高齢者のリスク管理とQOL向上へ
口腔衛生管理加算を活用しよう
堺歯科医院
(北九州市八幡西区/本城駅)
最終更新日:2023/02/15


- 保険診療
施設系サービスにおいて口腔衛生管理体制を促すよう整備された「口腔衛生管理加算」は、基本サービスに含まれるようになった。しかしまだまだ口腔衛生管理の重要性が理解されているとは言えず、患者のQOL向上、誤嚥性肺炎のリスク管理などにつなげられていないのが現状だと、研修医時代から訪問歯科診療に注力してきた「堺歯科医院」の堺洋紀副院長は警鐘を鳴らす。「訪問歯科診療は噛みやすい・食べやすいものを見つける取り組みだけでなく、経管栄養の患者が、食べられるようになるためには入れ歯が必要かどうか、それによって食形態をどうするかなどを細かく診ていく医療。それをまず医療者側が理解しなくてはなりません」と話す副院長に、訪問歯科診療の現状、めざすべき形について話を聞いた。
(取材日2022年11月26日)
目次
摂食嚥下障害など「口のこと」がわかる歯科医師の参加で、処置をより具体的に、地域包括ケアをもっと円滑に
- Q貴院では、訪問歯科診療に積極的に取り組んでいるそうですね。
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A
▲訪問用の歯科機材を用いて、診療を行う
大学を卒業して研修医として働き始めたクリニックが訪問歯科診療に注力していて、そこでこれから先は訪問歯科診療のニーズがきっと増える、と考えました。そこで先んじてさまざまな準備をし、当院でも対応をし始めて数年になります。今では病院や特別養護老人ホーム、在宅医療などを含め、多数のご依頼をいただいています。その中で特に大きな存在だと感じるのはケアマネジャーさんです。施設であれば施設のスタッフさんたちと腰を据えて会議ができますが、個人宅の場合は医師、看護師などの多職種をつなぐケアマネジャーの役割が機能しなければ、真の訪問歯科診療は行えないのでは、という課題をひしひしと感じています。
- Q歯科訪問診療では、具体的にどんなことをされますか?
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A
▲通院が難しくなってしまっても、訪問歯科診療で治療の継続が可能
通常の歯科治療だけでなく、食事の時間にお伺いし、お口の様子を確認することも。お口の動きだけでもその方の咀嚼能率や癖などがわかるので、それをもとに私たちが口腔ケアや摂食嚥下リハビリテーションを行い、具体的なケアの仕方や食事の方法などをスタッフさんにアドバイスします。「こんな姿勢や角度で、舌のこのあたりに食事を乗せた方がいい」「今の食事より硬いものがいい」「先に経管栄養で栄養状態を良くした方がいい」など。そうして誤嚥性肺炎や窒息のリスク低減を図りつつ、患者さんのQOLを上げるような食事や入れ歯なども提案します。基本週1回程度お伺いし、月1回の会議で前月との比較やケアの内容の練り直しを行います。
- Qケアマネジャーさんとの連携の重要性についてお聞かせください。
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A
▲「口腔衛生管理加算についてもっと知ってほしい」と語る副院長
施設の場合はスタッフさんが常駐しており、比較的医科の先生や看護師さんなど多職種の方とも連携が取れ、会議なども行いやすい環境です。一方で在宅の場合は、ご自宅にそれぞれの職種が別々にお伺いすることがほとんど。連絡用のノートなどはありますが、情報が十分に受け渡しできているとは言い難いことも。その情報をつなぐのがケアマネジャーさんです。今後、在宅歯科医療にも適用されると思われるさまざまな口腔管理の取り組みが患者さんにどんなメリットを与えるか、また歯科の専門家がいることでさらに多職種連携での地域包括ケアが円滑になっていく可能性があることなどを、ケアマネジャーさんなどに知ってもらう必要があると感じます。
- Q先生は障がい者向けの歯科治療も専門的に学んでおられるとか。
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A
▲本人の気持ちを尊重し、寄り添った診療を提供していく
障がい者と高齢者でもっとも大きく違う点は年齢です。障がい者といってもお子さんから50代の方までと年齢層は幅広いですね。高齢者は体の機能が成長しきっていて、今後は弱っていく可能性が高い一方、障がい者はまだ肉体的に若い方も多く、口の機能をこれからつくっていくことも視野に入れて口腔ケアや摂食嚥下リハビリテーションを行います。摂食嚥下障害といっても年齢によって到達目標や指導内容も変わります。それを理解していると「この人にはもっと固形のものが良いだろう」「この方は入れ歯を活用したほうがいいからご家族に相談しよう」など、踏み込んだ内容で患者さんとお付き合いできるため、QOLの向上にもつながると思います。
- Q訪問診療を行う際に大切にしていることは何でしょうか?
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A
▲スタッフ間での情報共有や連携が重要なのだそう
まずはコミュニケーションを大事にすること。コミュニケーションがあれば「こういうことがあったので質問しようかと……」と話がはずみ、そこから新たな課題点や気づきが得られることもあります。もう一つは清潔に、きれいにすること。外来診療と同じように器具を滅菌し、都度手袋を取り替えるなどして、自分の口に入れられても問題ない状態を保っています。また障がい者の場合は、個々の障害の特性を踏まえた上でその方個人の「個性」を見つけること。叱らないようにするのが通常の対応であっても、そうすべきではない場合もあります。そういう個性を長い付き合いの中で見つけていくのも、訪問診療においてとても大切なことですね。