田村 敬ニ 理事長の独自取材記事
田村内科医院
(東かがわ市/三本松駅)
最終更新日:2025/08/22

JR高徳線・三本松駅から徒歩約10分。1961年に開業した「田村内科医院」は、60年以上と長きにわたって、地域住民の健康を見守ってきた。色鮮やかな植栽に囲まれた木造のクリニックは、患者の不安が和らぐようにと、緑を基調に落ち着いた雰囲気でまとめられている。田村敬二理事長は、1986年に川崎医科大学医学部を卒業。その後は循環器内科を専門分野に、同大学附属病院や香川県済生会病院などで経験を積み、1999年に父の後を継いだ。現在は医師不足が危惧される地域の医療にも目を向けながら、尊敬する父のように、かかりつけ医としての人生を歩んでいる。「不安な気持ちで訪れる患者さんには、笑顔で帰ってもらいたい」と明るく述べる田村理事長に、医師を志したきっかけや患者と向き合う姿勢などを語ってもらった。
(取材日2025年6月19日)
患者のため尽力する父に憧れ、かかりつけ医を志す
医師をめざしたきっかけから教えていただけますか?

私が4歳の時に開業した、父の影響です。1961年当時の三本松は東讃地区の中でも人口が多く、父は毎朝6時から10軒ほど患者さんの家を回り、8時には外来をスタートしていました。昼休みは休憩中の看護師に変わって注射を打ち、夜は時間外の診療依頼も断らずに診療していました。昔は今ほど救急車が普及しておらず、夜間の往診も多かったので、入浴後はすぐ飛び出していけるように髪をセット。「依頼の電話を切ると同時に、先生が到着した」という逸話まであるほどです。そんな父の背中を見て育ったことから、私も小学生の頃には「父の後を継ごう」と思うようになりました。副院長として戻った当初は、父と一緒に朝も夜も訪問診療をしていましたが、父のリタイア後はかかりつけの患者さんを中心に、昼休みに訪問診療に取り組んでいます。今でも「お父さんにはお世話になった」と声をかけていただきますし、父は本当に頑張っていたなと尊敬しています。
ご経歴についてもお聞かせください。
川崎医科大学卒業後、2年間の研修後に、大学病院の循環器内科学教室に所属しました。心臓や血管の疾患は、症状があればすぐに診断して治療に入ります。短時間で勝負を決めようとするスピード感に魅力を感じていました。当時は深夜の救急患者の対応が多く、そのまま朝から通常勤務という日も当たり前でした。苦労はしましたが、若さを強みに、患者さんの笑顔を励みに日々を過ごしていましたね。その後はいずれ香川に帰ることを考慮して、岡山大学の第一内科に入局。1996年に香川県済生会病院に入職し循環器内科医長を務めました。勤務医として、10年余り経験を積んだところで三本松に帰郷しました。現在は父の意志を継いで地域のかかりつけ医として、幅広い年齢の方々を診療しています。
建物はリニューアルをされたのでしょうか?

院長就任のタイミングで、建物を木造で新築しました。底冷えしていた鉄筋コンクリートの時代に比べると温かく感じられ、患者さんからも「落ち着く空間になった」と好評です。内装は緑をイメージカラーに、家具やカーテンまで一つずつこだわって決めました。高齢の患者さんが多いので、「赤いところに靴を入れた」などと覚えやすいように、靴箱や診察室の扉は色分けをしています。入り口にはスロープを、院内には車いすのまま入れるトイレを用意するなど、バリアフリー設計にも対応。待合室の一角にある3畳ほどの小上がりは、幅広い年代の方に活用してもらっています。待合室にも診察室にも花を飾るようにしているので、「お花を見て元気になった」という声をいただくこともありますよ。
不安な気持ちを和らげ、笑顔で帰ってもらいたい
どのようなお悩みの患者さんが多いですか?

高血圧症や脂質異常症、糖尿病といった生活習慣病のご相談が多いです。季節性の症状で言いますと、毎年、梅雨の時季にはめまいで来られる方が増えます。大学病院時代には、こうした症状を診ることはほとんどありませんでしたが、今は同じ時期に同じような症状で悩む患者さんが多く、その原因や解決策がよくわかるようになりました。大学病院でお世話になった先生からも、「患者さんが先生で教科書」「患者さんの話をよく聞いてしっかり診察することで、診断がわかるようになる」と言われていましたが、本当にそのとおりだと実感しています。教科書を読んで学ぶことよりも、その後の臨床で患者さんから学ぶことのほうが圧倒的に多いと思います。開業医は経験がものを言う世界ですので、私はこれからも患者さんから学び続けたいです。
患者さんと接する際に、大切にしていることはありますか?
私は、病気をつくる最大の要因は不安だと思っています。不安を抱え、憂鬱な顔で来られた患者さんを笑顔で帰してあげることが私の仕事であり、私が一番大切にしていることです。特に一人暮らしの高齢者は不安も強くなりがちですから、とにかく明るく対応しています。時には、高齢の患者さんの前で歌ったり踊ったりすることもありますね(笑)。患者さんの不安をなくすためには、しっかりと話を聞き、丁寧に説明することも重要です。症状が出た原因や薬の使用目的、どういうふうに改善していくかなど患者さんが納得できるまで説明します。すべては、患者さんを安心させてあげるためです。説明後は同じ症状を繰り返さないよう、原因を見極めた上で治療にあたり、当院での治療が困難な場合には、積極的に専門の医療機関に紹介しています。当院は日頃から多くの病院の先生方と顔が見える関係を築いているので、紹介もスムーズです。
院外のお仕事も多いとお聞きしました。

学校医や園医、警察医としての職務に加え、大川地区医師会の副会長や、香川県医師会の理事としての活動も多々あります。臨時の休診日や、診療時間を短縮せざるを得ない日が増えてきたことから、そのお知らせのためにクリニックのホームページを立ち上げました。開業医の仕事は外来診療だけではなく、予防接種や特定健診、乳幼児健診、企業検診など多岐にわたります。患者さんと向き合う時間が減るジレンマはありますが、どれも地域の医療を守るために必要なことですので、ご理解いただけましたら幸いです。
開業医を増やし、地域医療を守っていく
お休みの日のリフレッシュ法は?

新型コロナウイルス感染症が流行するまでは、数多くのマラソン大会に出場していました。今は気分転換と健康管理を兼ねて、休日には1万5000歩を目標に歩いています。午前中は空気もおいしいですし、外で体を動かすのは気持ちが明るくなります。クリニックの周辺は隅々まで歩いていますから、この辺りのことにも詳しくなりました。ウォーキング中に患者さんとばったり会うこともあり、結果として患者さんとのコミュニケーションにもつながっています。
今後の展望について教えてください。
開業から60年が過ぎ、数世代にわたってお越しいただく患者さんも増えてきました。生活環境や家族歴なども自然と把握できており、その人に合った適切なアドバイスができる地域のかかりつけ医になったことを実感しています。しかし東讃地区、特に東かがわ市は新規開業が少なく、かかりつけ医となる開業医、さらに勤務医も減少傾向にあります。このままでは、近い将来、この地域で医療崩壊が起こる可能性があります。私も医師会活動の中で、大学病院などに勤務する若い先生に開業医の醍醐味を伝えながら、東讃地区で開業したり、一緒に地域医療を支える医師が増えていけばと思っています。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

できるだけ敷居を低くして、気軽に相談できる環境をつくりたいと思っています。皆さんの調子が悪い時にはすぐに診察し不安を解消できるよう、予約なしで受診していだけるようにしています。今の時代は、さまざまな理由によって不安やストレスを抱えがちです。一人で悩みを抱え込まずに、専門家や身近な人へ相談をしてもらいたいと思っています。当院では専門外の領域でも断らずに診させていただいておりますので、気になる症状がありましたら気軽にご相談ください。不安をなくし、毎日を明るく生きていくこと。それが健康への近道ですよ。