矢野 美由紀 先生の独自取材記事
はるやま医院
(宮崎市/田吉駅)
最終更新日:2025/05/29

JR日豊本線・南宮崎駅から車で10分、2021年に開業した「はるやま医院」は、内科、外科のほか、肛門外科、下肢静脈瘤、緩和医療、リハビリテーションなど、幅広い医療を提供し、地域住民の健康を支えている。同院で診療を行う矢野美由紀先生は、睡眠時無呼吸症候群に関する専門知識と豊富な知見を持つ医師だ。もともとは高齢者との何げない対話が大好きで、高齢の患者と接する機会の多い生活習慣病の診療をしていた矢野先生。そんな矢野先生が、命に関わる可能性もある睡眠時無呼吸症候群に興味を持ったきっかけや、睡眠と健康の密接な関係、治療の実際、良い睡眠を取るための秘訣など話を聞いた。
(取材日2025年4月25日)
患者との何げないやりとりの中に喜びや信頼を感じる
先生が医師を志したきっかけを教えてください。

子どもの頃から学ぶことが大好きだったのですが、高校生となり、その学びをどう生かすか進路を考える中で、「人の役に立つ仕事がしたい」という思いが明確になっていきました。また自分の性格から、間接的ではなく、実際に人と関わり、会話を通じて人の支えになれる仕事が向いていると考えていました。2年の時に読んだ「ストレスが身体に影響する」という内容が書かれた心療内科の本に出会い、心と体のつながりに深い関心を抱きました。医学の道なら、知識を生かしながら人と向き合える、そう確信し、医師をめざすことにしました。
その後、ご専門となる糖尿病などの代謝内科は、どうして選ばれたのですか?
大学時代、心療内科の実習に参加した際、患者さんの話に深く共感しすぎてしまい、一緒に涙することもありました。その経験から、自分は心療内科の医師には向いていないと実感しました。領域の選択に迷う中、公衆衛生学の講座で1ヵ月間、介護老人保健施設や特別養護老人ホーム、精神科病院などを週替わりで巡る実習に参加しました。自分のおばあちゃん、おじいちゃんのような高齢の方と会話することがとても楽しく、「高齢者の治療に関われる科はどこだろう」と考えた時、糖尿病や高脂血症などを診る代謝内科に興味を持ちました。生活習慣病を抱える患者さんと、症状や生活の話をしながら診療を進めるスタイルは、自分にとって自然で、やりがいを感じました。
患者さんとのやりとりで印象に残っていることはありますか?

患者さんとの何げないやりとりの中に、喜びや信頼が生まれる瞬間があります。特に高齢の方は、治療に関する特別な会話よりも、昔の出来事や日々の生活について話すことを好まれます。食生活や日々の工夫について話を聞き、「すごく頑張っていますね」と声をかけると、満面の笑みで返してくれる。そうした小さなやりとりの積み重ねが、とても印象に残っています。大学院で学んでいた間は基礎研究に携わっていました。細胞を扱った実験は、それはそれでとても楽しかったのですが、やっぱり細胞よりも人間の相手をする臨床の仕事が自分の本当にしたいことだと確信しました。
睡眠時無呼吸症候群による低酸素状態が体に与える影響
先生と睡眠時無呼吸症候群との出会いを教えてください。

子育てと仕事を両立するために市民の森病院の健診部門で勤務を始めた時、人間ドックの一環として行われていた検査を通じて、初めて睡眠時無呼吸症候群と出会いました。当時はまだ一般的な認知度も低く、検査や患者指導に責任を持つ立場として、自らも睡眠や関連疾患について深く学ぶ必要がありました。睡眠を学術的に学ぶ勉強会に参加しスペシャリストの先生方に師事したことが大きな転機となりました。この疾患は糖尿病などの生活習慣病と似ており、患者さんの生活を丁寧に聞き取ることが診療の鍵となります。会話を通じて治療に導くスタイルは、高齢者との対話が好きだった自分にとってその延長線上で、患者さんの年齢層や問診内容の幅も広がり、やりがいも高まりました。
睡眠時無呼吸症候群とは具体的にどのような病気なのでしょうか?
睡眠中に10秒以上続く低呼吸や無呼吸が1時間に5回以上あり、いびきや日中の眠気といった症状や糖尿病や高血圧症をお持ちの方が睡眠時無呼吸症候群と診断されます。ひどい人では2分以上も呼吸が止まることがあり、放置すれば命に関わる可能性もあります。呼吸が止まると全身が低酸素状態になり、心臓は必死に血液を巡らせようと脈拍が上がり、脳は眠りから覚醒させようとすることで、まるで毎晩徹夜しているような負荷が体にかかります。そのため、体がだるい、眠い、集中力の低下、頭痛などの症状が出ます。毎日そのような状況が積み重なって、心房細動、脳梗塞、高血圧、頻尿など、脳や血管、そのほかの臓器への影響が出てきます。また、認知症の発症リスクも高めます。脳は睡眠中に情報を整理し老廃物を排出しますが、無呼吸による酸素不足でその機能が妨げられ、アミロイドβという物質がたまりやすくなるんです。これが認知症の原因の一つになります。
治療法について伺います。

睡眠時無呼吸症候群の治療では、CPAP(シーパップ)という医療装置を主に使用します。これは睡眠中に鼻に装着するマスク型の装置で、空気を送り込んだ圧で気道を確保し、無呼吸を防ぐという仕組みです。装置で記録されたデータは自動で医師に共有され、医師は症状によって空気圧の調整を行います。最初は装着に違和感を覚える患者さんも多いのですが、軽量ですし、毎晩使っていることで慣れてくる方がほとんどです。治療は糖尿病などと同じく、ずっと継続していくものですが、心血管疾患による死亡率や、認知症発症のリスクを減らすことが期待できる点で意義のある治療です。CPAP療法は保険適用で、症状が安定した場合は、より簡便なマウスピースに切り替えることも可能です。
いびきや寝汗、夜間頻尿、強い眠気など気軽に相談を
睡眠時無呼吸症候群にかかりやすい人の傾向、特徴について教えてください。

まずは年齢ですね。年齢が高くなればなるほど呼吸する際に使う筋肉が弱くなってくるので発症率が上がります。2つ目は肥満。実は舌にも脂肪がつくんですよ。それで脂肪の重量で舌の付け根が後ろの気道に落ちやすくなるため呼吸がしづらくなります。3つ目は顎が小さいことです。顎が小さい人も舌の付け根が気道に落ちやすく、無呼吸やいびきをかきやすくなります。骨格が小さい女性に多いのですが、子どもの頃からその状態に慣れているので気づかないことが多い。家族にいびきを指摘されて初めて異常に気づいたという女性の患者さんもいます。また、アレルギー性鼻炎の方で口呼吸に慣れている人も、気づかないうちに無呼吸になっていることが多いです。子どもの睡眠時の無呼吸は扁桃腺肥大によるものがほとんどです。子どもの場合、睡眠障害により成長ホルモンが出ず多動など発達障害につながる恐れもあるため、いびきなどのサインに気をつけてあげてください。
睡眠時無呼吸症候群のリスクを軽減するためにできることはありますか?
まず簡単なのは横向きで寝ること。仰向けだと舌が喉に落ち込みやすくなるので、抱き枕などを使って体勢を横向きにするといいですね。睡眠時無呼吸の原因となる加齢と骨格は防ぎようがありませんが、肥満は自分で防ぐことが可能です。舌や喉の周囲についた脂肪を落とすにはダイエットが必要です。あとはアルコールを控えること。また、鼻の通りを良くするためにアレルギー性鼻炎の治療を行い、口呼吸を防ぐことも重要です。そして一番大切なのは睡眠リズムの維持。平日も休日も同じ時間に起きて、朝日を浴びて、タンパク質を含む朝ごはんをしっかり食べることです。わが家では朝から唐揚げが出ます(笑)。朝にタンパク質を取ると、眠りに必要なメラトニンというホルモンの分泌を促し、睡眠の質の向上につながります。
読者へのメッセージをお願いします。

これまで大学病院や専門病院での勤務が多かった私にとって、地域に根差した日常的な医療を提供する当院での診療は、新たな挑戦です。患者さんたちと日々の暮らしを共有しながら、まるで一緒に年を重ねていくような感覚で、皆さまの健康を支えていけることに大きなやりがいを感じています。睡眠医療を専門的に診られる医師は宮崎県内ではまだそう多くはありませんから、いびきや寝汗、寝相の悪さ、夜間頻尿、日中の強い眠気や倦怠感など、もしかして睡眠時無呼吸症候群かもしれないと感じたら、どうぞお気軽にご相談ください。もちろん、風邪や生活習慣病といった一般的な内科診療も行っておりますので、日常の不調も安心してご相談ください。