稻葉 隆繕 院長の独自取材記事
いなば心療クリニック
(春日市/春日原駅)
最終更新日:2026/01/06
春日原駅から徒歩5分。落ち着いた雰囲気のクリニックモールの中にある「いなば診療クリニック」は、稻葉隆繕院長が2018年に開業した精神科・心療内科のクリニックだ。精神疾患での入院が必要になった患者の治療にも数多く関わってきた稻葉院長。患者にもっとも伝えたいのは、「悩みや困ったことがあるなら一人で抱え込まず、誰にでもいいからSOSを出して、相談してほしい」ということだ。それが命を守るためにも大切だと語る稻葉院長に、クリニックを受診する目安、治療で得られる自己理解などについて詳しく話を聞いた。
(取材日2023年5月30日)
一人で抱え込まず友人・家族・医療機関などにSOSを
どんな患者さんが来院されますか?

40〜50代の働き世代の方が多いと感じています。うつ病、不安障害、適応障害、パニック障害など症状の程度はさまざまで、1〜2回ほどで終了する方もいれば、数ヵ月、数年通う方もいます。よく聞くのは「仕事に行こうと思ったけれど、足がどうしても進まないんです」という相談です。私が患者さん、もしくは患者さんになり得そうな方、今の自分の状況に悩んでいる方に声を大にしてお伝えしたいことは、「まずは誰かに相談してください」ということ。相手はご友人、ご家族、同僚、上司、趣味の仲間などどなたでも良いですし、それが難しければ、24時間対応している電話相談サービスなどもぜひ活用してほしいと思います。
悩みを抱え込まず、誰かにSOSを出すことがもっとも大事なのですね。
そうです。身近な人に相談して、それで気持ちがスッキリとして解決するならば、それが一番いいでしょう。それでも身近な人には話しづらい、不眠や抑うつなどの精神的な症状が明らかであれば、私たち医療機関の出番となります。黙っていても心の中の声は外に聞こえませんし、誰かがひそかに悩んでいることにすぐに気づく人は、残念ながら多くはいらっしゃいません。「つらさを察してほしい」は基本的には望めないんです。だからこそ、ご自分で勇気を持って悩みを言葉にし、外に向けてSOSを出す。それがあなたの命を守ることにつながりますから。
SOSを出すことによって守られる命もあるということですね。

精神科の治療は「この薬を飲めば治る」というような明確な答えがありません。不眠症状があるならば睡眠導入剤など、それぞれの症状の対応方法やお薬はありますが、それらが患者さんに合うかどうかは患者さんによってまちまちです。それに精神科の課題は、患者さんご本人によるものだけではありません。人を含めた環境からのストレスによって生じる適応障害などはまさにそうで、ご本人がどれほど努力しても、治療をしても、環境が変わらなければ根本的な解決には至りません。だから他者への相談が大事なのです。当院では治療においても患者さんの意思を尊重するため、対話をとても大切にしています。
自立支援医療、傷病手当金など制度もアドバイス
心療内科・精神科に相談する目安などはありますか?

ゴールデンウィークなどの長期休暇明けは、誰でも「明日は会社に行きたくないな」と思いますよね。人間なので当然のことです。しかしそれが「もう仕事に行けないくらいつらい」と切実な状態であるのなら、それがたった3日であっても、それはもう医療の庇護下で休養すべきサインだと考えていいでしょう。そうなると、数日休んで気持ちが戻るもの、という範囲を超えてしまうと思います。「こんなに短い期間でも?」と驚かれるかもしれませんが、実際これまでの臨床経験で「一人で抱え込まず、早めに相談すればここまで悪化することはなかったのでは」と感じたケースは多々あります。治療期間も人それぞれで、適応障害のうち、環境が変わったことで回復が見込めるなら1ヵ月ほど、うつ病まで進行すると3〜4ヵ月ほどでしょうか。本当に甘く見てはいけないということが、この数字だけでもわかるかと思います。
もし休職となると金銭面が不安になる方もおられるのではないでしょうか。
そういったときにサポートしてくれる制度があります。まずは自立支援医療制度です。精神疾患の通院が継続的に必要な方の医療費の自己負担分を一部公費で負担し、患者さんは基本的に1割の支払いになります。ただ、あくまで精神科の治療での回復をめざすためのサポートとなります。「睡眠導入剤のついでに腰痛の湿布を」と言われても、そちらは3割負担になりますから、そこはきちんと理解を促すようにしています。もう一つが傷病手当金です。企業に勤めている方は毎月保険料を支払っていますが、病気やけがをしたとき、一定期間手当金が支給されます。会社を休んだ証明が必要なので、会社から説明があることも多いようですね。
回復をサポートするための仕組みもたくさんあるのですね。

他にも障害者手帳がありますが、こちらは申請が通りにくい傾向にあります。いずれにせよご相談いただければアドバイスできますので、遠慮なくご質問ください。そして治療で何より大切なのは、診療する中で、患者さんがご自分の性質や性格などを自覚していくこと。精神疾患はお薬を飲むだけでは回復が見込めません。もちろんお薬もとても大事で、落ち込みがひどく、体力・思考力が低下しているところを、お薬の力を頼ることもあります。ただ、だからといって、ずっと受け身でいては進展がありませんよね。ある程度思考力が戻れば、患者さん自身がこれからどうしていきたいかといった対話のフェーズに入っていきます。
個性を理解し、今度どうなりたいかをともに考えていく
実際にどのように患者さんとお話しされるのですか?

初診の際には、どんな仕事や生活をしているのか、家族構成、そして今回の疾患のトリガーとなった出来事について聞いていきます。これは精神科・心療内科のスタンダードな診察の方法なのですが、無理にすべてを聞き出すことはありませんので安心してください。そこで得た情報をもとに、対話に入ります。ですので、初診であれば30分、長いと60分ほどかかることもあります。治療でもっとも気を配っているのが「患者さん自身がどうしたいのかを明らかにしていくこと」です。いったん休職して体と心を休めたいのか、いずれは復職したいのか、それとも転職したいのか。ただ、抑うつ症状が強くなると思考力が通常よりも低下していますので、様子を見ながら行っていきます。「落ち込んでいるときに大きな決断をしない」というのはこういうことですね。
患者さん一人ひとりの個性や意思を大切にされているのですね。
基本的には患者さんご自身の人生ですから、患者さんの意思を尊重します。対話はご自分の得手不得手を理解することにもつながります。例えば他人と関わるのがつらいのであれば、営業職などは避け、一人で集中できる流れ作業のお仕事などを勧めることもあります。どうしても向いていないものがあってストレスになっているのなら逃げてもいいんですよ。命を守るためですから。同時に「対人関係が苦手なのを克服したい」という挑戦の気持ちも否定しません。ただ、その分茨の道になると思いますと言いますし、ストレス発散はどうするかなどのアドバイスは必ず行います。人にはそれぞれ個性があるので、必ずしも「頑張ったことが必ず正しい」とは言えませんが、だからこそ個性を自覚し、ストレス発散方法などでバランスを取りながら社会との関わり方を身につけていく。これが診療の大きな意味なのだと思います。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

繰り返しになりますが、悩みがあればまずは相談すること。その一歩を踏み出してほしいと切実に思います。誰かの手を借りるのは恥ずかしいことではありません。そうすれば何かしらの解決策、もしくは次の相談の道筋が見つかりますから。自分の向き不向きを客観的に見つめ、どうしたら自分らしくいられるのか、自分は今後どうなっていきたいのかを、一緒に考え、歩んで行きましょう。「困っている、悩んでいるなら、SOSを出す」。これだけは忘れないでくださいね。

