大西 康之 院長の独自取材記事
大西内科医院
(四国中央市/川之江駅)
最終更新日:2021/10/12

閑静な住宅街に突如現れる、木々に囲まれた屋敷。その一角に立つ「大西内科医院」は、四国中央市で少年時代を過ごした大西康之先生が故郷に開いた、地域のかかりつけ医院だ。その開業は1993年だが、江戸時代から続く由緒正しき御典医の屋敷だったという建物は1912年築。当時の面影を残した院内で一般内科診療を展開している。国の登録有形文化財でもある建物は、歴史情緒あふれるたたずまい。まるでタイムスリップしたようなノスタルジックな雰囲気だ。そんな近代建築とそのルーツに惚れ込み、この地で医療を続ける大西院長に、開業の経緯や診療において大切にしていることなどを聞いた。
(取材日2020年11月13日)
大正時代の面影を残す、森の中の診療所
歴史を感じるすてきなたたずまいですが、そのルーツとは?

もともと、ここには江戸時代から続く医院がありました。小松藩の飛地として藩の代官とともに移ってきた御典医の高橋家がルーツで、その後も明治・大正・昭和と医業を展開されていました。私は子どもの頃、この近所に住んでおり、風邪をひいたときなどには受診をしていたのですが、「いつかこういうところでのんびり医者をしたいな」と、漠然と将来の自分をイメージするきっかけになりました。広大な敷地の中に医院と住居があって、周りは塀と木々に囲まれていて…、森の中の診療所というのが、ロマンがあっていいなと。理想的なライフスタイルに思えたのです。
少年時代の憧れをかなえたのですね。どのように開業まで行き着いたのですか?
宮崎医科大学を卒業後、将来的に地域で開業することを考えて内科を選択し、香川大学医学部で勤務医として7年ほど経験を積みました。ちょうどその頃に、高橋家の先生が亡くなられて、この地が売りに出ていたんですね。ご親族の方は北海道で既に開業されていたために管理が難しく、私が継承しなかったら、この建物は取り壊されて更地になるか、別の建物が建つだろうと。ご親族の方からもぜひということで、譲り受けることを決意しました。
こちらの診療棟は国の登録有形文化財だそうですね。

そうです。1912年に医院として新築された建物で、2001年に国の有形文化財に登録されました。伝統的な入母屋造の瓦葺屋根に板張りの壁、洋風窓といった和洋折衷な大正期ならではの建築様式です。内部も当時の面影をできる限り残しており、ケヤキを用いた天井の格子などは城郭や寺と同じような造りです。そのため、修繕などをする際には宮大工に依頼しています。敷地内には高橋家が住居にしていた屋敷も立っており、こちらも書院造りでたいへん見応えがありますよ。伝統建築の研究家として知られる大学の先生が見学に来られた際には、現存天守である高知城と同等の造りだとおっしゃっていました。
医療と介護の両面から地域の高齢者をサポート
来院される患者さんの年齢層や、多い症状はいかがですか?

専門は循環器内科で、勤務医時代は脳卒中などの患者さんを診ることが多かったのですが、開業以降は一般内科として幅広い患者さんに対応できるよう努めています。風邪や胃腸の不調、生活習慣病などの方が多いですね。私は尼崎で生まれ、10歳で両親の故郷である四国中央市に引っ越してから大学進学まではこの近所に住んでいたので、子どもの頃に通っていた駄菓子屋のおばさんとか、当時接していた方々が数多く患者さんとして来てくださっています。なのでご高齢の方が中心ですね。
敷地内にあるグループホームもそんな地域の方々のために開設されたのでしょうか。
そうですね。開業当初から往診に力を入れていまして、通院が難しくなったご高齢の患者さんのお宅を訪問していました。以前はご自宅への訪問が多かったのですが、2000年に介護保険制度が始まったことで高齢者施設が増えてきて、それに伴って往診先も施設が増えてきたんですね。高齢者施設のニーズの高まりを感じたこともあり、2001年にグループホームを開設しました。というのもこの敷地、すごく広いんです(笑)。現在のグループホームの場所にはもともと別の建物があったのですが、老朽化により壊すことになって、それなら規模的にグループホームがいいだろうと、それも一つのきっかけになりました。利用者さんは、当院の患者さんが多いですね。医療と連携しているので、ご本人にもご家族の方にも安心感はもっていただけるかなと思います。
先生が診療において大切にしていることはありますか?

小さな医院ですから、これといって変わったことをしているわけではないのですが、一番の特徴としては、時間を考えないことでしょうか。診療時間外でも、深夜でも、起きていたらいつでも診ます(笑)。夜間もお電話はすべて転送でつながるようにしていますし、普段から敷地内で休んでいるので、すぐのご対応が可能です。深夜急に具合が悪くなったときも診ますので、安心していただけたら。それが古き良き診療所というか、地域に根差した医院の役割だと思うんですよ。私としては、イメージしているのは江戸時代のお医者さん。その昔、高橋家はお殿様を運ぶ「輿」に乗って往診していたらしいのです。小松藩の家紋が入った立派な輿だったそうですよ。そのように、常に地域の人々に応えていくという姿勢も、建築とともに受け継いでいきたいですね。
地域に根差し、いつでも診るという姿勢を大切に
先生は江戸時代の面影にふれながら生活されているのですね。

私は平民ですが(笑)、現在私が寝ている母屋の部屋は書院造りで、この格式は上級武士のそれだと前述の伝統建築を研究される先生もおっしゃっていました。母屋は江戸時代の建物で、お風呂もお殿様が入るような立派な石風呂です。欄間など美しい細工がしてあって、とても豪華な造りになっています。診療棟は廊下に沿って診察室や処置室が配置されているのですが、廊下の突き当たりから中庭と母屋を臨むことができるので、お待ちいただく間など、どうぞご見学ください。
趣味や息抜きなど先生ご自身についても教えてください。
趣味はいろいろありますよ。囲碁・将棋歴はもう半世紀ほどになるでしょうか。大学時代には囲碁部、将棋部を立ち上げて、宮崎医科大学の囲碁チャンピオンにもなりました。将棋四段、囲碁五段です。また、プログラミングも趣味としては長いですね。オンライン将棋も日本では先駆け的につくりました。当時はアマチュアプログラマーが多くて、個人でなんでもつくる時代だったんですよ。開業医は仕事柄なかなか遊びに行く時間が取れませんから、診察室でちょっと息抜きとなると、パソコンでプログラミングをするのが一番の遊びですね。今もスマートフォンのゲームなどをつくって遊んでいます。
最後に、今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

医師をイメージした原点が、森の中の診療所でゆったりと医療に携われたらということでしたので、今後もそのスタンスは保っていきたいなと考えています。それから、建物はアンティークですが、コンビニのような利便性。これが大西内科医院ならではかなと。夜間診療も受けつけていますし24時間体制なので、熱が上がって心配なとき、急な腹痛などでおつらいときなどは我慢せず、遠慮なく頼っていただけたらと思います。また、当院は歴史的建造物としての見応えもありますから、ご興味がある方はぜひお気軽にご訪問ください。