成長ホルモンの不足による低身長
治療の機会を逃さず早めの受診を
植山小児科医院
(福岡市東区/千早駅)
最終更新日:2023/03/15


- 保険診療
ほかの子どもより小柄であったり、兄弟の同時期に比べて背が低いと「もしかして低身長では?」と不安になる親も多い。成長ホルモン分泌不全性低身長症は、名前のとおり成長ホルモンの分泌が少ないために身長が平均よりも低くなる症状だ。「植山小児科医院」の植山奈実院長は、福岡市立こども病院で骨代謝、肥満、低身長に関わる内分泌の分野で診療経験を積んできた医師。「兄弟やほかのお子さんに比べて小柄なだけで、あくまで平均の範囲内ということも多いです。一方で病的な低身長であるのに診察が遅く、治療が間に合わないお子さんも。気にかかることがあれば早めの受診をお勧めします」と語る。穏やかな雰囲気ながら治療への熱い思いを持つ院長に、低身長症の診断の内容や、不安に思う親へのアドバイスを聞いた。
(取材日2021年6月18日)
目次
ほかの子どもよりも小柄だと感じたら小児科に相談を。不安になりすぎず、規則正しい生活を送ることが大事
- Q低身長の判断基準を教えてください。
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A
▲気軽に相談してほしいと語る植山院長
診断のきっかけとしては、まずは1歳6ヵ月児健診、3歳児健診などが挙げられます。もう一つは親御さんが気づくパターン。例えばほかのお子さんよりも頭一つ分身長が小さいとか、年々ほかのお子さんと身長差が開いているなどでご相談にいらっしゃるケースです。身長の低さが本当に病的な原因によるものなのかを判断するもので、最も簡単でわかりやすいのが「成長曲線」というグラフです。子どもの成長を年齢別に表したグラフで、個人差があるように多少の差は特に問題はありません。治療を行うかどうかの基準となるのはそのお子さんの身長が「-2SD以下」であるかどうか。ここを下回っていると治療の対象として考えられるようになります。
- Q判断に迷った場合、どう対処すればよいでしょうか?
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A
▲検査を行い、成長を視覚的に確認する
身長が低いと思っても、例えば「お姉さんが平均よりも大きく、妹さんは相対的に小さく見えているだけ」ということもよくあるんです。こういう場合は成長曲線などを使って「平均身長の範囲内にあるので大丈夫ですよ」とご説明します。一方で、特に男の子の場合は中学生などでぐんと背が伸びますが、それを期待して待っているのであれば注意が必要です。男女問わず身長の伸び率は思春期の頃を境に止まりますが、それは骨の成長が止まるということ。実際に低身長であるとわかっても、それ以降に治療を行っても芳しい結果は得られにくくなります。気になる場合は、遅くとも小学3〜4年生あたりまでに当院のような小児科にご相談ください。
- Q低身長の原因は何でしょうか?
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A
▲成長曲線を用いて患者に説明する様子
脳にある下垂体から分泌されている成長ホルモンの分泌が、十分に行われていないことが原因です。また腫瘍が下垂体にできたことがきっかけとなり、成長ホルモンの分泌が足りなくなって、急に身長が止まるということもごくまれにあります。疑わしい場合はまず成長曲線を使って数値を割り出し、血液検査を行い、エックス線検査で手と手首の骨の成熟度を確認します。その上で、必要であれば脳神経外科でのMRIの撮影などへご紹介します。基本になるのは成長曲線です。この曲線がどう推移しているのかも重要なので、3ヵ月~半年ごとにチェックをしていく場合もあります。一度の受診だけで低身長の診断をつけることは少ないかもしれませんね。
- Q食事や生活習慣も、身長に影響するのでしょうか?
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A
▲早寝早起きと規則正しい生活が大切と話す植山院長
当院ではごくシンプルですが、早寝早起きと規則正しい生活、そしてアレルギーがなければ偏りのない食事をお勧めしています。中でも成長ホルモンは眠っている間に分泌されますから、良質な睡眠は欠かせません。親御さんの中には「牛乳を飲めば身長が高くなる」と聞いてたくさん飲ませようとする方もおられますが、飲みすぎは肥満の原因にもなりますし、牛乳の取りすぎは鉄の吸収を抑えるため貧血の原因にもなります。サプリメントなどに頼るのではなく、昼はよく体を動かし、ごはんをよく食べ、夜は遅くとも21時半には眠る。基本的なものばかりですが、これらの地道な努力が、低身長に限らず、健康な体づくりには必須なのです。
- Qこちらの医院で受けられる検査と治療について教えてください。
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A
▲成長ホルモンを補充するための注射器
成長曲線の確認、血液検査、そして手と手首のエックス線検査です。さらに検査が必要だと判断すれば、当院にて成長ホルモン分泌刺激試験を行います。また場合によって画像診断のため、脳神経外科や福岡市立こども病院などをご紹介します。そこでもし低身長だと診断され、治療をする必要があると判断されれば、当院では注射による成長ホルモンの補充療法を行っています。成長ホルモンはタンパク質なので飲み薬にすると胃で分解されるため、現在は注射でしか対応ができませんが自宅でできる治療です。期間が長くなるため費用が高額になるのがネックですが、一部は公的な医療費の補助が受けられる場合もあり、そういった説明もしっかり行っています。