看護師とひと口にいっても働き方はさまざま。一見同じように働いているようでも、雇用形態が違うことは珍しくありません。この記事では、正社員、契約社員、パート・アルバイト、派遣社員といった、看護師の雇用形態について解説します。それぞれの特徴、メリットやデメリットなどから、自分はどう働いていきたいか、選択のヒントにしてみてください。
<目次>
1 看護師の雇用形態の種類
雇用形態とは、労働者と雇用主の間で交わされる雇用契約の種類のことです。一般的に、勤務先と従業員が直接雇用契約を結ぶ「直接雇用」と、勤務先とは異なる派遣会社などの企業と従業員が雇用契約を結ぶ「間接雇用」に大分類されます。看護師も同様に、さまざまな雇用形態が存在します。
●直接雇用(正社員、契約社員、パート・アルバイト)
「直接雇用」一つとっても、正社員、契約社員、パート・アルバイトなど契約はさまざま。同じ直接雇用の中でも、正社員とパート社員では雇用期間や法定労働時間が異なるほか、勤務先によって給料や待遇などにも違いがあります。
●間接雇用(派遣社員)
「間接雇用」は主に派遣社員といわれ、契約を結ぶ派遣会社からその名の通り「派遣」され、勤務先で就業します。業務の指示は勤務先から受けますが、給料の支払などは、派遣会社から行われます。
●雇用形態別の特徴
正社員、契約社員、パート・アルバイト、派遣社員の特徴を見てみましょう。雇用主や、法労働時間などさまざまな違いがあるため、それぞれの雇用形態でのメリット・デメリットを見極め、自分に合った働き方を選択することが大切です。
雇用形態別に主な違いをまとめると、下表のようになります。
さらに、雇用形態によって働き方にどのような違いがあるのか、「仕事内容」「勤務時間」「雇用期間」「給与体系」「社会保険」「福利厚生」の6つの項目を詳しく解説していきます。
・仕事内容
診療の補助といった基本の仕事内容については、雇用契約による大きな違いはありません。 ただし、職場によっては看護師長や主任などの役職は正社員の看護師に与えているため、シフトを組んだりチームをまとめたりするといった役職者ならではの仕事は正社員が担うことが一般的。現場の中心的な役割を求められやすい点で、正社員は他の雇用形態のスタッフより、責任の大きさを感じることが多いようです。
・勤務時間
正社員や契約社員の看護師は最大で週40時間のいわゆるフルタイム。対してパート・アルバイトの看護師は週40時間以内と決められています。
また、残業時間という点では、正社員や契約社員は残業が発生しやすいことが多い一方、勤務時間の制限が厳しいパート・アルバイトや、派遣社員は比較的残業が少ないという職場が多いようです。
長時間働きたい人は正社員や契約社員、短時間勤務を希望する場合や定時に仕事を終えたいと考える人はパート・アルバイトや派遣社員の働き方が視野に入れやすいでしょう。
・雇用期間
正社員の看護師は定年まで働ける無期雇用が一般的。一方契約社員やパート・アルバイト、派遣社員の看護師は期間の定めがある有期雇用での募集がほとんどです。そのため、契約期間が切れる前に、医療機関が定める雇用期間で双方同意の上都度「契約更新」をする必要があります。業績悪化などの状況によっては医療機関の都合で契約更新がされない場合も。
なお、有期雇用の場合、通算5年を超える契約を結んだ際に、無期雇用への切り替えを申し込むことができますが、雇用形態は勤務先によって異なります。
・給与体系
正社員や契約社員の看護師の場合は、月給制で定額が支払われるのに対し、パート・アルバイトの看護師の場合は時給制や日給制のため、働いた日数や時間で給料が大きく変動します。 勤務先により違いはありますが、ボーナスや昇給、手当、退職金などは正社員や契約社員のみで、パート・アルバイトには支払われないという職場が多いようです。パート・アルバイトの看護師を希望する場合は、契約前に必ず確認しておきましょう。
なお、派遣社員は、勤務先ではなく派遣会社から給料が支払われるため、支払い制度や手当などは派遣会社の定めにより異なります。
・社会保険
社会保険とは、健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険、介護保険の5つを指します。加入するためには、それぞれ労働日数や労働時間が決められているため、契約社員、パート・アルバイト、派遣社員の看護師はその要件を満たしていないと加入できない場合があります。ただし一定条件を満たす場合は、社会保険の加入が法律によって義務付けられているので、条件を満たしている労働者であれば雇用形態に関わらず加入することが可能です。
・福利厚生
福利厚生は、社会保険などのように勤務先であるクリニックや病院が必ず導入しなければならない「法定福利厚生」と、勤務先の判断で導入を決める「法定外福利厚生」の2種類あります。 法定福利厚生には、先に挙げた5つの保険以外に子ども・子育て拠出金などがあります。一方、法定外福利厚生には、住宅手当や通勤交通費、社宅や寮、保養施設、社員旅行などがあり、勤務先によっては正社員や契約社員の看護師だけが利用できると定めている場合があります。しかし最近では雇用契約に関係なく福利厚生を同じように受けられるとする職場も増えてきました。福利厚生が気になる人は、入職前に確かめておくと良いでしょう。
なお、派遣社員の場合は、派遣会社が導入する福利厚生が適用されます。
2 正社員(正職員)の働き方
直接雇用の一部である正社員は、正職員・常勤看護師とも呼ばれます。雇用期間は無期で、長期雇用が保証されています。雇用や収入の安定、福利厚生など待遇面での充実が特徴です。
●正社員(正職員)のメリット
・長期的に安定して働ける
直接雇用の正社員は無期雇用で、雇用主も基本的には長く働いてもらうことを前提としています。正社員の場合は月給制のため、安定した生活を送りやすいといえるでしょう。また長期的に同じ職場で働くことで、チームワークが取りやすく、スタッフ同士での意思の疎通がしやすくなる面も。
・ボーナスや退職金が支給される環境もある
職場によって有無は異なりますが、ボーナスや退職金が出る場合は、まとまった金額が支給されるので、大きな出費に備えることができ、収支の計画を立てやすくなるでしょう。
・キャリアアップがめざせる
長く働くことを前提としている正社員は、将来的には認定看護師などの資格取得や主任・看護師長など役職をめざすことができるでしょう。またそのための研修や勉強会にも参加しやすい環境が整えられていることが多いです。
・ライフプランが立てやすい
長く安定して働けることは、結婚や出産などライフプランが立てやすいともいえます。また社会保険や福利厚生が整っているため、安心して産休や育児休暇が取りやすく、結婚や出産を経て元の職場に復帰するなど、継続して勤務できる職場が多いでしょう。
●正社員(正職員)のデメリット
・残業や交代勤務を任されやすい
残業や夜勤、交代勤務がある場合は、正社員に任されることが多いため、自分の自由な時間を確保しにくい面があります。子育てや介護、プライベートな時間を重視する人には時間のやりくりが難しいかもしれません。また体力的にも負荷がかかりやすいといえます。
・責任が重い
メリットで述べた「キャリアアップがめざせる」ということは、一方で責任ある職に就くことになり、そのため心身ともに負担が大きくなりやすいです。ただし、昇格や昇給に結びつく可能性もあり、また人によっては、職場から期待されることがモチベーションのアップややりがいにつながることもあるので、これは一概にデメリットとはいいきれないかもしれません。
・研修や会議などでの出勤もある
正社員の看護師は、研修会や会議への参加といった診療以外での業務があります。研修は休診日にあたることもあり、場合によっては宿泊を伴うようなこともあります。
・人間関係の距離を取りにいくい
長期的に働くことを前提としている正社員。長く仕事を続けていくと職場の人たちと親しくなったりチームワークが築けたりする一方で、人間関係が密になりやすく煩わしく感じることも。また、人間関係が要因となるさまざまなトラブルに心理的負担を感じる人もいるようです。
3 契約社員の働き方
直接雇用の一部である契約社員は、有期契約で、契約期間が決まっていることが特徴です。正社員と比較して仕事内容が大幅に変わることは基本的にありません。
●契約社員のメリット
・ワークライフバランスの融通が利きやすい
契約社員では、雇用契約時に勤務地や部署などの指定があるため、基本的に転勤や異動はありません。労働条件は契約によって定められるため、雇用主との交渉によって時短勤務やリモートワークなど都合に合わせて設定できる場合もあり、ワークライフバランスを考えて柔軟な働き方ができることがメリットといえます。
・責任の範囲が小さい
契約社員は、契約期間が決まっており業務内容や責任の範囲が明確です。短期雇用なので、大きな責任を伴う業務を任されることは少なく、ストレスがかかりにくいというメリットがあります。
●契約社員のデメリット
・正社員と比べて雇用が安定しない
決められた契約期間での勤務なので、契約満了時に契約更新を希望しても、更新されない可能性があります。契約更新がされない場合は一から職探しをする必要があります。
4 パート・アルバイトの働き方
パート・アルバイトは正社員に比べて一週間の所定労働時間が短いのが特徴です。また、パートとアルバイトに明確な違いはありません。
●パート・アルバイトのメリット
・プライベートな時間を確保しやすい
働く日数や時間を調整しやすく、正社員に比べると残業が発生しにくいため、パート・アルバイトの看護師は仕事とプライベートの両立がしやすいといえます。「子どもの学校行事で休みたい」「退勤後は習い事に時間をあてたい」など子育てや介護を担っている人、プライベートな時間を確保したい人でも仕事が続けやすいでしょう。
・人間関係のストレスが少ない
パート・アルバイトの看護師の場合、職場のリーダーのような責任ある立場に就くことが少ないため、その分精神的な負担は小さいでしょう。また勤務日数や時間が少ないので、職場と適度な距離を保ちやすく人間関係のトラブルに接する機会も減るでしょう。
●パート・アルバイトのデメリット
・年収が低い
パート・アルバイトの看護師の場合、給料は時給で計算されるため、休診日が多い月(お盆や年末年始など)は、給料が減ってしまいます。また、ボーナスや退職金も支給されない職場が多いようです。昇進や昇給もあまり望めないため、正社員の看護師と比べると年収は少なくなりがちです。
・社会保険に加入できない場合がある
社会保険に加入するには労働時間や労働日数などで一定の要件を満たす必要があるため、パート・アルバイトの看護師は労働条件次第では加入できない場合もあります。職場の社会保険に加入できない場合は、個人で国民年金や国民健康保険に加入しなくてはいけないため、その分の出費が増えてしまいます。また職場が導入している寮や保養施設といった法定外の福利厚生でも、正社員の看護師に比べて利用できる範囲に制限のある場合が多いです。
・キャリアやスキルを上げにくい
パート・アルバイトの看護師の場合、一般的に役職をめざすのは難しいでしょう。正社員の看護師であれば勤務先が研修会や勉強会に参加しやすいように費用面などの補助を受けられることもありますが、パート・アルバイトの場合はそういう機会が少ない職場が多く、キャリアアップやスキルアップをめざしたい人には厳しい面があるかもしれません。
5 派遣社員の働き方
派遣の看護師の雇用主は、勤務先ではなく派遣会社です。看護師における派遣という働き方は、以前は法律で認められていませんでした。しかし2006年に規制が緩和され、条件制限下で派遣看護師が解禁となりました。
給与は派遣会社から支払われ、基本的には時給制です。また福利厚生も派遣会社のものが適用されるので、同じ職場で働いていても直接雇用の看護師とは異なります。有給休暇は派遣看護師も利用可能ですが、実際に勤務している職場と派遣会社の両方に申請する必要があることを覚えておきましょう。
派遣社員の特徴と他の雇用形態との違いは以下の通りです。
次に、派遣看護師は実際にどんな場所で働けるのかを解説します。
●医療機関以外は全面解禁
前述のとおり、派遣看護師は条件つきで解禁となっています。その条件の一つが就業先。有料老人ホーム・デイサービス・特別養護老人ホーム・社会福祉施設・保育園など医療機関以外の場所で行う派遣看護師の業務は、現在は全面解禁されています。
●医療機関では産休代替と紹介予定派遣が解禁
クリニックや病院などの医療機関においては、常用型派遣(長期にわたる常時雇用)は禁止されています。産休代替(産休や育休の看護師の代わりに就業する場合)や紹介予定派遣(3~6ヵ月後に正社員など直接雇用に切り替わることを前提とした派遣)の場合のみ、看護師の派遣が認められています。
派遣看護師が同じ職場で働き続けられる期間は、最大3年までと定められています。ただし、病棟が変わったりシフトを決定する人が違ったりする場合は異なる職場と見なされ、同じ職場で働き続けられる場合があります。
また、派遣看護師の求人は、人手不足や産休代替によることが多いため、即戦力が期待され、スキルや実績が重視されます。
●派遣のメリット
・時給が高め
直接雇用のパート・アルバイト勤務の看護師と比較すると、時給が高い場合が多いようです。
・プライベートと仕事を両立させやすい
派遣看護師の場合、正社員と比較すると残業や勉強会への参加が少なく、自分の希望の条件で働きやすいといえます。子育て中や介護など自分のライフスタイルに合わせた働き方ができます。仕事以外のプライベートも重視したい人には適した働き方といえるでしょう。
・困ったときは派遣会社に相談できる
働く上で困ったことや不満が生じたときには、派遣会社へ相談できる点もメリットです。
直接雇用の場合、職場での困り事や不満があった場合、職場の上司に直接話をする必要があります。しかし、一緒に仕事をする上司にはなかなか話しづらかったり、話したことでその職場で働きづらくなったらと考えたりして、相談しにくい面があるかもしれません。一方、派遣の場合は雇用主が派遣会社なので、職場での問題も派遣会社に相談ができるのです。派遣会社に、勤務先との間に入ってもらい、問題解決に働きかけてもらいましょう。
・人間関係のトラブルに巻き込まれにくい
派遣看護師は、直接雇用と比べると外部の人として扱われることが多く、職場の密な人間関係とは少し距離を置くことができます。一方で職場での人間関係を築くために、多少は気を使う場面があるかもしれません。
・残業や勉強会への参加が少ない
残業が発生する職場であっても、派遣看護師にはできるだけ残業をさせないという職場が多いです。また直接雇用(正社員)の看護師の多くは定期的に勉強会や研修などへの参加を要請されますが、派遣看護師は免除されることが多いといわれています。
●派遣のデメリット
・働く期間が定められている
派遣看護師の場合、雇用期間は3ヵ月や6ヵ月など決まっており、同じ職場で働けるのは最長3年と定められています。例えば、その職場が自分に合っていて長く働きたいと思っても、3年たつと職場を変わらなければなりません。ただし、同じ病院内でも働く病棟が変わるなどして継続できる場合もあります。同じ職場で長く働きたいと考えている人は、直接雇用への切り替えを前提としている「紹介予定派遣」を選ぶと良いでしょう。
・職場の福利厚生は受けられない
例えば正社員が勤務先から受ける「寮への入居」や「保養所を使える」といったような福利厚生は、あくまで直接雇用されている従業員のためのものであり、派遣看護師には適用されません。派遣看護師が受けられるのは雇用主である派遣会社の福利厚生です。派遣登録の際に、どのような福利厚生があるのかを確認しておくことをお勧めします。
・ボーナスや昇給がない
派遣看護師の時給は、パートやアルバイトの看護師や他業種の派遣社員と比較すると高めに設定されているものの、一般的にボーナスや昇給はありません。ですが、最近は同一労働同一賃金(雇用形態で待遇差を発生させない取り組み)により、給与面の差は減りつつあります。
※参考:厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ」
◇ ◇ ◇ ◇
ここまで、正社員、パ―ト・アルバイト、派遣といった、雇用契約による働き方の特徴や、それぞれのメリット・デメリットを紹介してきました。メリット・デメリットとはいっても、捉え方は人それぞれ。例えば、正社員のメリットとして「長期的に働ける(無期雇用)」を挙げていますが、それを「生活が安定しやすい」と捉えるか、長期的に働くからこそ「人間関係に悩まされやすい」といった面を気にするかは、人によって異なります。
働き方が多様化する今だからこそ、さまざまな働き方を知り、自分が何を重視して働きたいのかを考えた上で、「自分に合った働き方」を探していきましょう。
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