谷 充理 院長の独自取材記事
たにクリニック
(広島市安芸区/海田市駅)
最終更新日:2024/06/25

JR山陽本線・海田市駅から徒歩で10分ほど。「たにクリニック」はこの地で75年以上続く歴史のあるクリニック。2006年に3代目院長に就任したのが谷充理先生だ。「祖父のもとには遠くからも患者さんが来られていて、すごいなと思ったんです」と語り、医師であった祖父と父の姿を見て育ち、自然と医師を志した。専門は消化器内科で、院長となってからは内科を中心とした外来の他、訪問診療にも対応している。診療する上で常に大事にしているのは、患者とのコミュニケーション。医師だけでなく、看護師をはじめスタッフみんなが患者の疑問や不安に寄り添い、話をじっくり聞くことを心がける。患者を思いやる温かい空気に包まれている同院。これまでの歴史や診療の特徴について谷院長に話を聞いた。
(取材日2024年5月27日)
地域を支える3代続く医院
クリニックは長い歴史があるそうですね。

もともと祖父が戦後すぐの1948年に、ここ船越で医院を開業しました。それから数えるともう76年になります。その後移転して、この建物が建ってからも50年はたちました。僕が生まれた当時は、周囲には病院が少なかったようで、遠方からも患者さんが来てくださっていたそうです。今は無床ですが、もとは有床診療所だったので、入院にも対応し、緊急の場合は夜間でも診ていたそうです。祖父や父が医師という家に育って、自然と同じ道をめざすようになりました。父の専門は消化器外科で、父と一緒にクリニックをやっていくなら消化器の外科と内科で診療できればいいなと思い、消化器内科に進みました。けれども父が早くに亡くなったので、実際に一緒に診療できたのは1年弱ぐらいでした。僕がここで診療し始めた当初は、患者さんのほうが僕よりここのベテランなので「おじいちゃんの頃はね」みたいな話も、患者さんからいろいろと聞かせてもらいました。
ご専門は消化器内科なのですね。
はい。消化器内科として主に行っているのは、胃の内視鏡検査です。ですが、検査しても原因がつかめないこともあります。例えば、おなかの調子が悪い、動きが悪いというような場合ですね。おなかの不具合はストレスと関係しているケースも多いので、そういう場合は患者さんのお話をよく聞いて、「一緒に考えましょう」と伝えます。そうすることで、患者さんも少し落ち着いて安心していただけるのではないかと思っています。やっぱり診療にはコミュニケーションが大切なんです。当院では看護師が患者さんの話をしっかり聞くことを大切にしていて、スタッフ全員で患者さんの症状を少しでも緩和できればという思いで取り組んでいます。
患者さんはどういった方々が多いですか? また、主訴を教えてください。

以前から来られている方は、高齢の患者さんが多いですね。地域的にもご高齢の方は多く、70代、80代、90代の方も来院されます。一方、ホームページを見て受診される方は30代ぐらいの若い方が多いです。内科全般の診療を行っていますから、消化器疾患以外にも高血圧症などの生活習慣病の方もいらっしゃいます。その他、「検査はしたけどなんだか調子が悪い」というセカンドオピニオン的に来られる患者さんや、腰や肩が痛いという方もいらっしゃいます。骨が折れていたら整形外科を紹介しますが、そうでない場合は、電気や温熱、超音波を使った治療器を使って関節の痛みの軽減を図っています。
地域一丸となって取り組む訪問診療
外来の他に、訪問診療も行っていらっしゃるんですね。

こちらに勤務し始めて半年ぐらいして、訪問診療をスタートしました。もともと父も往診を行っていましたし、有床でなくなったこともあり、自宅に診察に行くことは必要だと思っていました。ただし、当院では自前の訪問看護ステーションを持っているわけではないので、近隣の訪問看護ステーションや居宅ケアマネジャーと連携してチームで患者さんをサポートしています。患者さんは、認知症がひどくなり通えなくなった方やがんの患者さん、難病で人工呼吸器が必要だけど家で過ごしたいという方もいらっしゃいます。内科疾患の患者さんにかかわらず、例えば褥瘡(じょくそう)があって処置が必要な患者さんのようなケースにも対応します。
在宅介護をされているご家族の方へのサポートもなさっているそうですね。
家で看るというのは、ご家族は不安が多いと思います。「困ったときにこうしたらいい」「こういうときは連絡してください」など、お伝えします。その他に、ご家族だけで家で介護されているとどうしても体力的に厳しくなる場合があるので、患者さんのご家族が休むために、近隣の病院に一週間ぐらい患者さんを入院させてもらうレスパイト入院という方法も提案しています。安芸地区には3つ基幹病院があり、それらの病院と連携して必要に応じて患者さんを紹介することもあります。在宅医療は一つのクリニックでは成り立たないので、病院とクリニック、訪問看護ステーション、ケアマネジャー、薬局といった地域の各事業体が一つになることが大切だと思っています。
印象に残っている出来事を教えてください。

松江の病院に勤務していた時、食べ物を飲み込めなくなった患者さんに胃から直接栄養を取る胃ろうをつくったんですが、逆流性の誤嚥性肺炎にかかり、なかなか退院できなかったんですね。そこで、肺炎を回避するために胃から腸までチューブを入れて腸ろうの状態にして在宅に移ってもらいました。しかし、チューブが細くて詰まりやすく、家での栄養注入で「チューブが詰まった」と病院に連絡が来ました。詰まりを取るだけの処置のために病院に足を運んでもらうのも申し訳なく、師長さんに相談すると「先生、行ってきてください」と言われ、ご自宅に行きました。これが最初の訪問診療の経験です。当時の松江では病院で最期を迎えるのが当たり前という空気があり、患者さんを家で看ることは珍しかったので、その時のことは深く印象に残っていますね。
クリニックは患者に寄り添う温かい空間
大事にしていることを教えてください。

患者さんがなんでも言えるような雰囲気にしたいですね。診察後に扉をがらっと開けて、「言い忘れたことがあった」、「これ何のことでしたっけ?」など、患者さんに気軽に聞いてきてほしいです。例えば、他の病院でもらった薬について「これもらったけど、よくわからなくて」と僕に尋ねてくれれば、わかりやすく説明しますので、気兼ねなくお尋ねください。また、スタッフたちも患者さんが話しかけやすいような空気を大事にしてくれています。例えば、全然関係ない「孫の話なんだけど」と患者さんが話しかけてきても、皆丁寧に対応してくれています。僕の診察はそんなに長くないんですが、それとは別で看護師が患者さんの話を30分、1時間、聞いたりすることもあるんです。それで患者さんに少しでも楽になってもらえるといいなと思っているので、スタッフたちには助けてもらっています。
今後の展望を教えてください。
病院の働き方改革で入院の受け入れが難しくなってきており、今後、在宅医療のニーズは増えていくでしょう。そのため、訪問看護ステーションやケアマネジャーなどが地域内でつながり、みんなで協力して在宅医療が成り立つようにしていきたいです。昔は勉強会と称して顔つなぎ的な集まりを開いていました。互いの顔を知っていると何かあっても頼みやすいですし、「こういうことで困っている」と教えてもらえれば、「じゃあ、一緒に何かしようか」という話もできます。問題があるのにどこに相談したらいいかわからないままだと、その患者さんが不利益を被るので、困っているときに地域で孤立しないように、みんなで相談し合えるようなつながりをつくっていきたいと思います。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

皆さんには、体の調子が悪くなった時にいつでも相談できるような「かかりつけ医」を持ってほしいですね。今はインターネットでたくさんの情報が手に入りますが、それらの情報も全部が全部正しいわけではありません。一人で抱え込まず、かかりつけ医に相談されるとよいでしょう。また、いざという時こそかかりつけ医を頼ってほしいですね。例えば、夜間に体調が悪くなった時、地域の夜間急病センターを受診できればいいですが、タクシーがつかまらなくて行けないかもしれない。そういうとき、当院はカルテがある患者さんであれば、ご連絡いただければ対応できます。かかりつけ医がいることで得られる安心があると思います。当院も引き続き、人々に安心を届けられるクリニックとして地域に貢献していきたいですね。