山田 康代 院長の独自取材記事
医療法人 山田内科医院
(北九州市小倉北区/小倉駅)
最終更新日:2025/07/31

小倉の街中から少し離れた、昔ながらの住宅地の中にある「山田内科医院」。院長の山田康代先生の父が1972年に開業したクリニックで、今は内科、神経内科、リハビリテーション科を標榜する。一般内科の他、認知症の診療や訪問リハビリテーションに注力。脳梗塞によるまひが固まった慢性期でも、「きついけれど、きちんと成果が出るリハビリテーション」の実践をめざしている。山田院長は日本リハビリテーション医学会リハビリテーション科専門医。その温かな人柄に引き寄せられ、地域の患者やスタッフが自然と集まってくるクリニックだ。「とことん問診をして、患者さんの生活にまで目を向けるよう心がけています」と語る山田院長に、医師としてのポリシー、リハビリテーションや認知症の診療にかける思いを聞いた。
(取材日2022年5月11日)
どこまでも問診を重視し、患者の“生活を診る”
こちらのクリニックの成り立ちから教えていただけますか。

私の父が1972年に開業した内科・消化器内科の診療所で、地域の方々、家族丸ごと診るような、まさに“町のお医者さん”という感じでした。当時、私たち家族はここの2階に住んでいて、お昼になると住み込みの看護師さんや学生さんが上がってきて一緒にごはんを食べたり、父の往診についてお年寄りの家を回ったり。往診のときに元気がなかった患者さんに、後でうどんを作って持って行ったこともありました。その方はうどんがお嫌いで食べられませんでしたが(笑)。往診で行っていたあのおばあちゃんが亡くなったとか、生きる死ぬを身近に感じる機会も多く、夜中に診療所のドアがどんどんたたかれて急患が運び込まれたり、対応に納得がいかないと理不尽なまでに怒る患者さんに父が根気良く説明していたり。覚えているのはいいことばかりではありません。医師の仕事の大変さを間近に見ながら、私は育ったように思います。
その大変な道に進み、後を継がれたわけですね。
子どもの時から周囲の期待を感じていたと思います。医師になろうと心を決め、福岡大学医学部に進学しました。父の後を継ぐために消化器を専門にしようと思っていたのですが、ちょうど研修2年目に脳卒中の救急に出会い、脳梗塞を起こした患者さんがみるみる元気になっていくのに感動し、神経内科に入局しました。県内各地の病院で、脳ドックや知能検査、パーキンソン病などの神経難病の診療、精神科勤務中に、重度認知症デイケアなどに取り組み、中でも、脳卒中のリハビリテーションを専門とし研鑽を積みました。勤務医としての経験が15年を過ぎた頃に父が体調を崩し、それをきっかけに2007年当院を継承しました。
どのような患者さんが多く来られていますか。

風邪などの感染症や生活習慣病など一般内科の患者さんが主で、半分は60歳以上の方。父の代から、親子3~4世代にわたって診ている地域の方もいらっしゃいます。当院はまるで“よろず相談所”。「役所から書類がきたけれど、これは何だろうか」「先生いいアパート知らない?」「夫や親戚ともめている」など、患者さんはいろんな話や愚痴をざっくばらんに話してくださり、私もじっくり伺います。一見、医療と関係ないように思えますが、その患者さんが日々どんな生活をしているのか知ることができる貴重な時間。食事指導をするにしても、毎日誰と食べているのか、1人なのか、誰が作っているのかなど、生活の状態を把握した上でアドバイスしないと意味がありません。“その人の生活を診る”ことが何より大事。大学時代、尊敬する教授に「問診が足りない」とよく言われましたが、それを今も心がけています。
慢性期でも諦めず結果を出すリハビリテーションを追求
ご専門のリハビリテーションについて、詳しく聞かせてください。

医師になったばかりの頃は、脳卒中は急性期に点滴治療を終えたら後は医師が特別やることはなく、リハビリテーション主導になると考えていたのですが、それが覆されたのが、遠賀郡の浅木病院での勤務経験でした。まひが残って固まった慢性期でも、積極的なリハビリテーションによって機能改善がめざせるのだと知りました。そこでは医師も看護師もみんなリハビリテーション室に集まってサポートする中、毎日4~5時間は集団訓練をしていて、昼間は病棟が空っぽの状態。休日も患者さんたちは自主的に集まって訓練していたくらい意識が高く、リハビリテーションの量も圧倒的に多かったですね。
まひが固まった慢性期でも、リハビリテーションの成果は期待できるのですね。
はい、もう変わらないと諦めるのは早いと思います。当院は、浅木病院と同じくハーシュバルの起立訓練法といわれるスクワットのような訓練を基本にして、下肢体幹訓練などを「訪問リハビリ」の中で指導しています。短期間だけでも投入して患者さんにやり方を教え、できれば毎日朝昼晩と自主訓練を頑張っていただきます。患者さんがどれだけ頑張るかにもよりますが、リハビリテーションによって日常生活動作のレベルを格段に上げることがめざせるはず。きついけれど、結果が出るリハビリテーションを実践していきたいですね。
訪問リハビリテーションは、どなたが担当されているのですか。

私が理想とするリハビリテーションのかたちをよく理解してくれている作業療法士です。もう20年以上の付き合いになりますね。「地域に根づいたリハビリテーション科専門医のもとで働きたい」という熱意を持ってやってくれています。介護保険での訪問リハビリテーションが主で、地域のケアマネジャーさんとも緊密に連携。私は、お受けできる数には限りがありますが、定期的な訪問診療や往診、看取りにも対応しています。
家族へのサポートを重視する認知症の診療
認知症の診療にも注力されているそうですね。

認知症専門の外来や重度認知症デイケアなどで培ってきた経験をもとに、認知症の診断、治療、家族へのアドバイスなどに力を入れていきたいと思っています。まずは丁寧に問診を取り、知能検査や神経の診察、必要な方は近隣の提携病院でCTやMRI検査を受けていただきます。認知症にも、アルツハイマー型、レビー小体型、脳血管性などさまざまなタイプがありますから、適切に診断をつけ薬を処方。また、ご本人や家族から生活の中でどんなことで困っているかを伺い、きめ細かなサポートや具体的なアドバイスができるよう心がけています。家の中に入り込むような問診を心がけ、患者さんとご家族をしっかり支えていきたいですね。
認知症と診断されるのが怖くて、受診をためらう方も多い気がします。
そうですね。受診を嫌がり、ご家族に半ば無理やり連れて来られる方もいますが、最近は「認知症」という言葉が広く受け入れられてきたのか、以前ほど嫌がる方は多くないように思います。家族に連れられてではなく、お一人で自ら受診される方もいらっしゃいますよ。受診のタイミングとしては、最近なんだか大事なことや新しいことを忘れるようになって、これまでできていたことができなくなり、生活に支障が出てきたとき。それが病的なものなのか、年齢によるものだから様子見でいいのか、早めに専門家の診断を受けることが大切です。気になることがあれば、「脳の健康診断を受けてみよう」くらいの気持ちでお越しください。
最後に、今後の展望をお聞かせください。

私は、患者さんとよくしゃべる医者だと思います。患者さんのご自宅を訪問したら、「こんなところにチラシを置いていたら滑って危ないよ」「刺し身につけるしょうゆはこれくらい」とか、いろいろ細かいことを話します。地域に根づき、信頼を得て、患者さんの家や家族の中に入り込み、ちょっと言い過ぎかもしれませんが、生活そのものを診療する医師でありたい。その思いはこれからも変わりません。病気のことでなくても、相談事があれば気軽に立ち寄って何でも話していけるような、今の雰囲気を大切に守っていきたいですね。病気が治ったら一緒に飲みに行こうと約束している80代後半の患者さんがいるので、それもぜひ実現したいと思っています(笑)。