古川 明 院長の独自取材記事
古川医院
(喜多郡内子町/内子駅)
最終更新日:2021/10/12

歴史ある街並みが残る愛媛県喜多郡内子町。そこで地域の人々に寄り添ってきた「古川医院」は、内科・胃腸内科の医院として幅広い診療にあたっている。白を基調とした外観や、パステルカラーのソファーが置かれた待合室には明るい雰囲気がただよう。農村景観保全やグリーンツーリズムなどの取り組みで知られる同町だが、暮らしているのは高齢者が多いという。そのため、院長の古川明先生が重視するのは、患者の健康に関する相談相手として診察の中で丁寧に話を聞くことだ。また、患者や家族の意向を尊重しながら、在宅医療での看取りにも取り組んでいる。穏やかな口調で語ってくれる古川院長に、診療で気をつけていることや、在宅医療の取り組みなどさまざまな話を聞いた。
(取材日2021年4月8日)
地域医療を支えるために内科の道へ
医療の道を志したきっかけを教えてください。

父が医師でしたので、他の職業についてはよく知らないまま、父の姿を見て医療の道に進みました。私は内子町の出身ですが、大学は神奈川県の聖マリアンナ医科大学を卒業しました。卒業後はすぐに愛媛大学に戻ってきて、第一内科という血液感染症の内科に入局しました。愛媛大学では他に第二内科や第三内科といって心臓や肝臓系の内科があったのですが、第一内科が幅広く一般内科を扱っていたのでそこを選びました。もともと地元の内子町に戻って開業することを考えていたので、地域の方々に広く必要とされるのは一般内科なのではないかと思ったからです。ただ、父は私と違って産婦人科の医師だったので、当院も初めは産婦人科をやっていて、出産も取り扱っていました。
お父さまの医院を継承するかたちで開業されたのですね。
そうですね。私が物心ついた頃にはすでに父は開業していたので、当院自体は50年ほど前からあったと思います。私は愛媛大学の第一内科を経て、県内のいくつかの病院で勤務した後、20年くらい前にこの医院に帰ってきました。私が戻ってきたとき父はまだ健在だったのですが、小さい医院なので二診体制にするにはスペースも広くなくて難しかったんです。そこで、私が当院で診察にあたり、父は大瀬地区に分院を建ててそちらに行くことになりました。父を分院に追いやってしまったようなかたちにはなりますが、ちょうど大瀬地区は医師が数年前に亡くなって無医村状態になっていたので、そこを補う意義がありました。
来院するのはどのような患者層ですか?

一般内科ですので、基本は子どもからご高齢の方まで診察します。ですが、この地区では当然ながら住んでいる方々の年齢層が高いので、1番のボリュームゾーンは70代ですね。都市部の松山市でいうところの「ご老人」というのはここでは若いほうに入ってしまうのではないかと思います。80代90代の方も元気に歩いて来院されますよ。患者さんの保険は社会保険と国民保険と後期高齢者とありますが、後期高齢者の保険を扱うことが最も多いです。この地域は産業が少ないこともあって社会保険が少ないですね。松山市などでは国民保険より社会保険のほうが多いと思うので、保険の構成にも違いがあります。数年前にこの地域に小児科の先生が開業されたこともあって子どもを診ることは少なくなったのですが、風邪などで受診されるお子さんも多かったです。
診察室でも在宅でもコミュニケーションを重視
診療の中で特に気をつけていることはありますか?

ご高齢の方は耳が遠いことが多いので、診察の際には大きな声でわかりやすく話すようにしています。また、お話が好きな方も多いので、何でもよく聞いて、患者さんが話している間はさえぎらないようにしています。逆に若い人ほど症状を具体的に話せないような方もいらっしゃいますが、私自身わりと話しやすいほうだと思うので、診断するにあたって困るようなことは少ないですね。ご高齢だといくつかの病院に通われているケースも多く、「他の病院では聞けなかったんだけど」と気になっていることを打ち明けてくれることもあるので、そういった相談にものっています。また、患者さんの身体的な負担を減らせたらと考え、胃カメラは嘔吐反射の少ない細径内視鏡にしたり、大腸検査はカプセルタイプのものも使ったりしています。
在宅医療にも取り組んでいると伺いました。
この地域は愛媛県の中でも在宅や看取りに力を入れるモデル地区に指定されているので、7人ほどの開業医と看護師、ケアワーカーなどが月に1回合同会議や症例報告会をして連携を図っています。私1人で在宅医療は担えないので、さまざまな人に助けてもらいながら取り組んでいます。ご自宅での看取りを行う上では、患者さんを中心とした家族構成や、ご家庭で患者さんを主に見る方、ご家族の中で強い発言権をもつキーマンとのコミュニケーションをしっかりとることが重要だと考えています。だいたい亡くなられる1ヵ月ほど前からは頻繁にご自宅へ伺うようになりますが、それまでは訪問看護師さんのほうが患者さんと深く関わり合うことになります。ですから訪問看護師さんから患者さんに関する話を聞いたりして情報を共有することは大切にしています。
自宅での看取りにはどのような意義を感じていますか?

今は新型コロナウイルス感染の流行が続いている影響もあり、感染予防の観点から病院では患者さんの最期にご家族が立ち会えないケースがあります。特に県外からご家族がいらっしゃった場合、面会ができなかったりすることが多いです。そこで、最期は家族で迎えられるようにと、亡くなる1週間ほど前に病院からご自宅へ帰られたケースが数件ありました。在宅では常時医師や看護師がいるわけではないので病院の環境には劣りますが、患者さんそれぞれの状況に応じては、点滴や酸素の装置があればご自宅でも十分に過ごせることがあります。病院でも在宅でも、治療できることがなくなると緩和ケアに入ります。在宅緩和ケアは「死ぬ」ために帰るのではなく、最期の時を「生きる」ために帰るのです。がんの患者さんには痛みを和らげるために麻薬なども使いながら様子をみていく必要があるので、薬に関する勉強も日々していますね。
なんでも気軽に相談できる医院をめざす
明るい色合いの待合室とお庭が気になりました。

当院は10数年に建て替えたのですが、そのとき設計してくれた方がビタミンカラーを意識して待合室を作ってくれました。建て替えるまでは父が開業した当時の古い建物だったので、印象は変わったかなと思います。もともとここは造り酒屋さんが持っていた広い土地で、その一角を父が改築して当院を建てました。ですから今でも庭や茶室は残っているんです。庭の池にいる鯉は、私の娘が子どもの頃に夜市でとってきたものなんですよ。小さな鯉を放流していたら、20数年の間にかなり大きくなりました。話に詰まったときなんかは庭を見せると皆さんに喜んでもらえますね。
ところで、休日はどのように過ごされていますか?
家でプラットコーテッド・レトリバーとゴールデン・レトリバーという犬を2匹飼っているので、犬たちと遊んでいます。当院の2階にある自宅で飼っているので、普段も診察室まで鳴き声が聞こえてきますよ。休日は車に乗せてぐるぐるしたり、大きい犬なので妻と2人でそれぞれ連れて歩いたりしています。うちはもう娘も巣立ち、妻と2人の生活なので、新型コロナウイルス感染症が流行する前と後で特に過ごし方が変わったことはなく、もともと巣ごもり生活ではありましたね。娘は医師にはなっているのですが、私とはまた違って病理の道を進みました。今は眼科の医師と結婚して大学病院に勤めているので、この医院に戻ってくることはないかなと思っています。
今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

患者さんにとって、なんでも相談できる場所であり続けたいと思っています。当院は父の代から地域に寄り添ってきた医院なので、私も「身近な町のお医者さん」として患者さんのさまざまな相談にのることが大切な役目だと感じています。今も、ここにきて単にお話をするのを楽しみにしてくれる方もいます。普通にお話できて、体調に変わりないことがわかるだけでも十分意味があります。もう私が開業してからも長くなり、父が亡くなってから何年もたちますが、自分が子どもの頃から知っている方が来てくださったり、父の昔のことを聞くような機会があるとうれしいです。かかりつけ医としては当然のことだと思いますが、病気を見落とさず、早く見つけることをやりがいに感じながら、これからも地域の方々の診察にあたっていきます。