粟根 雅章 院長の独自取材記事
澤外科
(三田市/三田本町駅)
最終更新日:2025/12/15
三田本町駅から徒歩10分。静かな住宅街の一角に「澤外科」がある。2代目の院長を務める粟根雅章先生は、さまざまな病院で外科を中心に経験を積んだ後、義理の父が開いた同院を2019年に引き継いだ。先代が築いた地域からの信頼に敬意を表し、院名と建物はそのままに、長年通う患者を大切にしながら、新たに自身のカラーを加えることもめざしたという。話上手な粟根先生に、これまでの自身の歩みや、在宅診療にかける思い、日々の外来診療で心がけていること、今後の抱負などについて語ってもらった。
(取材日2025年11月21日)
先代の思いを引き継ぎつつ、新たなチャレンジを
先生は、なぜ医師をめざし、その中でもなぜ外科を選ばれたのですか。

粟根家は曽祖父の代から医師家系で、父も外科の医師でしたので、私も自然に同じ道を志すようになりました。大学受験時は、周囲からも医師になって当然と思われていましたので、プレッシャーはすさまじかったですね。おかげで人生で一番勉強したといえるくらい、頑張ることができました。子どもが好きなので産科や小児科を専門にしようと考えていたのですが、少子化が進んでいることもあり、最終的には父と同じ外科を選びました。医局に入ってから少しずつ、外科的な物事の考え方やその領域について学びました。外科の本分は手術です。薬に頼らず、自分が行った手術の責任は自分で取ること、術後も患者さんと二人三脚で頑張っていくこと、そんな外科の側面にやりがいを感じています。
こちらを継承された経緯を教えてください。
澤外科は、私の義父である澤徳一先生が1972年に開いたクリニックです。義父も高齢だったこともあり、また、勤務医で一生を終えるのではなく、より患者さんの近くで地域医療に携わりたいという想いもあり、継承して開業医となる道を選びました。義父が現役の間に2週間に1度当院での診療を始めました。継承して1年もたたないうちに義父は他界してしまったのですが、当院の患者さんに中断することなく医療を届けられたので、義父も喜んでくれたのではないでしょうか。義父へのリスペクトの気持ちもあり、長年地域に親しまれてきた「澤外科」の院名を変えていません。親子2代、3代で来てくださっている患者さんから、今でも先代の頃のお話を聞くことがあるんですよ。
継承後に訪問診療を始められたのですね。

はい。病院勤務時代、多くのがん患者さんと接する中で、がん患者さんを最期まで診療できないことにもどかしさを感じていました。病院は慢性期の患者さんをできる限り地域に戻そうとしますし、患者さんもできればご自宅で過ごしたいとお思いでしょう。しかし肝心の在宅診療に対応できる医師の数は、非常に少ない実情があります。そんな状況から、私のように病院での外科医療を知っている医師が地域に出て訪問診療に携われば、地域の患者さんに安心していただけるのではないかと考え、新たに訪問診療を始める運びとなりました。
自宅で終末期を過ごす人に最期まで寄り添いたい
在宅診療の仕組みはどのようにつくられたのでしょうか?

最初は右も左もわからずで、さまざまなところに行って話を聞きました。そうすると、この辺りの地域で在宅診療を担う医師はいるけれども、それぞれバラバラに活動していて、誰がどこでやっているといった情報が共有できていないことがわかりました。ニーズに対する供給も足りないことが見えてきたのです。そこで、在宅診療をされている先生方にお声がけし、「さんだ在宅医療ネットワーク」を立ち上げました。三田市内を中心とした複数の医院と訪問看護ステーションの連携体制を構築し、定期的に勉強会も開くなどして輪を広げています。
毎日の外来診療もある中で、いつ在宅診療に出られているのですか?
在宅診療のために外来の枠を減らしているわけではなく、他の医院と同じように外来診療を行い、午前診と午後診の間の昼休みに在宅診療に回っています。忙しいですが、やはり患者さんが待ってくださっていますからやりがいがありますね。勤務医時代、私は管理職に昇進するよりも、どこまでも患者さんに寄り添う医療を提供していきたいと考えました。自分のキャリアの行きつく先として、「終末期まで診られる地域の医師」でありたいと思ったんです。ですから、こうして在宅診療に携われていることに非常に喜びを感じています。
その熱意はどこから生まれるのでしょうか。

思い出すのは、かなり昔、研修医時代に診た胃がんの患者さんですね。亡くなられたのですが、私の診療に対して、信頼を寄せてくださっていたようでした。遺言の中に「自分が逝った後は、粟根先生を家に招いてごちそうするように」と書かれていたそうなんです。実際に招待いただいてご自宅に伺うと、その方が普段、生活されていた様子が見えました。ご仏前に手を合わせ、お食事をいただいて、帰り際にはご家族が涙ながらに感謝してくださって。病院の中であれば、どうしても「患者さんとそのご家族」として見てしまうのですが、家の中では「人」になるんです。その違いに気づいたことが自分としては強烈な体験で、在宅医療に力を注ぐ一つのきっかけになりました。
生活習慣病の予防・治療や英語での診療にも対応
こちらでは、どんな医療分野に対応されていますか?

ケガなど外科的な分野や、糖尿病、高血圧症、脂質異常症といった生活習慣病にも対応しています。ケガの場合はいずれ治ることがほとんどですが、生活習慣病は長期的な治療になりがちです。そのため、生活習慣病で来院され、長い付き合いがある患者さんも多いですね。地域のかかりつけ医として、生活習慣病も引き続きしっかりと診ていきたいと思っています。それから一般内科として、風邪症状で来られる方も多いですし、胃腸などの消化器疾患、痔・肛門疾患などもご相談いただけます。予防接種や各種健康診断も実施していますので、お気軽にお越しください。
患者さんと接する際に、大切にされていることは何ですか。
よく話をして、患者さんが何を求められているのかをまず受け止めるようにしています。会話をするうちに、患者さんが思っている場所とは違うところに問題があるとわかることもあります。患者さんの訴えの整理をすることも、地域のかかりつけ医の役割かもしれません。うれしいことに、私は患者さんから何でも話しやすいと言っていただけますし、雑談も多いほうです。若い頃に2年半、ボストンに留学し、マサチューセッツ総合病院で研究員として従事した経験もあるため、英語でのコミュニケーションも可能です。外国籍の方も含め、一人でも多くの患者さんのお力になりたいと考えています。
最後に、今後の抱負をお聞かせください。

今後は医療を取り巻く環境や仕組みが変化していき、特に予防医療の重要性が増してくるかと思います。予防医療の重点ポイントの一つに運動がありますが、多くの人の運動量が不足しています。気軽に運動していただくため、現在は使用していない当院の2階スペースを活用できないかなど、いろいろと考えを巡らせているところです。そして、三田市医師会に関わる者として、病診連携体制も整えてまいりますので、どうぞ安心して何なりとご相談いただければと思います。

