桑原 敏彰 院長の独自取材記事
くわはら医院
(綾歌郡宇多津町/宇多津駅)
最終更新日:2025/11/07
宇多津中央公園から徒歩1分。クリーム色の壁に、三角屋根が特徴の建物が「くわはら医院」だ。1991年に開業し、2025年に桑原敏彰院長が継承。内科から耳鼻咽喉科へと標榜科目を変更したが、引き続き地域住民の健康維持に尽力している。クリニック継承までは大学病院などに勤め、手術も多く手がけてきた桑原院長。同院では一般的な耳鼻咽喉科診療に加え、嚥下に関する悩みへの対応や睡眠時無呼吸症候群の治療、花粉症の舌下免疫療法にも力を入れている。補聴器の外来も設置し、「地域に根差したクリニックとして使ってもらえたら」と語る桑原院長に、クリニックの特徴やこれまでのこと、今後の展望について話を聞いた。
(取材日2025年9月22日)
数多くの手術や難症例を経験し、クリニックを継承
クリニック継承までの経緯についてお聞かせください。

父が外科医だったので、物心ついた時には、自分も手術ができる医師になろうと思っていました。テレビなどの影響もあり、手術をする医師に憧れがあったんです。耳鼻咽喉科を選んだのは手術ができるだけでなく、症状が現れた最初の段階の相談から、術後のフォローまで一貫して行えるところに魅力を感じたからです。母校の大学病院では、耳鼻咽喉科頭頸部外科で悪性疾患や重症感染症など幅広く診ていましたが、鼻科学を専門に決めてからは副鼻腔炎や副鼻腔の腫瘍など、難症例や特殊な症例も多く経験してきました。さまざまな症例を診て、手術の経験も積み、そろそろ地元に帰ろうとしたタイミングで、新型コロナウイルス感染症が流行。医療界が大きく変わり、これまで通りの診療ができるかどうかもわからなくなったことから、帰郷を延期したんです。予定より遅れましたが、2025年5月に無事、継承することができました。
継承するにあたって、変更したことはありますか?
当院は1991年の開業以来、内科的な診療が中心でしたので、耳鼻咽喉科として生まれ変わるにあたって、医療機器はすべて入れ替えました。診察室にはマイクロスコープを設置し、座ったままで頭部を撮影できるCTも導入。こうした機器は難治性の副鼻腔炎や、慢性中耳炎などの病状を探るのに役立っています。聴力検査室も広いので、狭い場所が苦手な方でも抵抗なく検査が受けられるのではないでしょうか。耳鼻咽喉科はお子さんやご高齢の患者さんが多いため、バリアフリー設計も取り入れました。さらにはウェブ予約の導入によって待ち時間の短縮を、カルテの電子化で業務の効率化を図っています。お子さんが親しみやすいゾウのロゴやホームページを作るなど、他にも変更した点は多いですが、長年親しまれてきた名称は変更していません。診療科目は変わっても、地域に根づいたクリニックとして、これまでどおりに頼っていただければ幸いです。
患者さんはどんな方が多いですか?

まれに、父の代の患者さんが引き続き生活習慣病などを診てほしいと来られ、耳鼻咽喉科に変わりましたとお断りするケースがあるものの、耳鼻咽喉科のクリニックとしての認知は確実に広がってきました。ここは徒歩圏内に幼稚園や保育園、大きな公園があり、子育て世代が多い一方で、高齢の方も多く住まわれている地域です。年齢層ははっきりと分かれていて、幼稚園から小学校くらいの小さなお子さんとご高齢の方が、風邪や難聴で受診されることが多いですね。働き世代の方は仕事を休めないという事情からか、つらい症状があっても受診を避けたり、様子見をされる傾向の人が多いように感じます。しかし、早期治療が必要な病気も隠れていることがありますので、つらい時はご自分の体と向き合っていただきたいです。
脳と目以外、首から上は診療範囲。補聴器の外来も設置
こちらでは、どのような診療が受けられますか?

一般的な耳鼻咽喉科の診療に加え、アレルギーなどの専門的な治療にも対応しています。なかなか治らない副鼻腔炎なども、お気軽にご相談ください。私は鼻科学を専門として、難病に指定されている好酸球性副鼻腔炎などの治療経験も数多く積んできました。手術が必要な場合は総合病院をご紹介させていただきますし、患者さんの希望があれば、近隣の病院で私が執刀することもできます。また、飲み込む力が落ちてきた、むせるなどの症状がある場合の嚥下機能評価、それから喉や口、舌の筋力トレーニングといえる嚥下訓練なども、喉を直接診ることができる耳鼻咽喉科として積極的に取り組んでいきたいです。昨今の高齢化社会では、誤嚥性肺炎で亡くなる方や、入院する方が増えています。病院のような他職種と連携してのリハビリはできませんが、ご家族とも一緒に飲み込むところの画像を見ていただき、ご自宅でできるリハビリ方法をお伝えします。
睡眠時無呼吸症候群や、花粉症の舌下免疫療法にも注力されていると伺いました。
睡眠時無呼吸症候群は内科を受診するイメージをお持ちの方が多いのですが、鼻や喉の狭窄を見ることができる耳鼻咽喉科でも、CPAPの利用・管理をしていくべきではないかと考えます。ご本人は気づきにくいため、ご家族にいびきや無呼吸を指摘された場合は、一度受診されることをお勧めします。また、花粉症をはじめとしたアレルギー性鼻炎に関しても、検査から治療まで一貫して行うことが可能です。スギ・ダニ花粉に対する舌下免疫療法については、小さいお子さんでも治療が受けられます。アレルギー体質の子どもが、成長とともに次々とアレルギーを発症する「アレルギーマーチ」を防ぐためにも、アレルギーの治療は早期に始めていただきたいです。気になることがあれば、お気軽にご相談ください。
補聴器の外来も行っていらっしゃるんですね。

患者さんが希望するお店があればそちらをご紹介しますが、予約制で補聴器の外来を行っています。当院に補聴器選びの専門知識を持つ認定補聴器技能者が来られますので、私が耳の診察や検査をした上で、補聴器の相談やお試しをすることが可能です。当院ですべての工程を完結できるので、患者さんも楽だと思いますよ。難聴で補聴器が必要な場合は、身体障害者手帳の交付があれば補助が出る場合がありますし、聞こえに不安がある方はまずご相談ください。
患者の選択を尊重し、気軽に相談できる存在をめざす
診療のモットーを教えてください。

「医学的にはこれが正しい」というものがあっても、こちらの意見や考えを押しつけないようにしています。例えば、治りにくい副鼻腔炎などで「手術が一番ふさわしい」とこちらが判断しても、患者さんは年齢や仕事を理由に、手術をためらわれることがあります。その場合は最悪のケースを防ぎながら、できるだけ手術を回避できるように、薬や処置だけで対応するなどして経過を診ていきます。「こういう症状があるから、この治療だと早く回復が見込めますよ」というアドバイスはしますが、「絶対にこの治療を受けなさい」とは言いません。治療の選択をするのは、患者さん本人ですから。治せるのがベストですが、例え治せなかったとしても、医師として患者さんやご家族にどう関わるかが大切だと考えています。
今後の展望についてお聞かせください。
耳鼻咽喉科は耳、鼻、喉だけでなく、甲状腺や唾液腺などの首周りの頸部も診療範囲となり、関係する疾患も多い診療科です。まずは当院で睡眠時無呼吸症候群や花粉症の舌下免疫療法、嚥下訓練などにも力を入れていることを知っていただきたいと思います。大きな病院まで行かなくても、当院で治療を受けられるようにすることで、治療の敷居が下がればうれしいです。地域のクリニックとしては、気軽に相談できる存在でありたいですね。「これは何科にかかればいいんだろう」というときに最初の窓口として使ってもらえるのも、地域に根差したクリニックの在り方だと思っています。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

「耳そうじだけでもいいのか」「子どもの鼻を吸ってもらうだけでもいいのか」「鼻水や咳の症状だけなら耳鼻咽喉科は行きやすいけれど、風邪症状はまず内科に行くものだと思っていた」という声をよくお聞きします。症状が発熱だけであっても、最初から耳鼻咽喉科に来ていただいて大丈夫です。症状が長引くときなどは、直接鼻、喉を診ることで隠れた病気が見つかることもあります。他科を受診したほうがいい場合はお伝えしますし、アドバイスだけでもできればと思います。体のことで気になることや悩んでいることがあれば、どうぞお気軽にお立ち寄りください。

