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新田 智之 院長の独自取材記事

新田医院

(北九州市門司区/門司駅)

最終更新日:2023/07/10

新田智之院長 新田医院 main

門司駅から徒歩6分の場所に位置する「医療法人新田医院」は、1983年の開業以来、約40年にわたりかかりつけ医として地域住民の健康を支えている。午前中は外来診療で風邪や腹痛などの身近な症状から生活習慣病の管理、健康診断、そして午後は訪問診療でがんの緩和ケアや看取りまで対応。新田智之院長は「もし治らない病気や状態の場合、遠くの病院で独りで最期を迎えるのではなく、住み慣れた地域で穏やかに過ごすという選択肢もある」と話す。地域医療に携わって7年が経過、2019年より亡き父の後を継ぎ2代目院長として日々奮闘中。「苦痛が少なく穏やかに過ごせる在宅医療を地域で広めたい」と意気込む新田院長に、これまでのキャリアをはじめ、在宅医療にかける思いなどについて語ってもらった。

(取材日2022年1月8日/更新日2023年6月19日)

2代目院長として地域医療に貢献

ご家業が医院ということで医師をめざそうと思ったのですか?

新田智之院長 新田医院1

そうですね、小学1年生の時に進行がんだった家族が一時的に帰宅してきたのですが、痛みで苦しんでいる姿を目の当たりにし、子ども心ながら将来は医師になって、同じように苦しんでいる人たちを助けたいと思ったのが最初でした。そして10歳の頃に父が医院を開業し、働く姿を毎日見て育ったということがさらに影響したと思います。プラモデルを作るのが好きで設計や建築といった分野と迷った時期もありましたが、中学、高校と年齢を重ねていくうちに、がんの治療に携わる外科医になり、将来はこの医院を継ぎたいと考えるようになっていきました。

そういう理由から消化器外科という道を選ばれたのですね。

先ほどお話しした家族が胆管がんだったこともあり、大学卒業後は迷うことなく胆道や膵臓を専門とする消化器外科に進みました。以来、大学病院や関連病院などで主にがんの治療に取り組み、手術や検査に抗がん剤治療、4年間の大学院生活では研究活動など幅広く医療に携わることができました。そして40歳を過ぎてからはがんの苦しみを和らげることに興味が高まり緩和ケア医に転身しました。当時勤務していた病院では在宅医療も行っていたため、そちらにも関わることができ、専門の診療科以外にもさまざまな疾患を学ぶことができました。そのため地域医療を担うこちらに戻ってきてからも大きく戸惑うことはありませんでしたね。

在宅医療は先生の代から始められたと伺いました。

新田智之院長 新田医院2

開業後より長く入院診療も行っていましたが、時代の流れもあり10年前に廃止しました。しかしこの門司というエリアは高齢の方が非常に多く、実際にかかりつけ患者さんの中からも通院が大変になってきたという声があがってきました。そのような方々のところにわれわれが出向いていくというのが、これからの医療の在り方だと思ったのです。また、これまでは病院で最期を迎える人が多かったのですが、最近では「できればもう一度家に帰りたい」という方が増えてきました。勤務医時代に緩和ケア病棟で多くの経験させていただいたため、その恩返しとして、今度はぜひ在宅でも本格的に緩和ケアや看取りに取り組みたいと思いました。

在宅医療は“治す医療”から“支える医療”への転換

在宅医療ではどのような患者さんに対応されていますか?

新田智之院長 新田医院3

当院は緩和ケア充実診療所のため、大きな病院からのがん患者さんの紹介が多い状況です。実際に最期を迎える時まで自宅で過ごしたいという患者さん、自宅で看取ってあげたいというご家族からの相談がこの数年で格段に増えていますね。もちろん、がん以外の患者さんも多くいらっしゃいます。老齢に伴う筋力低下で歩けなくなったため通院ができない、認知機能が落ちて道に迷うため一人での通院が難しい、脳卒中の後遺症などで寝たきり状態の方など多岐にわたります。そして在宅医療を開始してみて多くの患者さんが複数の病気や訴えを抱えていることを実感するようになりました。例えば高血圧症や糖尿病の持病に腰痛や便秘、湿疹など、そのような場合でもきちんと応えられるよう毎日勉強です。

外来診療と在宅医療ではポイントも違うと思いますが、診療において大切にしていることはありますか?

「また来たい」、「これからも通い続けたい」と思っていただけるよう、スタッフ全員で心地良い雰囲気の外来診療を心がけています。在宅医療では、開始時には患者さんとご家族の不安を取る、安定期にはわれわれの存在で安心を与える、そしてお看取りでは納得ができるという3つのポイントを大切にしています。多くの方は、「医療=治す」とお考えですが、在宅医療では多くの場合が治すことが難しい病気や状態です。そのため“治す医療”から“支える医療”への考え方のギアチェンジが重要です。穏やかに過ごすためには多くの検査や治療ではなく、苦しみをキャッチしてそれを全力で解決することが必要です。そしてたとえ解決が難しい苦しみであっても寄り添えるよう心がけています。私は健康に不安が増えてから始まる在宅医療だけでなく、元気な状態を知っている外来診療を含めた両面的なアプローチが望ましいと考えています。

午前中は外来診療ということですが、どのような患者さんが多いのでしょうか?

新田智之院長 新田医院4

当院の診療科目は、外科・消化器内科・肛門外科・緩和ケア内科です。地域の診療所ということもあって、風邪をはじめ高血圧や糖尿病といった生活習慣病に代表される内科疾患、人には言いにくいお尻の悩み、切り傷などのケガ、腰痛や膝痛などの整形外科疾患、通院できるがん患者さんの医療用麻薬による痛みのコントロールなど、さまざまな疾患に対応しています。当院は無床診療所なので、入院が必要な方は連携している高度医療機関に紹介するようにしていますが、通院で可能な検査や点滴、縫合などの処置などは毎日行っています。ある種、専門家というよりは地域のかかりつけ医のようなスタンスですね。私としても地域の皆さんに貢献できているところに喜びを感じています。

外来診療と在宅医療で最期まで地域で過ごすサポートを

在宅医療では、スタッフ間のコミュニケーションも重要だと思いますがいかがですか?

新田智之院長 新田医院5

実際、一人の患者さんに対して関わるスタッフは10〜20人、多い時は30人という多人数になります。人によって伝える情報が違ってしまうと、患者さんやご家族に不安を与えてしまいます。よって関わる人数が多くなるほど情報の共有をしっかりと行い、診療方針を統一するということが大切です。そのため患者さん本人やご家族はもちろん、スタッフを含めたチームでのコミュニケーションが重要になってくるのです。在宅医療では患者さんの緊急時への対応にも備えなければなりませんから、訪問看護師や薬剤師、歯科医師、ケアマネジャー、介護職などの多くの職種との細かな連携が欠かせません。そのため時間や場所を選ばないインターネットツールを利用しての連携体制を取っています。また院内にカンファレンスルームを備え勉強会や患者さんごとの検討会などを行い、ケアの質を向上するように努めています。

今後の展望を教えてください。

私が在宅医療を始めてから7年がたちましたが、九州はまだまだ在宅医療では遅れているように感じます。特に在宅での緩和ケアや看取りに関わることに苦手意識をもっている医療・介護職が多い印象を受けますね。よってまずは私が取り組んでいる在宅医療を発信することで、一人でも多くの仲間が増え、地域で穏やかに過ごせる環境が整備できると信じています。最期までご家族と、あるいはお1人であっても住み慣れた場所で穏やかに過ごせる素晴らしさを伝えていければ幸いです。

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

新田智之院長 新田医院6

昨年、患者さんにより温かみを感じてもらいたいという想いから院内をリニューアルをしました。診察室のオレンジ色の壁は緩和ケアのシンボルカラー。すべての苦しみを和らげたいという思いを込めているので、来院時はそんなこだわりを感じて欲しいと思います。前述の通り、これまで大きく外来診療と入院診療があったところに、在宅医療という第3の選択肢が生まれました。もちろん必要時には入院することは当たり前ですが、長い時間を病院で過ごすのではなく「時々入院、ほぼ在宅」をめざしてはいかがでしょう。住み慣れた地域で穏やかに長く過ごすためのお手伝いが在宅医療です。そして、たとえ治らない病気であっても病院から家に帰ることは可能です。病院の医療連携室はもちろん、地域では私たち医師だけではなく、役所や訪問看護ステーション、調剤薬局、ケアマネジャーなど、相談できる窓口はたくさんありますのでお気軽にご相談されてみてください。

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