弓場 光泰 院長の独自取材記事
弓場歯科医院
(宮崎市/宮崎神宮駅)
最終更新日:2022/01/06

「弓場歯科医院」は、宮崎神宮駅から徒歩15分ほどの国道10号沿いの住宅地にある。50年以上前、田園地帯から宅地化が始まった頃、弓場敏克先生が開院し、現在は2代目の弓場光泰先生が引き継いで院長を務めている。歯科医院での通常の診察の合間には、介護施設などへの訪問診療も行っており、地域に根差した歯科診療に取り組んでいる。「良い人生を送れる手助けを」と活動する弓場院長に若き修行時代のことや父からの教え、そして同院での診療や診療において心がけていることについて話を聞いた。
(取材日2021年11月11日)
さまざまな歯科医院で経験したことを地元で生かす
まずは、歯科医師になったきっかけや、現在までの経緯を教えてください。

父が歯科医師で診察室の上に自宅があり、父の仕事をする姿をよく見ていて自然と歯科医師の道を進んでいました。父が開院したのは50年以上前で、まだこの国道10号線の辺りが砂利道だった頃です。私が小学生の頃は、市内にまだ数軒しか歯科医院がなかったので、数多くの患者さんが来ていたようです。整理券をもらうために朝から患者さんが行列をつくっていました。当時父は一人で診療していたので、患者さん1人に5~10分しか時間が割けなかったようですが、今も当時を知る患者さんが通って来てくれています。私は大学を出てから4年ほど関東でいろいろな歯科医院で働き、その後、当院で父と10年ほど一緒に診療していました。父は8年前に他界し、現在は私が一人で診療しています。
大学卒業後に働いていた歯科医院では、どのようなことを経験されましたか?
将来は地元に戻るということは決めていて、それまではさまざまな歯科医院を見てみたいと思っていました。大学卒業後は、曜日ごとに異なる歯科医院でアルバイトをして、4年間で10ヵ所ほどで働きました。時には1日だけ、1週間だけお手伝いに行くということもあり、非常に貴重な経験をさせていただきました。あえて出身大学が異なる歯科医院で働き、いろいろなやり方や考え方を学びました。道具も診療スタイルも違い、初めて見る器具などもありました。新人の時にさまざまな経験をさせていただいたので、度胸もつきましたね。いろいろな歯科医院を見させていただき、現在は良いところを取り入れたり、少し変更したりして、当院の診療に生かしているという感じです。
現在の診療方針を教えてください。

大学では歯周病のことを学びましたが、現在は患者さんのさまざまなご要望に広く対応できるような診療を心がけています。実際に私が治療するのは、虫歯や親知らず、入れ歯などが大半で、私が対応できないような、リスクの高い親知らずの手術や、矯正歯科やインプラント治療などは、専門の先生にお願いしています。それが患者さんのためになると思うからです。ただ、患者さんにはさまざまなことを説明できるように知識の引き出しは多く持っておき、メリット・デメリットを含めた複数の選択肢を提示して、患者さんにはベターなものを選んでもらっています。患者さんと一緒に歯について考え、その後はより歯に興味を持って、大切にしてもらいたいと思っています。
歯の治療が必要となる原因を見つける
心に残っている父・敏克先生の言葉はありますか?

「葉っぱを見るな、根っこを見ろ」と、よく言われました。見えている部分だけでなく、原因や理由を見つけなさいということです。例えば、虫歯の患者さんは「よく歯を磨きなさい」と言われます。しかし、そこを一歩踏み込んで「患者さんが磨けない理由はどこにあるのか」ということを考えると、一生懸命歯を磨くというところから少し違ったポイントが見えてくることがあります。高齢者によくあるのが、障害物があって洗面所まで行けないとか、車いすを使っている人からすると洗面台が高すぎてよく見えていないということです。そこで、患者さんとゆっくりお話しする時間をとり、生活環境や状況も可能な範囲で伺っています。歯の治療は、削ったり、抜いたりしてしまうと元には戻りません。何度でも治療はできますが、良い歯の状態からは一段ずつ下がってしまうので、歯の治療が必要となる原因の部分を見つけてあげることも大切だと思っています。
ほかにも生活環境などが歯に影響することはありますか?
姿勢も噛み合わせに関係します。例えば、テレビを見ながらごはんを食べている場合、どちら向きで見ているのかで噛み合わせが変わることがあります。また、片側だけ頬づえをついて勉強していると、片側の歯並びが悪くなることがあります。歯だけを見て治療していても、根本的に治らないということもあるので、口から患者さんの全身の健康も考えられるようになりたいと思っています。現在は、学問的にも研究が進んでいて、人体の構造や体のバランス、姿勢と噛み合わせの関係などについて勉強会で学び、患者さんにアドバイスしています。
現在は、訪問診療や在宅診療をしていると伺いました。

もともとは父が診ていた患者さんが高齢になり、次第に通院できなくなってしまったので、ご自宅に伺うようになりました。それがだんだん広まり、介護施設や入院患者さんのいる病院からも頼まれるようになりました。ニーズはあったのでしょうね。紹介のようなかたちで増えていきました。現在、宮崎市郡歯科医師会で理事をしていて、その勉強会などでも訪問診療の話をするので、そこで知った人からも連絡が来ます。当院での診療を基本としていて、診療開始前の朝の時間や診療の合間に訪問することが多いです。定期的に訪問するスケジュールもあるのですが、急な依頼もあり、できるだけ早く訪問するようにしています。診療して、状況や今後の治療について説明してあげると、患者さんも気持ちが落ち着くはずです。当院は小さな歯科医院なので、臨機応変に対応しています。
良い人生を送れるような手助けをしたい
院内は、バリアフリーに対応されているのですね。

院内はどこでも車いすで動けるようにしています。以前は段差がいくつもあったので、車いすを使っている患者さんが来院するようになって「これは大変だな」と思い、父と相談してバリアフリー対応にしました。入り口はスロープにして、診察室は本来ならば診察台は4台置けるのですが、3台にして、車いすを横づけできる広いスペースを設けました。高齢化も進んでいますし、当院の歯科医師の人数を考えても、たくさんの診察台は不要です。患者さんお一人お一人にしっかり時間をかけて、向き合いたいと思っています。訪問診療も行うようになり、次第に患者さんと向き合い、患者さんの今後のことも考えながら治療をすることが大切だという考え方になってきました。
高齢の患者さんの治療で気をつけていることはありますか?
外来でも高齢の患者さんの場合は、将来のことも考えて治療の選択肢を考えるようにしています。これは、訪問診療をするようになって気づいたことで、メンテナンスのために定期的に通院しなくてはいけない治療が果たしてふさわしいのか、介護をする人がケアをしやすい治療はどういうものなのか、ということを考えて患者さんと相談するようになりました。また、在宅診療は終末期の医療という側面もありますから、人間としての最後の本能、最期まで「食べたい」という気持ちがある患者さんに対して、負担の大きな虫歯の治療を単にするのではなく、虫歯はあったとしてもなんとか食べられるように別の方法を考えることもあります。
読者へのメッセージをお願いします。

歯科治療は痛くて嫌だと言われますが、根本に立ち返って予防に力を入れることで、痛くて嫌な思いをせずに済みます。総合的に考えれば、治療をするより費用もかかりませんし、健康な歯が保ちやすいですので、口や歯の大切さを知ってほしいと思っています。結局、人間は口からしか栄養が取れません。健康でハッピーに暮らすには、単純に歯の治療をすればいいということではないのです。そして、歯の治療となると、どうしても口の中ばかりを考えがちになりますが、姿勢や生活習慣、食事、薬の飲み方などについても影響があります。歯と関係ないと思うようなところもお話しして、患者さんが良い人生を送れるような、ちょっとした手助けをできたらいいなと思っています。そして、患者さんには納得していただいた上で、さまざまな選択をしてほしいと考えています。