徳留 一博 理事長の独自取材記事
日当山温泉東洋医学クリニック
(霧島市/日当山駅)
最終更新日:2025/06/13

JR日豊本線の隼人駅および国分駅から車で10分ほどの場所に位置する「日当山温泉東洋医学クリニック」は、現代医学を踏まえ、漢方薬などの東洋医学を専門するクリニックだ。理事長を務める徳留一博医師は、医師歴50年、現在81歳ながらも現役として日々多くの患者と向き合い続けている。当初は消化器を専門としていたが、地域に根差した医療を提供する中で、次第にプライマリケアの重要性を実感。自ら東洋医学を学び、腰痛や肩の痛み、皮膚疾患、心の不調など、幅広い症状に対応してきた。「まだまだ現役で治療を続けたい」と語るその姿は穏やかでありながらも、芯のある信念を感じさせる。今もなお東洋と西洋、双方の医学の融合をめざし、研鑽を重ねる徳留理事長に、東洋医学の魅力などについて話を聞いた。
(取材日2025年4月11日)
現代医学と東洋医学を融合させた治療を提供
40年以上続く歴史のあるクリニックですね。まずは開業までの先生の歩みを教えてください。

熊本大学医学部を卒業後、鹿児島大学医学部第二内科に入局し、消化器を専門に10年間学びました。当時ほとんど研究されていなかったクローン病に取り組み、エックス線画像診断を中心に研究を重ねました。1979年には、グループで書籍も出版しています。開業を決意したのは、父が開業医として地域の幅広い病気を診ていた姿に影響を受けたからです。自然と「自分も開業医として地域に貢献したい」と思うようになりました。日当山の地を選んだのは、鹿児島市や霧島市へのアクセスが良く、温泉のある環境が整っていたからです。父が持っていた温泉を治療にも生かせるのではと考え、この地で開設しました。
現代医学と東洋医学の双方を取り入れた医療を提供しているそうですね。
開業当初は、消化器を専門としていましたが、地域の皆さんから腰痛や肩の痛み、皮膚の不調、メンタルの悩みなど、実にさまざまな症状でご相談を受けました。ちょうど漢方が保険診療として認められた頃でしたので、漢方について自ら学習。その結果、「漢方は全方位的に患者さんを診る医療」だと思ったのです。特に痛みや皮膚の症状、心身のバランスを整えることに優れていると感じましたね。皮膚疾患については先輩のもとで学び、心身医療は鹿児島大学心療内科で院外研究生として半年間、勉強会や講習会で学びを深めました。今では、東西両医学を融合させながら、幅広い症状に対応できる「地域のかかりつけ医」として、患者さん一人ひとりに寄り添った医療を心がけています。
東洋医学とは、どういった診察をするのでしょうか。

東洋医学は、診断機器がなかった時代から、五感を使って患者さんの状態を見極めてきました。声の調子や脈の力、体質や顔色などを丁寧に観察し、その人の全体像を捉えながら治療を行います。現代医学が「木を見る医療」とするなら、東洋医学は「森を見て木を見る医療」です。例えば、冷え性で体がきゃしゃ、血色もあまり良くない方が痛みを訴えた場合、冷えによる痛みだと判断して治療を始めるのです。現代医学では診断がつかないという場合でも、東洋医学では全身のバランスを見て、早期からアプローチを考えます。当院では、現代医学と東洋医学を組み合わせることで、診断だけにとらわれず、より迅速に、より幅広く、患者さんの症状に対応することをめざしています。
心と体を一緒に診ることで、“本当の健康”をめざす
五感で患者を診るとは、どのようなアプローチを指すのでしょうか。

私はまず、待合室でお待ちの患者さんの様子を観察することから診察を始めます。座っている姿勢や立ち上がる動作、首を上げる角度などから、体の状態や痛みの有無が見えてくるのです。また、声の高さやトーンも大切です。元気なときは声に張りがありますが、逆にストレスがあると小さくなります。さらに診察では、問診に加えて舌の色や形から体調を読み取る舌診、おなかを触ってどこが弱っているかを確認する腹診も実施。患者さんがどういう状態にあるのかを「証」というのですが、あらゆる情報をもとに「証」を見極めて、それに合った漢方を処方します。ただ数値や検査結果を見るだけでなく、人そのものを診る。それが東洋医学の魅力であり、当院の大切にしている診療のあり方です。
東洋医学ではどのような治療をされるのでしょうか?
東洋医学の治療にはさまざまありますが、特に漢方は欠かせない存在です。東洋医学を学ぶ中で神経の痛みや皮膚科の疾患、心療の面においても非常に有用だと感じ、積極的に取り入れるようにしました。また診療室の奥には処置用のベッドも備え、鍼灸も行っています。当院では患者さんの症状に対して漢方をはじめさまざまな角度からアプローチすることで、症状の緩和をめざしています。ここ最近多く見られる症状として帯状疱疹がありますが、一番怖いのは後に残る神経痛です。この痛みはしつこく、長く悩まされる方も少なくありません。そういった後遺症に対しても、あらゆる治療を組み合わせることで、痛みを和らげる効果が期待できます。クリニックがある霧島市では2025年4月より高齢者を対象とした予防接種の助成も受けられるようになりました。より安心して過ごすためにも、気になる方は一度ご相談いただければと思います。
患者さんと接する際に大切にしていることを教えてください。

「身心一如」という考え方です。心と体は切り離せるものではなく、一つのものとして診ていく必要があるんです。1932年に開催された世界大会の中の馬術障害飛越競技において、優勝した日本人選手が「われわれは勝った」と発言しました。私は、“馬と騎手が一体となって戦った”というこの言葉が、とても好きなんです。人の体も同じで、馬が体で、騎手が心を表していると思います。それが一つになってこそ、健康も保てるのではないでしょうか。朝食を抜いて出勤している若い方や、一日に1食や2食しか食事を取らないご年配の方がいたら、「馬にエサをやらずに働かせているようなものですよ」とお話しするようにしています。どちらかだけを診ても、本当の意味での健康には届かない。だからこそ、私は心と体を一緒に診る医療を心がけています。
81歳の今。経験を生かして総合臨床を極めていきたい
先生は長らく地域医療に貢献されてきたのですね。

そうですね。コツコツと41年間続けてきたことが、こうして地域の貢献につながったのかなと思っています。私は、プライマリケアや、現代医学と東洋医学を組み合わせた総合診療といった、特に大切だと感じた診療を行い、その診療スタイルを続けてきました。これからも、患者さん一人ひとりとしっかり向き合い、心と体をトータルに診る医療を続けていきたいと思っています。
今後取り組んでいきたいことを教えてください。
今後は、これまで積み重ねてきた現在医学と東洋医学の経験と、医師になってから50年という年輪を生かしながら、総合臨床の深みをさらに追求していきたいと考えています。ゲーム依存に悩む子どもから、複数の不調を抱えるご高齢の方まで、幅広い世代の悩みに応えていくつもりです。プライマリケアの原点に立ち返り、患者さんの「最初の悩み」を受け止める存在でありたい。81歳になりましたが、これからも学びを重ね、総合医療に取り組み続けていきます。医師というのは、生まれること、老いること、病気になること、そして最期を迎えること、いわゆる“生老病死”に日常的に接する、非常に貴重な仕事です。これからも、患者さん一人ひとりに向き合いながら、丁寧な医療を届けていきたいと思っています。
最後に読者へのメッセージをお願いします。

子どもも大人も、日々の食事や物事の捉え方、行動といった生活習慣の積み重ねが、病気の原因になることは少なくありません。中でも特に大切なのが「食」です。人は「食」で育ってきたように、「食」で病にもなります。高齢になっても健康な体でいるためには、日頃の食生活が鍵になります。古代中国には、皇帝の健康を「食」で守る“食医”という医師がいましたが、私もそうした視点で患者さんの食生活を見つめ、必要なアドバイスをしていきたいと思っています。また、自分の体や病気を深く知るためには、自分からもどんどん質問してください。一つ一つ丁寧に説明しながら診療していきますので、どうぞ気軽にお越しください。