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自宅や職場にいながら、電話やインターネットを通じて受診できる「電話・オンライン診療」。あらゆる分野でICT(情報通信技術)の活用が進む今、遠隔診療の一つとして制度化された受診方法です。待ち時間の短縮や通院する負担を軽減できることから、忙しいビジネスパーソンや難病などで遠くの病院に通院せざるを得ない患者の利用が増えつつありました。そして今、新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けた取り組みの一環として、ニーズが高まっています。
今後さらに利用者は増えていくと思われますが、電話・オンライン診療は音声や表情による情報が中心です。対面ではないからこそ、医師との相性や信頼関係はより重要といえるでしょう。また、制度の範囲内での利用という制約もあるようです。
今回は、電話・オンライン診療とはどのような受診方法なのかをひも解きながら、私たちとかかりつけ医の上手な関わり方について考えてみたいと思います。
~目次~
電話・オンライン診療とは?
電話、スマートフォン、パソコンなどの情報通信機器を用いた診療のことを「電話・オンライン診療」と呼びます。これまでは「遠隔診療」の一つとして、離島やへき地など医療機関が少ない地域で活用されるケースが多かったのですが、最近では都市部でも広まってきました。そして、この度の新型コロナウイルスの流行に伴い、医療機関の受診が困難になりつつあることや、感染防止策という観点から、さらなる利用者の増加が予想されています。
こうしたニーズの高まりを受け、厚生労働省は、2020年4月13日以降、初診での電話・オンライン診療を認める決定をしました。これまでは初診を除く2回目以降、電話・オンライン診療が適切と判断されれば、医師と相談の上で選択できるという制約があったことから、利用者にとっては受診しやすくなったかたちです。ただしこれは時限的・特例的な措置であり、初診での診療の可否は医師の判断によります。
電話・オンライン診療の
メリットは?
電話・オンライン診療は、電話やスマートフォンなどの身近な機器を利用して、医療が受けられるサービスです。人々が関心を寄せているのには、いくつかの理由があります。
- 01時間を有効活用できる
- 仕事や家事、育児などで毎日忙しく、通院のための時間がなかなか取れない人は少なくありません。電話・オンライン診療ならクリニックに行くための移動時間はかかりませんし、予約制なので待ち時間が削減できます。また、電話やインターネットを通じて、自宅や職場からかかりつけ医の診察が受けられるため、家事や仕事の合間に受診することも可能です。
- 02通院の負担が軽減でき、
遠方でも受診が可能 - クリニックに足を運ぶ必要がないので、高齢で歩くのが困難だったり、けがをしていたりして通院が難しい場合も受診が可能です。また、症状に合った適切な医療機関が近隣になく、これまで受診を諦めていた人も電話・オンライン診療を活用することで、自分が希望する医療サービスを受けられるようになりました。
- 03院内感染リスクを抑えることができる
- 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、懸念されているのが「受診控え」です。医療機関での感染リスクを恐れて診療をためらう人が増えており、治療や服薬の中断などによる症状の悪化が懸念されています。そのため、厚生労働省は新型コロナウイルス対策の時限的・特例的な措置として、医療機関に対し初診からの電話・オンライン診療を認めるなど、規制緩和を行っています。感染症が流行している時期は、自分の身を守る手段の一つとして、有効だといえます。
受診の仕方
電話やスマートフォンなどを使って医療機関を受診できるため、高額な機器や難しいシステムは不要です。具体的にどのように受診するのか、見ていきましょう。
- STEP01
- 受診したい医療機関で電話・オンライン診療を行っているかを確認
受診しようと考えている医療機関のホームページを確認するか、電話で直接問い合わせるなどして、電話・オンライン診療を実施しているかを確認します。(ドクターズ・ファイルのサイト内からも検索が可能です)
またかかりつけ医がいる場合は、まずはかかりつけ医に受診の相談をしましょう。
- STEP02
- 診療の予約
電話・オンライン診療の実施が確認できたら、予約をします。予約方法は医療機関によって異なるため、各医療機関の指示に従って行います。支払い方法も予約時に確認をしておきましょう。
- STEP03
- 診療
受診する際は、プライバシーが守られた空間で行うようにしましょう。医療機関から着信があるか、オンラインで接続されたら診療開始。受診を希望している本人であることを確認するため、身分証明書の提示が必要です。予約時に指定された身分証を提示できるように準備しておきましょう。本人確認後、症状などを医師に伝えていきます。
- STEP04
- 受診後
【対面での受診を推奨された場合】
症状によっては、対面診療を促されるケースもあります。来院を求められた場合は必ず受診するようにしましょう。
【薬の処方を受けた場合】
処方箋が自宅に郵送されるので、それを薬局に持っていき、薬を受け取る形になります。
配送を希望する場合は、受診時に最寄りの薬局を医師に伝え、診療後、薬局に連絡を入れましょう。薬局から電話・オンラインによる服薬指導が受けられ、その後薬が配送されます。中には、対面での服薬指導が必要なケースもありますので、医師・薬剤師の指示に従うようにしてください。なお、急を要する場合には、家族が薬局に来訪して薬を受け取ることも可能です。
※処方箋の発行方法や薬の受け取り方法は医療機関や、オンライン診療のサービスによって異なります。処方箋や薬の受け取り方法については受診先の医療機関の指示に従うようにしてください。
- STEP05
- 支払い
領収書・明細書はファクシミリやメール、郵送にて送られてきます。
医療機関の指定の方法で期日までに支払いを行ってください。
- 電話・オンライン診療に
まつわる素朴な疑問集
- 対象となるのはどんな人?
- 老若男女、どのような症状でも基本的に受診可能です。従来は糖尿病などの慢性疾患に限られていましたが、厚生労働省は2020年4月より「診断や処方が医師の責任のもとで医学的に可能であると判断した範囲」において、「初診から電話や情報通信機器を用いた診療により診断や処方をして差し支えない」とし、電話・オンライン診療の適応対象が大きく拡大されました。
ただし触診ができないため、診断のできる疾患は限られています。患者の状態について必要な情報が十分に得られないと医師が判断した場合は、医療機関への受診が求められるケースもあります。
また、処方については睡眠薬や向精神薬など、電話・オンライン診療での処方が禁止されているものもあります。体重減少目的、美容目的など、医学的な必要性に基づかない医薬品の処方は、転売や不適正使用が疑われるケースもあるため、電話・オンライン診療のみで患者の状態を十分に評価せずに処方するのは不適切とされています。
- 電話・オンライン診療に
向いている疾患は?
- 症状が安定している高血圧、糖尿病や脂質異常症といった慢性疾患は緊急性を要するものではないため、比較的向いているといえます。禁煙治療など通院の負担やストレスから途中で諦めてしまうことが多いケースも、電話・オンライン診療を活用することで治療を継続しやすくなるメリットがあると考えられます。また難病を抱える患者は、専門医が少なく受診に困難を抱えていることが多いので、遠方にある大規模病院での電話・オンライン診療を受けることができるサービスも増えてきています。
一方で、「だんだん悪くなっている」「容態が急変している」という場合には対面での診療が推奨されます。また、在宅療養を余儀なくされている脳卒中後遺症、心不全、呼吸器不全、がん、精神疾患などの疾患については、医療機関との距離やかかりつけ医に診てもらえるかどうかなど、いくつかの条件を満たすと保険適用されます。
- 自宅にパソコンがないと
診療を受けられないの?
- 診療を受けるには専用のアプリやウェブサイトなどを通じたオンライン診療システムを用いるほか、電話やスマートフォンのビデオ通話機能などを使うこともできます。そのため、パソコンがなくても、インターネット環境が整っていれば問題なく、自宅はもちろん会社の休憩室や出張先のホテル、介護施設などでの受診も可能です。ただし、情報が流出しやすい「フリーWi-Fi」は厳禁。自分やクリニックの情報を守るために、スマートフォンやパソコンのセキュリティ対策も心がけましょう。
またオンライン診療では、リアルタイムでの視覚や聴覚の情報を含む情報通信手段を用いる必要があるため、メールやチャットを用いた文面のみによる診療は認められていません。
- 対面診療との違いは?
- 電話・オンライン診療は、電話での通話やパソコン・スマートフォンの画面越しの診療であるため、当然ながら医師が患者の体に直接触れることはできず、医師が得られる患者の情報には制限があります。「それで本当に大丈夫?」と思う人は少なくないでしょう。しかし、得られる情報に制限があるからこそ、医師側は問診や視診により集中し、患者とのコミュニケーションが濃密になる傾向が見られるようです。また、「自宅で血圧を測ったらそれほど高くなかったのに、診察室で測ったら緊張して上がってしまった」という経験のある人もいるかと思いますが、対面診療が診察室という、いわば“医師の土俵”で行われるのに対し、オンライン診療は“患者の土俵”で行われるもの。患者が自宅などでリラックスした状態で受診すること、つまり生活の一場面をありのまま診てもらうことは、医師にとっても患者の日常に沿った医療を提供しやすくなります。
- 電話・オンライン診療の
初診料は?
- 新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けた時限的・特例的な措置により、電話・オンライン診療による初診が認められ、保険適用となりました。患者の自己負担金額は通常の対面診療の4分の3程度で、薬の処方があった際は処方箋料なども発生します。なお、初診には、その医療機関に初めて受診した場合だけでなく、2回目以降であっても、新たな症状・疾患で受診する場合も含まれます。
- 電話・オンライン診療受診時の
支払いは?
- 医療機関によって異なります。専用アプリを通して受診した場合は、アプリ内でクレジットカード決済できるケースが多く、それ以外の方法で受診した場合は、次回来院時にまとめて支払う、指定口座へ振り込むといった選択肢があります。
電話・オンライン診療の活用例
では、実際にはどんなシーンで活用できるのか、4つのケースを見ていきましょう。
CASE 01
多忙なスケジュールの合間に
受診可能に
糖尿病を抱える村田さん(49歳)は、長期出張の多い仕事柄、2~3ヵ月に1回しか通院できません。数種類の薬を飲んでようやく目標の血糖値になっているので、本来は月に1回の受診が理想的。主治医と相談して自己血糖測定装置も購入し、通院と通院の間に電話・オンライン診療を取り入れることにしました。インターネット環境さえ整っていれば、出張先でも受診できるので、治療が継続しやすくなりました。
CASE 02
在宅医療と併用することで
家族も安心
小川さん(85歳)は持病の心臓病がひどくなり軽度の認知症も加わって、あまり外出できなくなりました。そこで家族は、普段小川さんがかかりつけにしている医院Aの医師に相談し、在宅医療に電話・オンライン診療を併用することにしました。小川さんはインターネットを使えないので、家族がサポートしながら受診しています。
CASE 03
体調や家族の負担を気にせず
快適に受診
1人暮らしの牧野さん(57歳)は5年前にパーキンソン病を発症。遠くの専門病院への通院を続けていましたが、病気が進行して歩きづらく、外出の時間に合わせて薬の飲み方を調節しなければ電車にも乗れなくなりました。そこで、主治医から電話・オンライン診療を提案されたので試してみることにしました。それまで通院に費やしていた時間を趣味であるテレビでのスポーツ観戦にあてられるようになり、通院のたびに付き添ってくれた息子の負担も減りました。
CASE 04
家族のライフスタイルに合わせて
治療を継続
保育園に通う絵里ちゃん(4歳)は重度の小児喘息で、3年前から、自宅から1時間ほどの場所にあるB病院に定期的に通院しています。両親は共働きで忙しい上、もうすぐ妹が生まれるので、通院の時間を取るのが難しくなります。そんな時、絵里ちゃんの母親は、院内の掲示板でB病院は電話・オンライン診療にも対応していると知り、いつも診てもらっている小児科の医師にオンラインで診てもらうことを決めました。
このように対面診療と組み合わせながら、ライフスタイルや希望に応じて受診することが可能です。ほかにも、障害のある人は本人にとっても家族にとっても通院の負担が大きいため、電話・オンライン診療の活用によって心身のストレスが減らせるかもしれません。また出産や育児、介護などライフステージの変化によって通院を継続することが難しくなった人にとっても、一つの選択肢となり得るでしょう。
今後はどうなっていく?
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、時限的・特例的な措置ではありますが、電話・オンライン診療が初診にも適応拡大されることになりました。「新たな生活様式」が求められる今後は、より多くの人に電話・オンライン診療という新たな診療形態が浸透し、医療サービスの受け方の幅がぐんと広がることでしょう。
例えば、持病を抱えた人は通院の負担なく定期的な診察が受けやすくなり、病状の悪化やより重い病気の予防につなげられるかもしれません。また、これまで近隣に医療機関がなく受診をためらっていた人や、忙しくて通院の時間が取れなかった人も、手軽に受診しやすくなることで、病気の早期発見や健康管理に役立てられるのではないでしょうか。電話・オンライン診療という新しい受診の形は、病気の治療にとどまらず、まだ病気にかかっていない「未病」の状態から人々の健康を支える上でも期待できそうですね。
ただ一つ言えるのは、対面であってもオンラインであっても、診てもらう医師を選ぶのは私たち自身であるということです。いざというときに頼れるかかりつけ医を持っておくことは、日々の暮らしを送る上で欠かせません。この先きっと、電話・オンライン診療は、外来診療や在宅医療と並ぶ受診方法の一つとして根づいていくでしょう。その中で、電話・オンライン診療という選択肢を持っておくと、「かかりつけ医といつでもつながっている」という安心感にもつながるかもしれません。
電話・オンライン診療を行っている医療機関を探す
電話・オンライン診療を受診するには、まずは実施している医療機関を知ることが必要です。 新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ、ドクターズ・ファイルでは電話・オンライン診療の実施医療機関を紹介しています。
初めて受診するクリニックの場合、診療内容や対応可能な日時を確認するのはもちろん、医師の診療方針や考え方についても理解した上で受診したいものです。自分にぴったりの電話・オンライン診療が受けられるクリニックを探したい人は、ドクターズ・ファイルでも簡単に検索できますので、ぜひご活用ください。
監修:酒巻 哲夫先生のコメント
医療の制度は複雑でわかりにくいです。そのことは、医師たちにとっても同じで、「電話・オンライン診療」が可能になったとはいえ、それをどのように進めるか理解し、装置やシステムを準備するのにはかなりの期間が必要です。医療機関の準備が整わなければ、患者さんが受けることはできないと理解してください。
Profile
1947年栃木県生まれ。1972年群馬大学医学部を卒業後、循環器内科領域で約25年間、臨床と研究に従事。1998年より群馬大学附属病院医療情報部教授となり、同院のコンピューター化を推進。早くから「オンライン診療」に携わってきた研究者の一人である。NPO法人 日本遠隔医療協会理事長、元高崎市医師会看護専門学校副校長、群馬大学名誉教授。『患者の声を聞く みんなで紡ぐ医療の絆』ほか著書多数。