小野 信吾 院長の独自取材記事
おのクリニック
(北九州市小倉南区/企救丘駅)
最終更新日:2025/08/12

「高齢化が進むに連れ訪問診療の需要が増加し、今では午前中が疼痛に特化した外来で午後は毎日訪問診療を行うようになりました」。そう穏やかな表情で、ここ小倉南区企救丘での約30年を振り返る「おのクリニック」の小野信吾院長は、麻酔科を専門とする医師だ。外来では、慢性頭痛、首・肩・腕・膝・腰の痛みなどを軸に診療。多種多様な痛みやしびれに対し薬や注射、リハビリテーションで症状の軽減を図り、訪問診療では多職種連携に力を注いで、患者とその家族に寄り添った診療を行っている。少子高齢化が加速する中、「患者さんが安心して最後まで暮らせる場所をつくりたい」と介護事業にも注力し、今後も高齢者が最後の瞬間まで自分らしく幸せに暮らせる策を模索したいとほほ笑む小野院長。その地域医療にかける思いにふれてきた。
(取材日2025年7月15日)
疼痛診療、訪問診療ともにプライマリケアを重視
開院から約30年。これまでは先生にとってどのような時間でしたか。

開院当初は疼痛に特化した外来ということで痛みに対する治療を主に行っていたのですが、現在の介護保険制度になる前から末期がんの方や寝たきりの方を対象とした訪問診療も週1回程度行っていました。そんな中、高齢化が進むにつれて少しずつ訪問診療の需要が増加。今では午前中が疼痛の診療で午後は毎日訪問診療を行うようになりました。訪問診療は在宅の方だけではなく、介護施設などに入居されている方の診療も行っています。このように、これまでの30年は、新型コロナウイルス感染症の流行もありましたし、生活スタイルの変化、そして高齢化と時代の流れを実感した時間でもありました。
麻酔科を専門とされていますが、この分野を選択されたご理由もお聞かせいただけますか。
大学で尊敬する教授に出会ったことは間違いなく影響していると思います。麻酔科の主な役割は手術時の麻酔、救急も含めた術後の集中治療、痛みの治療、この3本柱なんですね。各診療科の先生とコンタクトを取りながら仕事をしていきますので、教授は当時から患者さんの身近な存在として総合的に寄り添う医療である「プライマリケア」には麻酔科が向いているとおっしゃっていました。その考えに私も共感。同じ思いを持ち研鑽を積んできました。これまでの経験は現在行っている診療でも発揮できていると思いますし、この分野を選んで良かったと思っています。
午前中に行われている外来診療についても教えてください。

外来ではさまざまな箇所の痛みが対象となります。その中でも特に多いのは慢性頭痛、首・肩・腕・膝・腰の痛みやしびれなど。整形外科や脳外科などを受診して痛みの改善があまり見られないといった方の来院も多いです。それだけ慢性痛でお悩みの方が多いといえるでしょう。当院では、薬、注射、リハビリなどによる痛みへのアプローチを行っており、リハビリは温めたり電気治療を行ったりといった消炎鎮痛目的の処置がメインとなります。また、全身管理におけるキャリアも積んできましたので、私で対応できるものに関しては一般内科分野も診ておりますし、対応できない場合は適した機関をご紹介させていただきます。
訪問診療では皆が幸せになる策を模索しながら診療を
一方、訪問診療ではどのような医療処置が受けられるのですか?

訪問診療に関しては、これまで来院されていた方が重度の病気になったケースや、ご家族からの相談、また総合病院から末期がんの方が退院する際に緩和ケアのご相談をいただくケース、老人介護施設からのご相談などさまざまです。基本的に、訪問する曜日を決めて、定期的に訪問し、診療を行うという流れになります。緊急時の対応についても、他の医療機関と連携して対応できる環境を構築しておりますので、まずは当院へご連絡いただき、状態に適した対応をお取りします。
訪問診療において心がけていることや大切にされていることをお聞かせください。
ご本人とご家族の意見も伺いながら、気管内挿管などの延命措置を希望するかなど、ご家族のご希望を事前に確認し、また病状悪化時にその都度確認し、進めることを心がけています。施設に関しても、お看取りまでされているところが増えてきていますので、どうしたら患者さんが穏やかなお気持ちで旅立てるかをご家族、関係者と相談しながら、最後まで見守っていくことを大切にしています。高齢者の10年って、本当に変化が大きく、残りの時間が少なくなってきます。要介護状態が長くなればなるほどご家族も疲弊されますし、特に認知症が進行するとご自宅での介護が難しくなるのは否めません。そういったときは、どうかご家族の方は無理をせず、ケアマネジャーさんなどにご相談いただきたいなと思います。施設と聞くとネガティブなお気持ちになる方も多いですが、決してそうではなく皆が幸せになる手段の一つだと捉えていただきたいなと思います。
介護事業にも取り組まれている背景には、そのような思いもおありなのですね。

私が高齢者介護施設も運営するに至った背景には、患者さんが安心して最後まで暮らせる場所をつくりたいという思いがありました。高齢になると、大小あれどほとんどの方が認知症を発症されます。進行すればするほど、ご自宅での生活は難しくなりますし、ご家族の生活も一変することが少なくありません。老老介護、独居生活の高齢者もたくさんいらっしゃいます。そういった方たちを目の当たりにする中、ご本人もご家族も安心できる介護施設をつくりたいと思ったんです。高齢化が加速する中、高齢者の介護問題はさらに深刻化するでしょう。しかし、これは誰もが高齢になり、誰かのお世話になる日が来ます。患者さんを最後まで見守りたいという気持ちが根底にありますので、今後もできるだけ苦痛なく最期の瞬間まで過ごせるよう、さらなる方法を模索していきたいと思っています。
在宅医療は多職種連携を密に行い家族の生活も守る
先生が医師としてのやりがいを感じる瞬間は?

患者さんとそのご家族の笑顔が見られたときに、医師になって良かったなと感じます。中でも終末期医療においては、ご家族が患者さんの死を受け入れる準備ができていることが非常に大事だと私は考えています。見送られる人、見送る人、その双方が笑顔で最後の時間を過ごせることが私のめざす終末期医療です。そのために、できる限り患者さんの苦痛を取り除き、穏やかな気持ちで過ごすことができるよう努めています。
社会的に病院完結型医療から地域完結型医療に移行中の今、どのような医療の提供をめざしていますか?
医療と介護、それぞれに特化した専門職間でしっかりと連携し、患者さんの生活を維持できる医療の提供をめざしています。訪問診療を長いことやらせていただき、医療だけでは成し得ないこともたくさんあることがわかりました。やはり、各領域に精通した人材が必要。地域における多職種連携がこれからの医療には不可欠だと考えます。そして、患者さんのご家族の生活もお守りすること。ご自宅での介護はどうしてもご家族への負担が大きくなりますので、ケアマネジャーさんへの相談を促したり、公的なサービスの利用など、行政とも連携しながらご家族の生活もお守りできたらと思います。
最後に今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

訪問診療の患者さんに対して思い描いているのは、動けるうちにどうしても行ってみたいところがあったら連れて行ってあげること。例えば関門海峡で最後に釣りがしたいという方がいらっしゃれば、介護者つきで短時間でもご希望をかなえて差し上げたい。その思い出づくりに私も参加できることが、医師としてのさらなるモチベーションにもなると思うんです。そして、皆さんにお伝えしたいのが、元気なうちにご家族とご自身の今後についてお話しいただきたいということ。元気な時だからこそご自身のお気持ちを伝えること、ご家族のお気持ちを知っておくことが大切だと考えます。外来に関しては、できる限りさまざまな痛みの軽減に努め、患者さんの生活の質を高めていきたいと思います。外来診療も訪問診療もその方に適した、そして皆さんが幸せになれる診療を提供できるよう取り組んでまいりますので、お困り事などがあればお気軽にご相談ください。