大迫 廣人 院長の独自取材記事
おおさこ耳鼻咽喉科
(宮崎市/宮崎駅)
最終更新日:2023/10/03

宮崎駅から高千穂通りをまっすぐ西へ、飲食店やクリニックが立ち並ぶ国道10号から大工町交差点に入ったエリアにある「おおさこ耳鼻咽喉科」。2008年に開業した院内は白を基調とし、患者がリラックスできる空間をめざしている。優しい語り口で穏やかな人柄の大迫廣人院長はめまい治療のエキスパートだ。再発することが多く日常生活に支障を来すこともあるめまい。しかし、外傷と違って周囲から理解されにくいので、一人で悩みを抱える患者も多いという。めまいの専門家としてさまざまな相談を受けながら、近隣の病院や他の診療科のクリニックとも提携し、患者がスムーズに治療や手術を受けられる体制をめざす同院。地域に密着した診療で症状に悩む患者に寄り添う大迫院長に、難治性めまいの治療や耳鼻咽喉科の受診のタイミングについて話を聞いた。
(取材日2023年8月3日)
大学病院等での経験を生かし、地域密着型の医療を提供
こちらのクリニックの特徴について教えてください。

2008年の開業以来、めまいを中心とした耳鼻咽喉科全般のご相談に地域密着で応じてきました。人間の首から上のうち、眼科と脳外科以外は実は耳鼻咽喉科の領域。顔の神経とも密接に関係がありますし、聴覚だけでなく、嗅覚や味覚にも関わってくるので、耳や鼻はとても奥が深い器官なんです。クリニックのあるこの場所は、以前は別の先生が耳鼻咽喉科のクリニックを営んでおられました。その先生が県外に行かれるタイミングで私が引き継いで開業したのが当院です。開業に伴って院内を白を基調とした明るい雰囲気に改装したのは、病院特有の暗いイメージを払拭したかったからです。
最近、目立つ主訴はありますか?
めまいに関する専門的な診療を行っていることもあって、めまいの患者さんが中心だと思います。年齢でいうとお子さんとご高齢の方の割合が多いですね。中には遠方から時間をかけて通院してくださる方もいます。耳石が動くことによるめまいや突発性難聴の患者さんもいらっしゃいます。最近でいうと、新型コロナウイルス感染症の罹患後症状でめまいを訴える方もいらっしゃいます。
ご出身は鹿児島と伺いましたが、なぜこの地で開業されたのでしょう。

私は地元の鹿児島大学を卒業後、一度就職をしましたが、どうしても医療の道を諦めきれず、宮崎医科大学(現・宮崎大学医学部)へ入学しました。2008年に卒業後、主に同大学や国立都城病院で18年ほど臨床の研鑽を積み、豊富な症例や高度な技術を要する手術など、数多くの経験を積むことができました。宮崎は、宮崎医科大学元学長の森満保先生や国立都城病院の元副院長の永井知幸先生をはじめ、いろいろな方にお世話になった場所です。困ったときにも助け合えるのがいいと思い、宮崎での開業を決めました。大工町を選んだのは、宮崎出身の人はみんなが知っている有名なエリアだからです。前にも申し上げましたが、開業のタイミングで、偶然にもここでクリニックを構えていた先生が福岡に移られることになり、譲り受けたこともご縁だと思っています。
専門家としてめまいの治療に注力
めまいにはどのような病気がありますか?

めまいの患者さんは耳鼻咽喉科の疾患では比較的多いです。脳などの中枢性のめまいを除外し、内耳疾患である末梢性のめまいを的確に判断することが重要。経験のない体動時の強いめまい症状も4日~1週間以内に寛解が望めることが多く、点滴注射などの薬物療法にも効果が望めます。典型的な内耳めまいの病気は良性発作性頭位めまい症や、メニエール病、めまいを伴う突発性難聴など。この良性発作性頭位めまい症の完治をめざすには耳石置換法などのリハビリテーション体操が必要です。薬物治療は症状の軽減が望めるもののすぐに再発します。薬物治療は短期間に留め、半規管の病巣部に応じたリハビリ体操を行います。またメニエール病やめまいを伴う突発性難聴とよく似た疾患に外リンパ瘻(ろう)と呼ばれるものも。頭部打撲や外傷歴がある、また重荷を扱う仕事、腹圧のかかるくしゃみなどが原因で内耳にある極小の窓からリンパ液が漏れる病気で、手術が必要です。
医師になってからこれまで印象に残っているエピソードを教えてください。
以前、担当した外リンパ瘻の患者さんが印象深いです。この方はめまいに悩んでいて、いろいろな診療科を受診したものの原因はわからないまま。一時は症状が緩和したように見えたようですが、仕事のストレスをきっかけにめまいや嘔吐が悪化し、受診されたときには仕事ができない状態でした。恩師のいる病院で検査や数回の診療を受けた結果、外リンパ瘻と診断され、翌朝すぐさま手術が行われました。診断から手術までが迅速に進んでいることからわかるように耳鼻咽喉科の疾患は治療のタイミングがとても大切です。受診が遅れると治療が難しい場合もあります。
他に印象深い症例などはありますか?

もう一つ印象深いのは、海外で交通事故に遭った患者さんです。バイクから振り落とされて顔の神経が傷つき、顔の片側が麻痺してしまいました。現地には数ヵ月間の滞在で、帰国後、病院へ。大学病院で手術を行い手を尽くしたのですが、残念ながら顔の麻痺を完全に元に戻すことはできませんでした。その患者さんは就職活動を控えていたのですが、顔面の神経が動かなくなってしまっていたので、面接でかなり苦労されたようです。現在の医学でも時期を逸すると完全に治すことをめざすのは困難なのです。「もっと早く受診していたら」と思うと、医師としてもやるせない思いです。耳鼻咽喉科の疾患は顔の神経に関わりますから、あまり楽観的になってはいけません。治療は早いほうが元の状態をめざしやすいことを知っていただき、少しでも不調を感じたら、まずは受診することをお勧めしたいです。
早期受診の大切さを知ってほしい
受診のタイミングがとても大切なのですね。

基本的には不調があればすぐ受診してほしいと思います。よく患者さんにお話しするのは、「片目が見えなくなったら、当日か翌日には受診するでしょう」ということ。難聴は片耳で起こるものですが、「実は1ヵ月前から聞こえなかった」という患者さんが少なくありません。耳鼻咽喉科の治療の緊急性はなかなか伝わっていませんが、受診のタイミングによって回復がめざせるかどうかも左右されるということを知ってほしいと思います。早ければ早いほうがベストですが、症状が出た時点で1週間以内に治療していけば患者さんにとってもちろん良いことですし、医師としてとてもうれしいものです。
医師をめざしたきっかけや勤務医時代のご経歴を教えて下さい。
明確な理由があって医師の道に進んだわけではないですが、子どもの頃に身内が早世したことが、一つのきっかけだったと思います。宮崎医科大学に進学した時は、耳鼻咽喉科領域で豊富な実績を残しておられる先生方が宮崎に来られるタイミングだったので、優秀な先生のもとで教わりたいと耳鼻咽喉科を選択しました。実はその恩師の先生方が2人とも鹿児島のご出身だったんです。開業する時に「地元の鹿児島ではなく、宮崎で開業してもやっていける」と思ったのは、この先生方の印象が強かったのかもしれません。大学病院では手術もたくさん経験しました。実は耳鼻咽喉科の手術はさまざまな診療科の手術の中でも手術時間が長いんです。朝9時に開始して休憩を取りながら20時間かかる手術もありました。開業後は日帰りや一泊の手術を行っており、耳の鼓膜穿孔閉鎖術や鼓膜形成術や、鼻の内視鏡下副鼻腔手術を行っています。
最後に読者へのメッセージをお願いします。

耳には神経がたくさんあって人体の中でも精密な器官です。耳掃除を習慣にしている方が多いですが実は耳垢が入り口にたまっているほど耳の奥はきれいなんです。耳の皮膚というのは特殊な構造で奥の耳垢が自然と入り口に出てくる仕組みになっています。耳かきをする場合は綿棒の先の白い部分が見えなくなったら入れすぎだと考えてください。人間の器官は車の部品のようにパーツを交換できるわけではありませんから一度悪くなってしまうと機能を以前の状態に回復させることが難しいんですね。耳鼻咽喉科は神経に関わる領域ですから、少しでも顔や耳に不調がある場合は迷わずご相談ください。現在、3世代で来院するご家族もいらして医師冥利に尽きる日々です。かかりつけ医としての役割を果たしている喜びと責任を感じながら、今後も微力ながら地域医療の一助となればと日々の診療に勤しむ覚悟を持ち、これからも患者さんのために邁進していきたいと思っています。