酒本 将稔 院長の独自取材記事
酒本医院
(大和高田市/高田市駅)
最終更新日:2025/04/03

近鉄南大阪線・高田市駅を出て、高田市駅前商店街を抜けたところに位置する「酒本医院」は、1957年に開業した歴史あるクリニックだ。現在は2代目の酒本将稔院長が、一般内科疾患から生活習慣病、不整脈などの循環器疾患を診療している。また早くから在宅医療にも注力し、通院が難しい高齢者を中心に訪問看護を提供しているという。今回は酒本院長に、クリニックの歴史や患者への思い、地域医療の課題などを詳しく聞いた。
(取材日2024年9月19日)
かかりつけ医として外来診療から在宅医療までサポート
初めに、クリニックの歴史を教えてください。

当院は、父が1957年に開業したことから始まります。当時の内科の開業医は、子どもからお年寄りまで全世代に対応。また午前診が終わって昼の食事をしたらすぐ往診に出かけ、帰ってきたら夕方の17時から診療を開始、20時に終わったら今度は夜の往診に出かける、という日々を送っていたそうです。私は父が忙しく働く姿を間近で見ながら育ったものですから、私自身も医師になることが親孝行になるのではと思うこともあり、自然と医師になる道を選びましたね。
先生のご経歴を教えてください。
京都府立医科大学を1985年に卒業後、京都市立病院での研修医を経て、京都府立医科大学附属病院で勤務しました。その後京都市立病院に戻り、循環器内科の医師として勤めました。1993年に、父が病気になり診療をできなくなったことをきっかけにこちらへ移り、以後ずっとここで診療しています。勤務医時代は幅広い医療を提供できる整備や環境がもちろん整っていましたが、クリニックでは私の持つ力がすべてです。高度な検査はできませんし、血液検査の結果についても翌日以降のお伝えになるため、実質自分の耳と聴診器が頼りとなります。だからこそ一臨床医師として、一つ一つの診療をきちんと責任を持ってやらせていただく、という思いで長くやってきました。
こちらでは、在宅医療にも注力しているそうですね。

ええ。当院を継承した平成の初め頃までは、高齢で通院が難しい患者さんのためにご家族が薬を受け取りに医療機関へ行くのは、よく見られた光景でした。しかしながら、それでは患者さんが長らく診察を受けず、お薬だけ処方される状態が続いてしまいかねません。それは適切な医療とはいえないと感じました。患者さんが寝たきりになり通院できなくなっても、かかりつけ医として責任を持って診ることが大事だと思います。そこで継承した当時から、往診や訪問診療にも注力するようになったんです。父が往診に向かっていた姿をずっと見ていたこともあり、それが当たり前と思っていたことも注力するようになった理由の一つですね。それからしばらくすると、私だけでは往診や訪問診療が回らなくなったので、看護師による訪問看護を始めました。
訪問看護、居宅介護支援も行う「訪問看護ステーション あおぞら」を設立したきっかけは?
当院で訪問看護を始めると、訪問看護のスタッフは診療時間はクリニックで仕事をして、それ以外の時間は訪問する体制になりました。しかしそれでは、十分な看護をお届けできないと感じ、「訪問看護ステーション あおぞら」を設立したのです。設立当時、訪問看護ステーションは病院や介護施設に併設されていることがほとんどで、このような独立型の訪問看護ステーションはとても少なかったのを覚えています。通院できない高齢者、ターミナルケアを希望する方、障害者、難病患者さんを対象に、看護師による訪問看護や介護予防訪問看護、ケアマネジャーによる居宅介護支援を行っていきたいという一心で運営しています。
生活習慣病にはこまめな指導を
診療内容について教えてください。

小児科、内科、循環器内科を標榜し、一般内科疾患から高血圧症や糖尿病といった生活習慣病、不整脈や狭心症などの循環器疾患を診療しています。主訴で多いのは、お子さんは発熱などの風邪症状が中心ですね。問題がありそうなケースであれば、必ず小児科の専門の先生と連携を緊密にして、必要に応じ紹介しています。大人は慢性疾患が中心で、高血圧症や糖尿病、脂質異常症の生活習慣病が圧倒的に多いですね。
生活習慣病の指導で、先生がこだわっているところは?
最近は「3ヵ月処方」が増えていますが、私は生活習慣病に関しては、最低月に1回は診させていただきたいと考えています。それも薬だけ処方するのではなく、その時の血圧や血糖値、特に糖尿病の場合はヘモグロビンA1cの値をきちんと測定。そして今月と先月の数値の変化をお伝えして、今後どうするか治療の方針を提案しています。慢性疾患の治療は、こまめな指導をしてこそだと思うのです。毎月通うのは面倒だと思うかもしれませんが、診療自体はすぐに終わりますよ。
力を入れている検査はありますか?

循環器疾患の診療です。最近は不整脈や動悸の訴えで来られる方が増えてきています。これまで不整脈の治療の選択肢としては、そのまま何もしないか、薬を使うかが主でした。しかし薬は症状の抑制を図れる一方で、リスクも大きく、なかなかクリニックレベルでは使いにくいところがあったんです。ですがここ最近、カテーテルを用いて不整脈の改善につなげるアブレーション治療が広まりました。当院では適応の患者さんがいれば、病院に紹介することも増えています。その判断のために当院では24時間心電計のほか、1週間装着する長時間心電計も導入。異常を見逃しにくくするように取り組んでいます。
超高齢社会を見据え、在宅医療の充実にも取り組む
スタッフの皆さんが、患者さんへの心配りが行き届いている印象があります。

ありがとうございます。スタッフにはいつも患者さんへの気配りをするように伝えています。玄関から入って来られた時から患者さんの様子を見て、高齢の方へは転ばないようにお手伝いしてほしいとか、患者さんの名前を呼ぶだけではなく、ちゃんと診察室まで来られるように誘導してあげてほしいとか。細かな心配りはこれからも大切にしたいですね。
診療室に、先生が出場したマラソン大会の写真が貼ってありますね。なぜマラソンを始められたのでしょうか?
30代の時、ジムに通うようになりました。しかし4~5年たつとだんだん飽きてきてしまいました。そんな時、偶然マラソン大会のポスターを目にして、出よう!と思い立ったのです。外を走るのは楽しくて、練習すればするほど記録は伸びていき、気がつけばフルマラソン完走を50回達成しました。診療室にマラソンの写真を貼っているのは、40代、50代の患者さんが来られた時に、「私は30代の時に始めて、これまで頑張ってきました。運動をする意識を持つか持たないかは、健康に生きていく上で大切な分かれ目なので、何か取り組まれてみたらどうですか?」とお伝えできるからです。実際にマラソンを始めた方も何人かいらっしゃるんですよ。それで、皆さん元気になられていたら、すごくうれしいですね。
先生は大和高田市の医師会の会長としての活動もされているそうですね。

そうですね。今後在宅医療のニーズが高まることが予測されるため、医師会としても在宅医療に関わる医師を増やしていきたいと考えています。ですが、開業医の医師はそれぞれのクリニックでの診療の他に、高齢者施設などでの診療も引き受けている方がほとんどです。皆さん忙しく、訪問診療を引き受けてくださる方が少ない状況です。そこで医師会としては、対応できない時のバックアップ体制をつくるなど、在宅医療を引き受けやすい環境をつくっていけたらと思っています。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
生活習慣病は、自覚症状が強くなってからでは手遅れなこともあります。職場で受ける健康診断で異常が見つかった時、「これなら大丈夫」と自分で判断せず、ぜひ早期に近くの医師に相談に行ってほしいです。相談することによって早期発見・早期治療につながりますからね。また私が患者さんにいつも言っていることは「時間を戻して、薬を飲むことはできない」ということ。何も症状がないような時にちゃんと治療していくことが、後々の自分をすごくプラスに導けるはずだとお伝えしています。