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(公開日2022年2月9日)

自宅で最期を迎えたいと望む人が、全国民の60%以上※といわれる現代。終末期医療の選択肢として注目されているのが、在宅医療です。在宅医療と聞くと、家族の体力的・精神的負担などに目が行き、「とにかく大変そう……」と感じる人は多いでしょう。

でも今は、政府が切れ目ない在宅医療の体制づくりを推進していることから、医療制度や支援サービスも充実してきているようです。自分が、そして大切な家族が、最期まで「自分らしく」生活していくために。在宅医療のいろはを知り、もしものときの判断に役立てましょう。

※参考:厚生労働省「平成29年度人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書」の「どこで最期を迎えることを希望しますか。」の質問に対する、一般国民の回答

在宅医療の基礎知識

そもそも在宅医療って?

患者が自宅などにいながら医療を受けられるのが、在宅医療。医師・歯科医師をはじめ、訪問看護師や薬剤師、管理栄養士、理学療法士、さらにケアマネジャーやホームヘルパーなど、さまざまな役割を持つ専門家がチームを組み、連携して自宅に定期的に訪問をし、計画的・継続的な治療を経過観察、健康管理を行います。24時間体制で治療やケアにあたる場合もあります。

患者の家へ訪問して行う医療の中には、定期的に患者を訪問する「訪問診療」と、突発的な事態に応じて訪問する「往診」の2種類があります。一般的に在宅医療というと、定期訪問する「訪問診療」を指すことが多いです。

どちらも施設入所や入院とは違い、「慣れ親しんだ自宅で過ごしたい」と望む患者本人の意思を尊重した医療なのです。また、通院時の送り迎え・同伴に負担を感じる家族の助けにもなるでしょう。

在宅医療の流れは?

  • 相談する
  • ・かかりつけの医師に相談
    ・受診している病院の主治医もしくは地域医療連携室に相談
    ・地域包括支援センターもしくは介護支援事業所に相談
    ・地域の医師会に相談
  • 医療機関の候補を絞る
  • STEP1で相談した医師や医療ソーシャルワーカー、ケアマネジャーほかと一緒に医療機関を探し、候補を絞ります。
  • 候補の医療機関と打ち合わせ
  • STEP2で絞った候補の医療機関と、ケア内容、費用も含めて細かく相談をします。最終的に決めるのは患者と患者家族なので、ここでしっかり納得するまで相談をすることが大切です。
  • 合意後、契約を結ぶ
  • 在宅医療スタート

基本的には、上記の流れが⼀般的です。患者にかかりつけ医がいる場合は、まずは患者のかかりつけ医に相談するのがベターです。

対象となるのはどんな人?

在宅医療は、病気やケガなどにより1人での通院が難しい人であれば、基本的にどんな疾患・状態であっても受けられます。

たとえ1人暮らしでも、医療・介護・福祉の制度を上手に活用すれば、在宅でのケアを実現することは十分に可能です。利用を検討している人は、まずかかりつけ医に相談してみましょう。

また、在宅医療は高齢者向けの医療サービスとして取り上げられることが多いため、「小児や若年層には利用できないのでは?」と勘違いしている人も多いかもしれません。すべての年代が対象であり、誰もが受けられる医療サービスであることを覚えておきましょう。

在宅医療って何をしてもらえるの?

在宅医療で受けられるサービスには、以下のようなものがあります。

  • 病気の治療

  • 体の清拭ケア

  • 床ずれの予防

  • 排泄の介助

  • 寝たきり予防のリハビリテーション

  • 誤嚥性肺炎のリスクを下げるための口腔ケア

  • 栄養管理・指導、その他病気を未然に防ぐためのサービス など

ただ、クリニックによって対応できる診療の幅が異なるため、事前に確認が必要です。

在宅医療を検討したほうが良いケースは?

まず、患者自身で通院することが難しい場合や、家族が送り迎えをすることが難しい状況にある場合が該当します。

また、入院や施設への入所ではなく、「住み慣れた自宅で療養したい」という患者本人の希望があるときや、食事・服薬などの日常的なケアを家族が担うことが難しい場合に検討しましょう。

知っておきたい!介護のアレコレ

なんとなく同じ意味として捉えがちな、「在宅医療」と「在宅介護」。その大きな違いは、「在宅介護では医療行為が行えない」という点です。

また、在宅介護には掃除や洗濯などの生活支援サービスも含まれるので、家族の負担をより軽減するためにも、在宅医療と在宅介護をセットで検討することが大切でしょう。また、介護にはさまざまなサービスがあり、介護認定の度合いに応じた介護保険が適用されます。

下記は、保険が適用されるサービスの一例です。患者の状況に応じて、積極的に活用しましょう。

  • 介護者が家に訪問して介護を行う「訪問介護」サービスの利用
  • 利用者(患者)が介護施設へ行く「通所介護(デイサービス)」の利用
  • 利用者(患者)が介護施設に宿泊する「ショートステイ」の利用
  • 利用者(患者)が介護施設に入居する「介護保険施設」の利用
  • 介護に必要な物(介護用ベッドなど)の購入や、自宅のリフォーム

在宅医療の費用について

訪問診療代

医療保険が適用される場合、1ヵ月に2回の訪問診療の場合、おおよそ7000円(1割負担)となります。3割負担の人は、おおよそ2万円となります。

臨時に必要な医療費・薬代

往診や臨時の対応、検査費用、処置費用、院外薬局での薬代 など

介護にかかるお金

訪問看護、訪問介護、訪問リハビリ、訪問入浴介護、デイサービス、ショートステイ、福祉器具レンタル など

その他

自費診療、食費、光熱費 など

場合によって、在宅医療のために自宅のリフォームが必要な際、介護保険の対象になるケースもあります。

上記はあくまで一例であり、個々の疾病の状況により金額の変動があります。訪問診療スタート前に、主治医とよく相談をし、説明を受けた上で治療を進めるようにしましょう。

今、元気でも準備しておくべきこと

1. 患者本人と、家族の意思を確認

在宅医療が必要になる日は、得てして突然訪れるものです。「今はあまりぴんとこない」という人も、家族全員が元気なうちに、患者本人と家族間の意思疎通を図っておくことが大切です。

また、「主な介護者は誰か?」「誰が定期的に電話をするか?」など、事前に家族の役割分担をしておけば、いざというときにも落ち着いて行動することができるでしょう。

2. 在宅医療を支える家族の時間確保

「通院は難しいかも」「在宅医療を検討中」という家族がいる場合、在宅医療を支える側の家族の時間確保も重要です。

「時間を割ける人はいるか?」「どれくらい確保できるか?」などをしっかり把握しておき、事前に職場への相談や、自身の定期的な通院の予定などをまとめておく工夫も必要でしょう。

在宅医療あるあるQ&A

Q1病院のようにきちんとケアしてもらえるか、医療面が心配です。

近年は在宅医療に力を入れているクリニックも増えています。また、往診に24時間365日対応しているクリニックであれば、まるで病院にいるかのように安心して自宅での療養を続けることができるでしょう。

Q2認知症の場合、在宅医療って受けられるの?

進行の度合いにもよりますが、患者が認知症を患っている場合も在宅医療は可能です。ただ、家族や介護者から共有される、患者の普段の生活状況を踏まえて適切な診療を行う必要があるため、患者が1人暮らしをしている場合は難しい場合もあります。ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談してみましょう。

Q3親が自宅に先生を呼ぶのを嫌がります。どう説得すれば良い?

医療者とはいえ他人を家に招くわけですから、不安になるのは仕方ありません。まずは在宅医療を依頼するクリニックの外来へ行き、徐々に医師との信頼関係をつくっていくと良いでしょう。また、第三者に介入してもらったり、医師やケアマネジャーに相談したりするのも一つの手です。

Q4在宅医療は疲弊してしまいそう。気軽に相談できる友達が欲しいな。

近年は、自治体が主催するコミュニティーや個人主催のサークルなど、地域の患者家族が集まる場もあり、悩みを共有しやすい時代になっています。ケアマネジャーなどに相談して、紹介してもらいましょう。また、中にはSNSなどで悩みを共有し合っている人たちも多いようです。

在宅医療を受けるクリニックの選び方

対応している時間

往診に24時間対応しているクリニックもあれば、昼の時間帯のみ在宅診療を行っているクリニックもあります。対応時間はクリニックによってさまざまなため、事前の確認が必要です。

家からの近さ

訪問診療が行えるエリアは、該当の医療機関から半径16km以内の範囲(車で片道およそ20分)と定められています。できるだけ近くのクリニックを選べば、往診時も素早い対応が期待できるでしょう。

対応している疾患

クリニックによって幅があり、中には胃ろうや輸血まで対応するクリニックもあります。患者の状態に合わせて、適切なクリニックを選ぶことが大切です。

医師の診療方針や人柄

患者も医療者も同じ人間なので、どうしても相性の良しあしがあります。患者の生活エリアで行われる在宅診療では、特に医師の人柄や診療方針、患者や家族との相性を見る必要があるでしょう。

在宅医療に対応しているクリニック一覧はこちら

監修ドクター

水道橋東口クリニック院長 辻 彼南雄 先生

1984年北海道大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院など数々の病院での勤務を経て、在宅医療の草分け的存在である佐藤智先生に師事。佐藤先生のクリニックで勤務した後、1998年より水道橋東口クリニック(旧・佐藤クリニック)に勤務。2002年同クリニック所長(現・院長)に就任。東京大学医学部老年病学教室で非常勤講師を務める。一般社団法人ライフケアシステム代表理事、日本在宅医療連合学会監事、日本在宅ケア学会理事。