通うのがつらい透析に選択肢を
多職種連携による在宅医療
楠本内科医院
(遠賀郡水巻町/水巻駅)
最終更新日:2024/02/09


重い病気を患ってしまうと、「入院したままずっと過ごさなければならない」と思う人は多いだろう。もちろん入院が必要なケースもあるが、自宅で医療が受けられる「在宅医療」という選択肢もあることはあまり知られていない。「楠本内科医院」は、主に自宅で過ごしたいという高齢の患者やその家族に寄り添った在宅医療を提供しているクリニック。同院には院長の楠本拓生先生が中心となった在宅支援部があり、医療と介護の多職種連携を生かして適切な対応を行っている。また同院の特徴として、腎不全で人工透析が必要になった患者が少しでも安楽に過ごせるようにと、腹膜透析が行える環境を整えている点が挙げられる。今回は楠本院長と医師の東桂史先生、看護師長の中村健吾さんに在宅医療と腹膜透析について詳しく聞いてみた。
(取材日2024年1月11日)
目次
在宅でも安心して医療を受けられる体制を整え、患者と家族に寄り添う
- Q在宅医療とはどういったものなのでしょうか。
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A
▲患者、その家族を交えて話し合うために設けられたスペース
【楠本院長】在宅医療は、もともと外来で通っていた患者さんが加齢や体調面などが理由で通院できなくなった際、私たちのほうから訪問して診療するというものです。また大きな病院でがん治療を受けていたけれど、最期は自宅で過ごしたいという患者さんもいらっしゃり、そのような方たちも在宅医療が受けられます。さらに、「自宅で普段どおりの生活をしながら支えたい」という患者さんのご家族の希望にも応えられると思います。できる範囲で治療を行いつつ、私たち医療従事者が患者さんと伴走していくのが在宅医療だと考えています。患者さんが自宅にいて何かあればすぐ私たちが駆けつけるので、安心して日常生活を送っていただけたらと思います。
- Q具体的にどのようなことを行っているのでしょうか。
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A
▲医師、看護師、ソーシャルワーカーと、チーム全員で共有を行う
【中村看護師長】在宅医療では尿道留置カテーテルや在宅酸素機器使用などの医療的ケアが必要な方々とその家族を支えています。そのような医療を自宅で受けられることを知らないケースも多く、在宅医療の認知度の低さに課題はあると感じています。病気があっても最期まで住み慣れた場所で過ごしたいと願う方もいますので、命の終わりを迎える瞬間までお世話をさせていただきます。緩和ケア含め大抵のことは自宅でもできるのではないかと思っています。在宅医療を円滑に進めていくために多職種連携と情報共有を重視し、それぞれの専門性を生かしながら残された時間を安心安楽に療養できるように支えてくのが私たちの使命だと考えています。
- Q医療を自宅で受けるメリットは何でしょうか。
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A
▲左から、東先生、楠本院長、中村看護師長
【東先生】特に末期がんや余命が決まっている方で、最期まで自宅で過ごしたいと思っている患者さんにとっては、住み慣れた場所で穏やかに生活できる点がメリットだといえます。また、患者さんの中にはご家族の支援を受けられず受診が途絶えてしまう方もいらっしゃいます。受診が途絶えると状態の悪化や救急搬送につながります。そのような患者さんたちのもとへ訪問し、治療が続いていく点も大きなメリットなのではないでしょうか。私たちは、患者さんが在宅医療に入る前の準備の段階から関係各所と連携を取って患者さんとご家族をサポートいたします。ご家族にとってもメリットを感じていただければうれしいです。
- Q腹膜透析について詳しく聞かせてください。
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A
▲自宅で透析という選択肢を広める活動も精力的に行っている
【楠本院長】腹膜透析は、自宅で実施できる透析です。おなかの中に透析液を入れ腹膜を使って透析を行う方法で、血液透析に比べ体への負担が少ないんです。透析液の交換は高齢で患者さん自身でできなければ、ご家族や訪問看護師が行います。1回30分程度かかりますが他の時間は自由に過ごせるので、患者さんの生活スタイルを保てるんですよ。ちなみに慢性腎不全で人工透析が必要になった患者さんは、腎臓移植・腹膜透析・血液透析のどれかを選択します。その時の患者さんの状況を考え、可能であれば当院が得意としている腹膜透析をお勧めするようにしています。当院は腹膜透析に強い訪問看護ステーションと連携していて、適切な対応が可能です。
- Q先生にとって在宅医療とは何でしょうか。
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A
▲「自宅で過ごしたい」という希望をかなえるための体制を整備
【楠本院長】患者さんとそのご家族の意思を尊重して、自宅にいながら必要な医療的ケアを受けられるのが在宅医療だと思っています。できれば患者さんが元気なうちに、「今後どうしたいのか」「最期はどこで迎えたいのか」ということをご家族全員で話し合って決めていただきたいですね。その中に「在宅医療」という選択肢を入れていただき、必ずしも病院や施設で過ごす必要はないことを広めていきたいです。在宅医療をもっと普及させるために、私たちが地域の介護施設の人たちをサポートしながら教育も行い、患者さんがきつい思いをしなくていいようにしていきたいです。在宅医療を通じた街づくりができることが理想です。