味を感じにくいなどさまざまな制約があることを知り、「ちゃんとメンテナンスすれば良かった」と後悔するものです。歯を失う前にメンテナンスの重要性に気づかせることも、僕たちの役目だと思います。ですが、症状がないと病気という自覚がなく、教科書的なことを淡々と説明するだけではなかなか理解してもらえません。患者さんの現状をきちんと説明し、メンテナンスの大切さを価値として伝えていくことが大切です。また、病気の治療と、病気と直接関係ない部分の治療を混同すべきではないと僕は考えていて、患者さんがご自身の状態を理解していない時点で「セラミックにしましょうか? インプラントにしましょうか?」と提案するのはおかしいと思っています。僕には阪大の学生時代からお世話になっている大先輩がいるのですが、歯科に対する考え方や患者さんとの接し方などは、すべてその師匠から教わりました。
今だけでなく未来の口腔の健康も守る
「お口の健康手帳」とはどんなものですか?
自院で編集した「お口の健康手帳」というものを患者さんに渡していて、通院の時に持ってきてもらっています。診療時に撮影した写真を貼れるページがあり、手帳を見れば治療の経過がわかるようになっています。歯科医師や歯科衛生士にとって、画像で記録を残すことは、さまざまな症例に対してどんなアプローチが有効かを知るきっかけになるし、勉強会に出て技術を習得しようといった気づきもあり、治療技術を磨く上でも役立っています。診療の効率化をめざしつつも、患者さんの記録を残す作業はこまめにしています。治療計画書は必ず手書きです。患者さん一人ひとりとしっかり向き合いたいという理由のほかに、治療内容を説明する資料が見積もりみたいになるのが嫌なんです。
小児の口腔筋機能療法にも取り組まれているそうですが。
近年、お子さんの虫歯は減りましたが、歯並びの悪い子が増えています。この背景には、口腔機能に関する問題が関わっていると感じています。正しい発音ができない、上手に食べられない、ちゃんと呼吸ができていないなど。そういったお子さんのために口腔筋機能療法という、お口の周囲の筋肉を正しく使えるようにするトレーニングを行っています。トレーニングを続けることで、食べこぼしをしなくなったり、姿勢や発音の改善など、多くの変化を経験しました。口腔を健全に育成していくためには、正しい口腔機能を身に付けてもらうことがとても大切です。気になる方は一度ご相談ください。
今後の展望をお聞かせください。
診療の息抜きに剣道をやっていて、今は週に5回、地域の子どもたちに剣道を教えています。剣道で八段までなれる人って、強いだけではないんですね。ここぞという絶妙なタイミングで、無駄な動きをせずに最高の技が打てる。そのためにものすごく稽古をし、究極の基本ができている人だけが八段になれるのです。それは歯科にも通じるところがあり、たまたま治療がうまくいったではなく、基本がしっかりできているからこそ、無駄な時間や費用をかけずに、誰が見ても納得する治療を提供していきたいですね。今後は在宅医療にも取り組んだり、口腔筋機能療法を高齢の患者さんにも広めて、新しいコミュニティの場を提供していけたらと考えています。