佐藤 誠也 副院長の独自取材記事
松陽台佐藤クリニック
(出雲市/出雲市駅)
最終更新日:2025/09/05

1984年、出雲市白枝町の住宅街に開業した「松陽台佐藤クリニック」。入院設備を備え、分娩にも対応する産婦人科クリニックとして、40年以上にわたり地域の女性の健康と出産を支えてきた。現在は、出雲市の産後ケア事業も担っている。2023年には、院長・佐藤太聰(たかとし)先生の息子である佐藤誠也先生が副院長に就任。大学病院や基幹病院で婦人科がんの診療・手術を経験し、現在もクリニックでの診療と病院での手術を両立している。「クリニックを気軽に相談できる“医療の窓口”にしたい」と語る誠也副院長に、地域医療への思いを聞いた。
(取材日2025年7月15日)
さまざまな悩みに、家族のように寄り添うクリニック
診療体制について教えてください。

患者さんが混乱しないように、父が長年続けてきた診療スタイルを大切にしています。当院の診察は予約制ですが、困って来院された方をお断りしないのが父の方針です。診療の体制は二診制でなく、院長と私が交代で外来診療や分娩を担当しています。父は80歳を超えていますが、今も積極的に外来を担当し、「患者さんに家族のように寄り添いたい」とよく口にします。私も父と同じように、予約の有無に関わらず、患者さん一人ひとりに寄り添い、丁寧な診察を行うよう心がけています。その姿勢はスタッフにも浸透しており、皆が患者さんの声に耳を傾け、優しく対応しているので安心していただけると思います。私自身、そんなスタッフたちを大切にしたいとの思いから、働きやすい環境づくりにも取り組んでいます。子育てとの両立支援やシフトの柔軟化に加え、今後はIT化も少しずつ進めていければと考えています。
長らく大学病院や基幹病院で勤務されていたそうですが、クリニックでの診療はいかがですか?
父が「ここで生まれた子の孫がまた生まれるんだよ」と、うれしそうに話すのを聞くと、地域に根差した開業医ならではの喜びを実感します。実際、「自分もこのクリニックで生まれました」という患者さんは少なくありません。私がお産に携わった方が、その後も婦人科や産科で受診してくださる……そんなつながりをこれからも大切にしていきたいと思います。私は病院で婦人科がんの治療や手術に従事してきました。その経験を生かし、検査でがんの可能性がある場合には、紹介先の病院で想定される検査や入院内容を具体的に説明するようにしています。こうした対応が、患者さんの安心につながると考えています。
どのようなお悩みで受診される方が多いですか?

婦人科では、月経困難症やPMS(月経前症候群)、月経不順の相談が多いです。最近は、妊娠前からの健康管理として「プレコンセプションケア」への関心も高まり、妊娠を希望する方の健康相談やワクチン接種も増えています。そのほか、性感染症や子宮がん検診、更年期の症状や、閉経後の不正出血に加え、子宮や膀胱などが下がった状態になる「骨盤臓器脱」など、思春期からシニア世代まで幅広い方が来院されています。産科では、市販の妊娠検査薬で陽性になり、妊娠の有無を確認するために受診されるケースが多いですね。
地域の医療機関と連携し、安心できる出産を
分娩を担うクリニックは、地域にとって心強い存在だと思います。

分娩施設は全国的に減っており、その役割は大きいと感じています。当院で出産されるのは近隣の方が多いですが、少し離れた地域から来られる方や、里帰り出産で戻って来られる方もいらっしゃいます。当院では、正常妊娠であれば10週前後の段階で希望を伺い、無痛分娩を望まれる方や県外出身で里帰り出産を希望される方には、適切な医療機関をご紹介しています。高血圧、糖尿病などリスクのある妊婦さんや健診で異常が見つかった場合も、早めに設備の整った病院に紹介する方針です。
地域の医療機関との連携が大切なのですね。
当院では帝王切開は行っていません。経腟分娩が難しい可能性がある場合は、母子の安全を第一に考え、無理をせず早めに大きな病院に紹介しています。期せずして早産となった場合や、新生児に呼吸障害や早期の黄疸が見られる場合には、大学病院のNICUに赤ちゃんを搬送することもあります。お産だけでなく、がん検診の結果から精密検査や手術が必要な場合など、幅広く病院との連携を図っています。私自身、島根大学医学部附属病院や島根県立中央病院の医師と日頃から関わりを持たせていただいており、必要に応じて患者さんに最適な医療機関・医師をご紹介できればと考えています。
分娩の際の入院のタイミングや入院設備についてお聞かせください。

基本的には、陣痛が始まり、初産婦さんは5~10分間隔 、経産婦さんは10~15分間隔で子宮収縮が規則的になったとき、 あるいは破水や出血があった場合にご連絡いただき、入院の必要性について判断します。近隣の方はご自宅で様子を見ていただくこともありますし、遠方の方は早めに入院していただくなど、状況に応じて柔軟に対応していますので、ご安心ください。入院中は安心して過ごしていただけるように配慮しています。病室は大部屋・個室を選べ、食事は野菜中心の栄養バランスの取れたメニュー、手作りのおやつも提供しています。無料Wi-Fiも完備し、快適に過ごせる環境を整えています。
気軽に相談できる「医療の窓口」でありたい
産後ケアを実施しているそうですね。

出雲市の産後ケア事業として、通所サービスを行っています。出雲市役所に申し込み後、保健師との面接を経て利用許可を受けた方が対象です。内容は「産後のお母さんの健康チェック」「育児・授乳相談」「休息のサポート」「赤ちゃんの体重測定・健康チェック」「沐浴」などで、オプションで乳房マッサージも可能です。利用時間は午前または午後の3時間で、別途料金がかかりますが、午前利用には昼食、午後利用には手作りおやつの提供が可能です。
診察の際に心がけていることを教えてください。
患者さんは「手術はしたくない」「治療費が心配」など、さまざまな思いを抱えて来られます。私は一方的に方針を決めるのではなく、相談しながら治療を進めることを大切にしています。もちろん、どうしても手術が必要な場合にははっきりお伝えします。その上で、最適な治療を一緒に考えていく姿勢を心がけています。
誠也副院長の今後の展望をお聞かせください。

当院は、多くの皆さまに支えられて40年間歩んできました。次は50周年を一つの節目とし、さらなる進化をめざしています。小規模クリニックならではの機動力を生かし、時代の変化に柔軟に対応しながら成長を続けていきます。そのために、「人を大切にする」クリニックを、一緒に育ててくれる仲間を増やしていきたいと考えています。私たちの医療は、医師だけでなく、看護師・助産師・栄養士・看護助手・医療事務などの多職種の力が一つになってこそ成り立ちます。そこに、胎児計測ができる検査技師の力が加われば、診療の幅も広げることができますね。表に立つ人も、支える人も、誰一人欠けては組織は動きません。大変な場面もありますが、患者さんやご家族の笑顔にふれる瞬間には大きなやりがいがあります。いつの日か、この場所に関わった仲間が100周年を笑顔で祝えることが、私のささやかな夢です。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
まずお伝えしたいのは、「一人で悩まずに相談してほしい」ということです。当院は、どんな小さなことでも気軽に相談できる場でありたいと思っています。今はインターネットに情報があふれており、スマートフォンで調べて、悩み続けた末に受診される方も少なくありません。でも、早めに受診すれば、必要な検査や治療を受けられますし、問題がなければ安心できます。気になる症状があるときはもちろん、月経が重くて仕事や勉強、クラブ活動に支障があるとき、大切な旅行や試合、試験と月経が重ならないよう調整したいときなども、どうぞ遠慮なくご相談ください。当院でできる検査・診断・治療を行うのはもちろん、必要に応じて他の診療科や大きな病院につなぐ“医療の窓口”としてもお役に立ちたいと考えています。どうぞ安心してご相談ください。