小糸 光 院長の独自取材記事
興居島診療所
(松山市/高浜駅)
最終更新日:2021/10/12

1994年、興居島に住む人たちの健康を一手に引き受ける「興居島診療所」の院長として島に渡った小糸光先生。愛媛大学医学部や松山赤十字病院、四国がんセンターなどの放射線科で研鑽を積み、松山市の吉田病院(現・おおぞら病院)では内科での診療を重ねてきた経験を生かし、現在、島に暮らす1000人もの人々の健康を守っている。初期診断から治療、高度医療や介護との連携まで、地域のかかりつけ医として幅広い使命を担う存在だ。今回は、開業のきっかけとなった運命的な出会いから現在に至るまでのストーリー、そして「患者さんに気軽に相談していただける“なんでも屋”の医師を心がけています」と話す小糸院長に、地域のニーズに応えプライマリケアを担う医師としての思いをたっぷりと聞いた。
(取材日2021年3月12日)
地域に密着した、島民のかかりつけ医をめざして
医師を志したきっかけや開業までの経緯から教えてください。

父親が医師だったことが一つ理由としてあるのかなと思いますね。保健所で公衆衛生をしていたんです。それで私もおのずと医師を志すようになり、地元の愛媛大学医学部に進みました。卒業後は、大学の放射線科に入局したのですが、当時の最先端だった画像診断に興味があったんです。CTなど早期発見につながる診断機器が大きく進歩した時期で、私が医師になってからMRIも登場しました。それから松山赤十字病院や四国がんセンター、愛媛大学医学部附属病院のいずれも放射線科で経験を積みました。検査後の画像診断を主に行っていたのですが、その経験を通して患者さんをトータルに診る目を養いました。特定の臓器に偏らず、全身を診る心構えは現在につながっているのかなと感じます。
基幹病院で放射線科医師として活躍されていた先生がなぜ島の診療所に?
なんとも不思議なご縁なのですが、直前に勤務していた松山市の吉田病院(現・おおぞら病院)に来院されていた患者さんに興居島の方がいて、その方から「来てくれないか」と言われたんです。聞けば、島で開業していたご高齢の先生が引退されることになり、島から医師がいなくなる。そこで松山市が診療所の建物を造ったがまだ医師が決まっていないというんです。すでに3年ほど医師のいない状態になっていたようで、その患者さんも不便だとおっしゃられていて。それまで興居島は2〜3度遊びに行った程度で縁もゆかりもない場所でしたし、開業の意思もそれほどなかったのですが、本当にタイミングですね。その方に導かれるまま、開業することに決めたんです。
診療のコンセプトを教えてください。

地域に密着した、島民のかかりつけ医をめざしています。標榜は内科なのですが、「なんでも診ます」というスタンスですね。特にご高齢の方は一人でいくつもの病気を持っているので、総合的に診ることが重要になってきます。診察していたら別の病気が見つかることもありますので、そこを見逃さないように気をつけています。またいろんな病気を持っている患者さんに対して、治療の優先順位ですとか、お薬の処方に関しても、何が一番大事かを見極めることにも注力しています。例えばいくつも病院に通っていると、それぞれで処方される薬が重複している場合があります。飲む必要のない薬を処方されている可能性もありますので、そういう点も含めかかりつけ医としてしっかり寄り添っていくことを大切にしています。
医療と介護の連携体制で超高齢化が進む島を支える
やはり患者さんはご高齢の方が多いのでしょうか?

私は島の小・中学校の学校医をしているのでお子さんを診る機会もあるのですが、圧倒的にご高齢の患者さんが多いですね。興居島は松山市内と比べて少子高齢化がかなり進んでいて、開業当時は2400人くらいいた島民が現在は1000人ほどに減っています。現在の患者さんの平均年齢は85歳くらいでしょうか。上は98歳の患者さんも通院されています。ですから高血圧や糖尿病などの生活習慣病から腰痛、関節痛などの整形外科的なところまで、ありとあらゆる疾患の最初の窓口というのが当診療所の使命だと感じています。
先生が力を入れている診療とは?
もちろん治療は可能な限り行いますが、生活習慣病や腰痛・関節痛などに関しては、お薬や注射よりも日頃のケアが肝心です。予防と進行を遅らせるように、食生活の見直しや家でもできる筋力トレーニングなどの運動指導を行っています。また、その先にある医療と介護の連携も重要な任務ですね。長年診ている分、患者さんの家庭の事情もわかるので、適切に介護につなぐ使命を感じています。寝たきりや認知症の患者さん、また独居やご夫婦2人暮らしの方など、介護体制がないと生活していけない方をヘルパーさん、ケアマネジャーさん、施設のスタッフさんたちと連携して、みんなで生活を支えていかないといけません。足が悪くなったり、認知症が進んできたりという症状を見逃さず、患者さん一人ひとりに応じた介護体制を整えることが大切です。現在は島内にデイサービスやグループホームもありますので、連携体制は随分進んできたかなと思います。
訪問診療も行っているそうですね。

訪問診療は施設も個人宅も、患者さんのニーズに応じて島内全域伺っています。歩けなくなったり、寝たきりになったりで通院が難しくなった患者さんは訪問診療で引き続き診ていくという流れですね。訪問診療では、まずはお変わりないかどうか、全身状態のチェックを行います。持病などは長年の診療で把握していますから、定期的に伺って様子を見守っていきます。そうすることで、必要とあれば介護につなげることもできますからね。
病気を診る医療から、人を診る医療へ
早期発見から高度医療につなげることにも注力されているそうですね。

私たちのような地域に根差したかかりつけ医は、疾患を診るのではなく、患者さんを診ることが大切だと考えています。そうすることで必要に応じて高度医療につなげることも、介護につなげることもできるからです。当診療所では、エックス線検査や経鼻の上部消化管電子内視鏡と下部消化管用の電子内視鏡、腹部・心臓・血管などの診断を行う超音波診断装置といった検査機器を備えています。そして実際にがんなどの重大な疾患が見つかった場合には、基幹病院に速やかに紹介する体制を整えています。当院からは済生会松山病院が近いので、よくお世話になっています。患者さんのご希望などに応じて四国がんセンターや松山赤十字病院、愛媛大学医学部附属病院を紹介することもありますね。
先生はプライマリケアを重視されていると伺いました。
そうですね。身近にある総合的な医療、プライマリケアレベルの症状であれば、専門の医療機関を受診しなくても済むわけです。いろんな病気を持っている高齢者の場合でも、それぞれの疾患がプライマリケアレベルなら一つの医療機関で診療を完結できるので、そういう存在でありたいですね。もちろん特殊な病気は専門の医療機関に診てもらう必要がありますから、ここで対応できる症状か、そうでないのかをまず見極めて、手に負えないレベルは基幹病院に紹介する。その最初の入り口というのが私たちプライマリケアを担う医師の役割だと思います。
とてもお忙しいかと思いますが、ご趣味やリフレッシュ法はありますか?

50歳を過ぎてから、マラソンや自転車、水泳など持久系の運動をしています。最初は運動不足解消のためにとジョギング程度だったのですが、結構やり始めるとストイックになっていって(笑)。マラソンブームに乗って愛媛マラソンや東京マラソンにも出場しましたし、トライアスロンにもチャレンジしています。有酸素運動は生活習慣病の予防にもいいのでお勧めです。とはいえ私のメニューは激しすぎるので(笑)、ご高齢の患者さんには老化予防の筋力トレーニングなど、無理なくできるものをアドバイスしています。
最後に、今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。
まさか自分が島で開業医をするとは思っていませんでしたが、気づけば開業から30年がたとうとしています。開業当時から診ている患者さんとはもう30年近くの付き合いになり、一緒に年を重ねながらやってきました。看護師や事務のスタッフも患者さんとコミュニケーションをとってくれて、助かっています。今後も、今までと変わらず、患者さんの身近な存在であり続けたいなと思っています。困ったことがあればなんでも相談に乗りますし、調子が悪いところがあったら診ますので、どうぞお気軽にご来院ください。