岡田 仙三 院長の独自取材記事
林産婦人科 王寺医院
(北葛城郡王寺町/王寺駅)
最終更新日:2021/10/28

王寺駅から徒歩16分の場所にある「林産婦人科 王寺医院」。院長を務めるのはこの道数十年の大ベテラン、岡田仙三先生だ。穏やかな雰囲気の中にこれまでのさまざまな経験を感じさせる。これまで数多くの分娩に立ち会ってきた院長は、「母娘でいらっしゃる患者さんもおられますし、地域の健康を守っていくという意識は常にあります。お産は母子ともに命をかけたビッグイベント。できる限りスムーズに進むよう道を整えていくのが私たちの仕事だと感じています」と大樹のような安心感を感じさせる口調で語る。超音波検査が一般的でなかった頃は触診で診察を行い、逆子であるかどうかなどを判断していたという。そんなベテランの産婦人科の医師である院長にこれまでの経歴や診察で心がけている点などについて話を聞いた。
(取材日2021年7月7日)
数多くの分娩に立ち会った経験を今も診療に生かす
まずは、先生が医師をめざしたきっかけなどからお聞かせください。

父も医者でして、兄2人も医学部に進み、医師になっていました。私自身は一度教師になろうとして大学に進み、教育実習にも行っていたんです。ところが20歳の時に父が亡くなり、母からも「後悔しないように」とアドバイスをもらったことから、もう一度大学に入り直しました。それが奈良県立医科大学です。産婦人科を選んだのは、兄たちが内科、外科に進みましたので、自分はそこと違う道に進みたいとの意志からでした。
先生はこれまでに数多くの分娩に立ち会ってこられたと伺いました。
長年勤めさせていただいておりますので、自然とそうなりますね。今のように超音波検査(エコー)などはなく、すべて触診で行っていた時代もありました。先輩の先生方からは「指先の感覚を鍛えるように」なんて言われたこともありましたよ。おかげで本当に、指先の感覚で逆子かそうではないか、胎児の心臓の位置などもわかるようになりました。今の先生たちにとっては信じられないことかもしれませんね。その分、超音波検査が出始めた頃なども経験していますよ。あの頃は今ほど画像も鮮明ではありませんでしたから、目を細めながら「これはどうなっているんだろう?」などと首をひねっていたのも、今となっては良い思い出です。エコーの技術だけは、若い先生に負けるかもしれませんね(笑)。
医学の進歩、医療の進歩もその目でしっかりと見てこられたんですね。

そうですね。しかし思うのは、担当した数が多いから良いというわけではないということです。若くともしっかりされている先生は多いですから。当院との縁は、法人理事長である林行夫先生と奈良県西和医療センターでの同僚であった、ということから始まっています。一時期は私も妻の実家のクリニックを継ぎ、田舎でしたが内科医として働きました。幅広く診ていたので、産婦人科の仕事と並行しながら、心筋梗塞の患者さんなどの診療も行いました。そうしているうちに林理事長に声をかけていただき、今はこうしてこちらで診察にあたっています。
母娘2世代の出産も。助産師・看護師と連携し見守る
この地域ならではの特徴などは感じておられますか?

林理事長が当院を開業した頃は若い世代も多く、団地などもありますから、分娩もとても多かったと聞いています。今は少子化の流れもあり、分娩も減りましたね。とはいえ王寺駅周辺にはまた新しいマンションなども建ってきましたし、当院はやはり、地元の方が多いですね。旦那さんが大阪へ勤めておられるという話もよく耳にします。他には、平群町、斑鳩町、三郷町からいらっしゃる方もおられますね。こちらで出産されたお母さまが、その娘さんとともにいらっしゃることもあり、歴史を感じることも多いですよ。
貴院では現在、分娩は対応しておられないと伺いました。
ええ、先ほど申し上げましたように、出産される方自体の人数が減っていますから。なので分娩は比較的近い場所にある「林産婦人科 五位堂医院」に紹介しています。こちらに来る方は最初から分娩は五位堂になる、ということを承知されている方がほとんどです。他には、「実家が大阪にあるので、紹介状を書いてください」と言われることもありますよ。五位堂医院は、当院からの紹介も含む多数の分娩に対応するためにスタッフの充実も図られていますし、紹介先としてこの上なく心強い場所だと思っています。
先生が診察時に心がけておられることは何でしょうか?

出産は、女性にとってのビッグイベントですからね。女性のことは女性がよくわかると思いますので、私はあえて、助産師や看護師に前に出てもらうようにすることもあります。女性同士でわかりあうことも多いのか、率先して患者さんにも声をかけてくれるので、非常に心強いですよね。そうなると私がやることといえば、患者さんに異常がないかをチェックすることくらいです(笑)。それくらいに助産師や看護師は非常に有能です。
出産に限らず全年齢層の地域の女性の悩みに応えていく
これまでのご経験の中で印象的な患者さんはおられましたか?

それはもちろんです。一番怖いのは子宮破裂です。子宮破裂とは、分娩時や、ごくまれに妊娠末期に起こる子宮の裂傷で、胎児死亡だけではなく母体の死亡にもいたることもある重篤な疾患です。ごくまれにしか起こらないことではありますが、私も経験しました。幸いなことに全員無事でしたが、そのうちのお一人からは何十年も年賀状を毎年いただいていました。それくらいにお母さまたちも出産に懸命に向き合っておられるのだと思います。他には……大阪病院(旧・大阪厚生年金病院)にいた頃ですが、午前0時から翌朝8時の間に、9人もの出産に立ち会ったことがありまして、その際には「先生、これは記録的だね」と同僚から言われたことがありましたよ(笑)。
お忙しい毎日かと思いますが、先生の息抜きは何でしょうか?
実はピアノが大好きで。独学ではあるんですが、今でもよく弾いています。それこそ教育実習は理科の教師として行ったはずなんですが、なぜか勇み足で音楽の先生に教えを請いに行って、クラスで2回ほど、教えたこともありました。今も医師会の余興などではピアノを演奏しています。他には足踏みミシンも習ったことがありましたから、今でもミシンを使った縫い物も得意です。健康法は特に意識はしていないのですが……産婦人科ですから、普段はお酒は飲みません。昼夜問わず、いつ呼び出しがあるかわかりませんからね。もちろん宴会の席では多少はたしなみますよ(笑)。
では最後に、読者へのメッセージをお願いいたします。

地域の女性の健康を守っていく、これに尽きますね。安心してお産ができるように環境を整えていくことはもちろん、子宮内膜症や更年期障害など、産科・婦人科に限らず、あらゆる疾患に対して、長年の病院勤務で培った経験をもとに、皆さんに満足していただける診察が提供できるよう、変わらず努力していきたいと思っています。私も高齢になりましたが、おかげさまで気力、体力とも充実しています。地元での出産に限らず、この場所に縁のある方はぜひ、当院にいらしてくださいね。