武部 晃司 院長の独自取材記事
たけべ乳腺外科クリニック
(高松市/太田駅)
最終更新日:2023/10/05
乳腺疾患専門の診断・治療施設として、乳がん検診や乳がん手術に数多く対応してきた「たけべ乳腺外科クリニック」。1997年の開業当時、術後の入院設備を備えた乳腺専門クリニックはまだ珍しく、全国的にも先駆け的存在だったという。乳がんは早期に治療を開始できれば完治が見込めるため、より精度の高い診断が鍵となる。日本乳癌学会乳腺専門医である院長の武部晃司先生は、熟練の女性技師らとともに早くから超音波検査を取り入れた乳がん検診を実行。手術に至った場合も患者を慮(おもんぱか)り、できるだけ乳房を全摘せず温存する術式・療法に取り組んできた。検診、手術、術後の緩和ケアまで、一貫して同じ場所で同じ医師が対応してくれる安心感は得がたいものだろう。クリニックの実績や診療の特徴、今後の展望まで、武部院長に幅広く聞いた。
(取材日2023年8月30日)
増加傾向の乳がん患者に寄り添う医療を提供
有床の乳腺専門クリニックとして開業されたと伺いました。
1997年に当院を開業し、今年で26年たちました。近年は乳腺を専門とするクリニックも増えてきましたが、当時はまだ数が少なく、特に有床で手術も行うクリニックはほとんどなかったように思います。私が乳腺疾患の診療と向き合うようになったのは、1990年から。岡山大学で学位を取得後、同年に新設された香川県立がん検診センターで勤務をするようになって初めて、乳がん検診や乳がん治療の現場を目の当たりにしたのです。これからは診断・治療を一元化する専門的な医療施設がますます必要とされるのではないかと感じ、がん検診センターで7年ほど研鑽を積んだ後、当院を開業しました。1997年5月から2023年9月までに行った乳がん手術の実績は3000例ほどとなります。これは県内でも特に多い数字です。
乳がん患者の数は増え続けているのでしょうか?
わかりやすいデータがあります。2001年1月から、2001年12月にかけての香川県における乳がん手術件数は343例でした。ところがその18年後、2019年1月から2019年12月にかけての手術件数は738例となり、ほぼ右肩上がりの状況となっています。乳がん患者は全国的に増加傾向にあるといわれていますが、香川県も例外ではないということです。また日本の場合、乳がんの罹患率は40歳後半~50歳をピークにして減少していくというのが一つのセオリーでしたが、昨今の年齢階級別乳がん罹患者数の推移は、欧米諸国のようにそのまま数値が上昇していくという傾向が認められます。70代、80代であっても乳がんに罹患する患者さんが以前より増えていますので、専門クリニックでの定期的な検診を怠らないようにしていただきたいと思います。
乳がんの手術では、乳房を失うイメージがあります。
乳がん患者は、乳房を全摘出することが当たり前だった時代もありました。しかし、当院では開業当初から温存治療や術前化学療法に取り組んでおり、できるだけ乳房を温存し整容性を保ちながら、がんとその周囲の組織のみを切除するよう努めております。2013年9月から2023年9月までに執刀した乳がん患者さんの統計を見ると、そのうち84%が温存療法でした。乳房は左右で双子のようなものですので、いずれもう片方にもがんが見つかる可能性を考慮し、術後は5年以上の経過観察も欠かしません。また乳がんの手術を行う際には短・長期的な入院が必要となりますが、当院の2階には個室を含め計15床の入院設備があり、食事やご家族との面会を用途とした広いデイルームも用意していますので、どうぞ安心してお越しください。
超音波検査を併用し早期乳がんを発見
こちらで行っている乳がん検診の、最大の特徴は何でしょう?
早期乳がんをより高い確率で発見するため、超音波を用いた診査・診断に精力的に取り組んでいる点です。乳がん検診にはマンモグラフィ検査と超音波検査の2種類がありますが、通常、市町村で実施される乳がん検診はマンモグラフィ検査のみ。国の方針として、マンモグラフィ検査と超音波検査の併用はまだ進める段階に至っていません。それでも私は超音波検査を併用することが、検査の精度を向上させる上で重要だと考えています。検査をして陽性になる方のうち、本当にがんだった方の割合を陽性反応適中度と呼びますが、マンモグラフィ単独検診と併用検診の陽性反応適中度を見比べると、明確な違いが現れるのです。私は併用が一般的でなかった時代から積極的に両方の検査を実施することで、早期乳がんの発見に尽力してきました。
検査機器も多く用意されていますね。
現在当院でそろえるマンモグラフィ装置は2台、超音波検査機器は6台。使用にあたっては、どちらも経験や技量が求められるものですが、当院の診療放射線技師と臨床検査技師は豊富な経験とトレーニングを積んでいますので、安心して検査を任せられています。スタッフは全員女性ですから、患者さんも安心して受診いただけるのではないでしょうか。市町村と乳がん検診の契約を結んでいる当院には、高松市だけでなく、さぬき市や東かがわ市、三木町、直島町からも乳がん検診の方が来られています。30代以降の方は早期発見、早期治療のため、超音波検査をご検討ください。
甲状腺がんの検査にもあたってきたと伺いました。
がん検診センターで働いていた際は、乳がん検診とともに甲状腺がん検診も行っていました。対象は成人女性のみですが、当時、にわかには信じがたいほど多くの方に甲状腺がんが発見され、愕然とした経験があります。検討の結果、甲状腺がんは一種潜在的な存在であり、5mm以上の大きさになれば検診で発見されるものの、1cm以内の大きさでは人体に害を与えないのではないかという結論に至りました。私はこのがんを無実のがん、「イノセント・カルチノーマ」と名づけ、一連の研究結果を世界に向けて発表しました。それから20年ほどたちますが、アメリカでは2、3年ほど前から、「1cm以内の甲状腺がんは手術を実施しない」という方針が標準化されています。がんを見つけたら手術をすることが、必ずしも正解ではないという事実を、これからも声をあげて伝えていきたいと思っています。
これからも専門性の高い診療を目標に
オリジナルのピンクリボンバッジを作られています。
乳がんによる死をなくす運動の世界的シンボルがピンクリボンです。当院にはラッキーという看板犬がいますので、ラッキーをデザインしたピンクリボンバッジを2種類制作し、この運動の啓発に役立てています。ラッキーは尻尾がくるっと巻いていて、よくジャンプをするかわいい犬です。ただもともとは、殺処分寸前にボランティア団体によって保護された犬でした。残念ながら、香川県は犬猫の殺処分数が全国ワースト2位。不幸な犬や猫が、1匹でも多く救われてほしいと強く願っています。
患者さんと犬との印象的なエピソードもあるそうですね。
当院のご近所に、ダンボールの中に捨てられていたという犬と暮らす高齢の女性がいらっしゃいました。やがてご自身に乳がんが見つかった後も、「犬の世話ができなくなるので」と手術をためらわれていたのですが、犬保護のボランティア団体の協力を得て、手術をする決心をされたと聞きました。それから数年経過した、ある診察予定日のことです。その患者さんが来院されず、連絡も取れない事態になりました。患者さんのお宅を訪れると、なぜか犬が大声で吠えている。よく見るとその方が倒れられていて、すぐに救急車を呼びました。犬が知らせてくれたのかもしれません。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
5、6年前から、鹿児島県の相良病院を中心とした一般社団法人さがらウィメンズヘルスケアグループの一員となりました。毎年多くの乳がん患者を受け入れ、各医療機関の業務連携を推進する一大グループです。昨今は病院・クリニックともに経験豊富な医師が不足しており、どこも人手が足りません。グループに所属することで今後も長く診療を続ける基盤を整え、これからも地域の皆さんに質の高い診療を提供していきたいと考えています。当院では患者さんのご意見を丁寧に伺うことを心がけ、できるだけ患者さんのお気持ちをくみ取りながら診療を進めています。超音波検査を取り入れることで早期乳がんを高確率で発見できるよう努めるとともに、がん発見後も美しい乳房を保つ手術の実践をめざします。専門クリニックとしての役割を果たすべく、誠心誠意診療に臨んでいますので、不安な症状があればご来院ください。あと、犬や猫は大事にしてあげてくださいね。
自由診療費用の目安
自由診療とはマンモグラフィ・超音波併用検診1万1000円/超音波検診5500円