北村 友一 院長の独自取材記事
南王寺診療所
(北葛城郡王寺町/畠田駅)
最終更新日:2024/12/10

奈良・王寺町の王寺本町4丁目バス停からすぐ。国道168号沿いに面した「南王寺診療所」は、この地域で長年にわたって地域医療に力を尽くし、近隣住人に親しまれてきた内科クリニックだ。前院長から診療所を継承し、2024年に新たな院長に就任したのは北村友一先生。長年の病院勤務で培った経験と、日本内科学会総合内科専門医、日本消化器病学会消化器病専門医としての知見を生かし、地域へのさらなる貢献をめざしている。バトンを渡されたクリニックで、どのような医療を展開しようとしているのか。現在の状況や患者に対する思い、将来へ向けた抱負などを、北村院長にじっくりと聞いてみた。
(取材日2024年11月18日)
誰でも診る、何でも診るという姿勢で地域をサポート
2024年4月に、ここを継承されたとお聞きしました。

はい。私はそれまで20年近く全国各地の病院に勤め、ここ10年での職場は京都府下でした。2年ほど前からそろそろ開業したいと考えていたのですが、京都近郊はすでに内科の開業クリニックが飽和状態で良い場所がなかなか見つかりませんでした。そこで奈良に目を向けてみると、この診療所が継承者をたまたま募集されていて、街の雰囲気も良かったので引き継ぐことを決めました。前院長と奥さまの前副院長先生は私が院長を継承した後も交代で診療に来られていますが、2024年末をもってご引退される予定です。以後はすべての診療を私が担当することになると思います。とはいえ、以前からのスタッフが看護師を含めて残ってくれていますから、そこは心強い限りです。
立派な診療所ですね。
待合室がこれだけ広く、診察室も2つ。処置室や検査室、エックス線撮影と内視鏡検査の部屋、リハビリテーションスペースなどがあり、温熱治療用の機械や電位治療器、ウォーターベッドといった物理療法の機器もそろっています。5年ほど前に移転リニューアルしたばかりということで、内装がまだ新しいのはありがたいことですね。診療に関しては、風邪や発熱などの一般的な症状から胃や肝臓、大腸などの消化器系、めまいや動悸などの循環器系、咳や痰などの呼吸器系まで、さまざまな内科疾患に対応しています。また、胸腹部のエックス線や腹部エコー、心電図、骨密度定量などの検査の他、胃の内視鏡検査は経口と経鼻の両方を用意して各種検査や健診に対応しています。発熱の外来や新型コロナウイルスワクチン接種、インフルエンザの予防接種も行っていますので、予約については気軽にお問い合わせください。
地域においてどのような存在をめざしていますか?

まだ継承直後ですから以前から通っておられるご年配の患者さんが中心ですが、意外に若いファミリーも多く、思ったよりも忙しいというのが率直な印象です。私自身は消化器内科と同時に総合診療科や総合内科に長く携わってきたため、トータルに診るということを常に心がけ、患者さんを選ぶということはありません。自分の手に負えないことは各専門の医師に迅速に委ねますが、まずは誰でも診る、何でも診るという存在が地域医療には必要ではないかと思います。地域の皆さんが、体のことを気軽に相談できる身近な場所でありたいというのが当院の基本スタンス。症状がある時だけでなく、ちょっとした健康の相談窓口としての役割も同時に果たしていきたいと考えています。
総合診療とは小さなエビデンスの積み重ね
診療時に大切にしていることを教えてください。

ごく当たり前のことですが、患者さんが不快に感じるようなことは絶対に口にしないことですね。なるべくいい気分で診療を受けていただき、最後に笑顔で帰ってもらえることが理想と考えるからです。あと、私がかつて勤めた総合診療科では問診や診察、対面でのコミュニケーションを非常に重視し、患者さんの全体をよく観察しながら病状を分析し、診断を考えるのが基本です。その上で客観的な事実をお伝えし、患者さんと相談しながら治療方針を決めていきます。シェアード・ディシジョン・メイキング(共同意思決定)といいますが、互いに情報を共有し合い、患者さんの意向に寄り添いながら一緒に考えるわけですね。特にご高齢の患者さんの場合はいろんな病気が併存していることも多く、その際も患者さんが何を求めているかを聞き出し、優先順位やバランスを考えて治療をご提案するようにしています。
総合診療科とは、どのような分野でしょうか?
名前の響きから、いろんな診療を広く浅くといった漠然としたイメージがあるでしょう。実は逆で、私が教わった頃の総合診療はEBM(科学的根拠にもとづく医療)の実践に重きを置いていました。医療の基礎や論文の読み方をきちんと習得し、それを診療に反映させるという考え方です。当たり前と思うかもしれませんが、医療の世界では教授や先輩から教わった技術を自分で考証しないまま、まねるようなことも少なくありません。そうではなく、きちんとした理論や体系に則しながら小さなことを一つずつ積み重ねていくのが総合診療科の本質で、知識においてはさまざまな分野に精通する必要があります。全部というのはなかなか難しいですが、決して曖昧にはしない。それが私たち総合診療を行う意思の特徴です。
今後、取り組んでいきたいことはありますか?

今は設備がないのでできませんが、大腸内視鏡検査はぜひ実現したいと考えています。また、今後は消化器ばかりでなく呼吸器にも力を入れていきたいですね。例えば喘息の診断に必要な呼気の検査機器を導入や、薬剤の供給の問題で中断している禁煙の外来も再開したいと思います。あと、重要な課題となるのは、やはり訪問診療でしょう。外来にいらっしゃる患者さんの中には、足元もおぼつかなくてご家族に連れ添われて来る方がおられます。こうした患者さんに無理をさせるのではなく、こちらから診療に出向くのが本来の姿ではないかと思います。現時点ではまだマンパワー不足で、いつから始めますと言える状況ではありませんが、まずは電子カルテの整備など足元をしっかりと固め、時機を見てチャレンジしていきたいですね。
医療体制のさらなる充実をめざして
先生が医師になったきっかけは?

私は横浜の生まれで、父は機械の設計の仕事、母は専業主婦という医療とは関係のない家庭で育ちました。父方の祖父が私をすごくかわいがってくれましたが、私が高校生の時に倒れて寝たきりになり、闘病生活もむなしく亡くなりました。自分が医師になれば、こうした人に何かできるのではないか。そう思ったことが医療の道をめざしたきっかけです。それで札幌医科大学に進み、卒業後は地元の神奈川に戻って神奈川県立足柄上病院で総合診療科と出会いました。その後は福岡の飯塚病院や京都の市立福知山市民病院に勤務。いずれも総合診療科や総合内科で知られた病院で、さまざまなことを学ばせてもらいました。以降は家族ともども京都府内に移り住み、京都岡本記念病院と宇治病院でさらに研鑽を重ねました。
ご家族や趣味のことなども、お聞かせください。
継承を機に奈良市内に住居を構え、妻と3人の子どもと暮らしています。とはいえ現在は院長の仕事が忙しく、ウイークデーはこの近くのマンションにプチ単身赴任状態です。妻は歯科医師で、福岡時代に知り合って結婚しました。診療所を受け継いだからには、滅多なことでどこかへ行くわけにはいきません。ここで地域の皆さんのお役に立つことを最大の目標として、父親としても頑張っていかねばと思っています。ちなみに私は学生時代にラグビーをやっていまして、ワールドカップのときに職場の先生方と試合を観てすっかり触発され、観戦後に近所の野原でラグビーに興じたのはいい思い出です。ジャズ研究会にも所属していましたので、患者さんと趣味の話で盛りあがれたらいいな、と思っています。
読者へ向けたメッセージをお願いします。

医師が私一人ということで少しご不便をおかけするかもしれませんが、自分がめざす医療をきちんと充実させることが患者さんのニーズにお応えすることになると考えています。先述した大腸内視鏡検査や訪問診療などが形にできれば、さらに地域医療に貢献できるでしょう。主役はあくまで患者さんです。前院長先生や前副院長先生が培ってきたものを大切にしながら、より皆さんのお力になれるよう努めたいと思います。既存の患者さんとの末永いお付き合いはもちろんですが、この地域での新たな患者さんとの出会いにも期待しています。小さなお子さんの予防接種も行っていますので、ご家族で健康を積み重ねていただければ幸いです。