白井 竜 院長の独自取材記事
白井内科医院
(北九州市八幡西区/筑豊香月駅)
最終更新日:2022/03/18
錦水橋バス停から徒歩1分の場所にある「白井内科医院」。有床診療所であった頃の名残を残した温かな雰囲気のクリニックは現在、2代目院長の白井竜先生に引き継がれている。院長は消化器内科医として内視鏡検査を深く学んできたため、同院では一般内科に加え胃・大腸内視鏡検査にも注力。「早くに検査をしていれば……」と後悔する人を多く見てきた経験から「地域のクリニックで検査を受ける意識を持ってもらうのはなかなか難しいものですが、重要性を広めたい」と意気込む。診察時には患者の話に病気のヒントが隠れていないか常に耳を済ませているそうで、「大事な人を亡くさないために、診察をしているんだと思います」と静かに、しかしどこか決然とした色を瞳にたたえて語る院長。患者の心まで慮る同院の特徴や診療スタンスなどについて話を聞いた。
(取材日2021年10月14日)
「大切な人を亡くさないために」思いを胸に診療を行う
院長が医師をめざしたきっかけからお聞かせください。
当院はそもそも昭和40年代に父が開業したクリニックで、もう60年ほど前のことになりますね。私が中学2年生の時に父は他界してしまい、それから私が医師になって戻ってくるまでの15年ほどの期間は、父の知り合いの先生方がつないでくれたんです。母が事務長をしていたので、何人もの先生たちに声をかけて……という感じですね。父が他界した時すでに開業から10年以上たっていて患者さんに必要とされる場所になっていましたし、スタッフも守っていかなければなりませんでしたから。その間に私も、いつかは実家を継ごうという思いを抱えながら福岡大学医学部に進み、無事消化器内科を専門とする医師として働き始めました。
内視鏡検査も実施されているのは、消化器内科での学びからなんですね。
当院では一般内科を幅広く診療しながら、胃・大腸、いずれの内視鏡検査にも対応し、日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医が検査をさせていただいております。検査に対する怖さがあれば、麻酔をかけることもできます。胃カメラ、大腸カメラにしても術者が違えば技量の差があるものですが、ごく小さな病変も見逃すことがないように細心の注意を払って検査にあたっております。
患者さんの特徴はありますか?
立地が市街地ではありませんので、一次産業に携わる方が多い点でしょう。ですので私も消化器内科が専門ではありますが、幅広い病気に対応し、もし必要があれば然るべき病院へと紹介しますし、その逆もあります。当院は実は2年前までは有床診療所でしたが、新型コロナウイルスの影響もあって患者さんの受け入れが難しいと判断し、クリニックへと形を変えました。しかしその分のスペースは今、発熱症状のある患者さんをご案内して診察をする個室として活用しています。もちろん、入り口も分けていますよ。それから主訴としては、高血圧や糖尿病などの生活習慣病のご相談がやはり多いですね。ほかには、30代~40代の「健康診断に引っかかったがどうすればいいのか」というご相談であったり、突発的なけがや風邪など、本当にさまざまです。
内視鏡検査を活用し、隠れた病気の早期発見に努める
特に注力されていることは何ですか?
やはり内視鏡検査ですね。とはいえ私がそこだけに時間を割くことができないため、内視鏡検査自体は大学の後輩でもある先生に来ていただき対応してもらっています。大学病院などの大きな病院と地域のかかりつけ医の大きな違いとして、検査への取り組み方があると思うのです。大学病院は検査をすることを前提に行くことが多いですよね。しかし、かかりつけのクリニックなどで検査を受けようと前のめりに考える方はそう多くはありません。ただ、やはり30〜40代の症状がない方でも、がんが潜んでいることもあります。ですからできるだけ早いうちから検査を受けていただきたいとは常々思っています。もちろん胃の調子が悪い、お尻から出血があるなど自覚症状がある方は別ですが、「自分はなんともないよ、元気だよ」と仰る方に無理に検査はできませんから、そのあんばいの見極めは難しいと感じています。
定期健診などの機会がないと、あまり検査をしていない方も多いのでは?
そうですね、つい先日まで元気だった方が突然大腸がんだったことがわかり、あれよあれよという間に……ということは、少なくないのです。そうなると、ご病気がわかった患者さんの顔もそうですが、ご家族のつらい表情を見るたびに喪失感にさいなまれます。でも「検査はいいよ」と言われる方に無理強いすることも難しい。だからこそ大事なのは、患者さんの生活に耳を傾けることなのだと思っています。いつもの診察の何気ない会話の中で、病気のサインが隠れていることもあります。そこを見落とさないことが大事だと思っています。
患者さんに自覚がなくとも、検査を受ける必要があるというサインを見逃さないことで発見につなげると。
日々の変化に細かく耳を傾け、話を掘り下げ、地道に患者さんと向き合うことが、結果的に病気を発見するための近道になるのではないかと考えています。必要のない検査を無理に押しつけることはありませんが、適切に検査を受けていただけるように尽力していきたいという思いは、いつもありますね。そしてそこが地域のクリニックの役目でもあると感じています。
「家族のためにも検査を受けてほしい」と伝え続ける
ほかに、診察などで工夫されていることはありますか?
これは私の診察スタイルというわけではないですが、今はやはり待合室も混雑しないようにしています。車で来られた方は受付後、一旦車に戻っていただき、診察が近くなれば電話でお呼び出しするという形です。とはいえ当院はやはり高齢の方が歩いていらっしゃることが多いので、その方々を外でお待たせすることはできませんから、そのあたりを含めて臨機応変に対応しているといったところです。土地柄、予約システムなども浸透しにくいと感じていますので、やはりこういった地道な対応が一番なのだと思います。
皆さん長く通っておられるのでしたら、診察時のお話も弾むのでは?
そうですね。和気あいあいと気軽に来てくださるのは本当にうれしいんですよ。時間に余裕がある限りはお話を聞きたいと思っていますが、人数が多くなってくるとなかなかそうもいかず……。とはいえ先程も言いましたように雑談から生活スタイル、ご家族の構成やさまざまな価値観、そして病気のヒントを得ることもありますから、それを受け止めた上で、患者さんにも「奥さん、お子さんのためにもぜひ体を大事にしてください」などとお声がけしています。そうするうちに「なぜ検査が必要なのか」を理解してくださるのではないかと。患者さんの人となりを理解することは、診察をし、病気を早期に見つけるためにもとても大事なことですし、ご家族以外の他人の立場でそういったことを親身になって言えるのが医者なのだとも思っています。
最後に読者へのメッセージをお願いします。
患者さんが大切なご家族との時間を少しでも長く過ごせるように、大事な人を亡くさないために、私は診察をしているのだと思います。繰り返しになりますが、早くにご家族を亡くされ残された方を多く見てきましたし、その分医師として「もっと早期に発見できていればあの方には違う人生があったのでは……」と考えることもたくさんありました。私自身も中学生で父を亡くし残された立場でもありますし、今では子を持つ親でもありますから、皆さんのお気持ちはよくわかるつもりです。今はそういった部分も患者さんと共有しながら診察を進めています。病気はある一線を超えると、治療が難しくなります。その前にできることの一つが、やはり検査なのです。大事な人を亡くさないためにも、本当に些細なことでも構いませんから何でも相談してほしい。これに尽きますね。