荻野 美惠子 理事長の独自取材記事
おぎの小児科
(神戸市垂水区/名谷駅)
最終更新日:2024/12/12

神戸市垂水区つつじが丘に、赤い看板が目印の「医療法人社団恵仁会 おぎの小児科」がある。理事長の荻野美惠子先生は、長年にわたり多くの子どもの成長を見守り続けてきたベテランのドクターであり、3人の子を育て上げた母でもある。また、荻野理事長は漢方にも造詣が深く、子どもの夜泣きや皮膚疾患、大人の便秘や不眠など幅広い体の悩み事に対応する。エネルギッシュで温かい印象の荻野理事長は、まさに太陽のような人柄だ。診療室に飾られた数多くの手紙は、見ているだけで荻野理事長と子どもの豊かなやり取りを思わせる。インタビューでは、クリニックのこれまでの歩み、荻野理事長の診療にかける思い、子育てのアドバイスなど、さまざまな話を聞いた。
(取材日2024年11月21日)
昭和から平成、令和まで診療を続けて感じること
まず、先生が医師をめざしたきっかけについてお伺いします。

私の母親が助産師だったのですが、母なりにわが子には医師になってほしいという気持ちがあったようです。それに、私が中学生だった頃に通っていた英語塾の先生の娘さんと息子さんが医師になられるようだったので「あなたも医者になりなさい」という後押しがあり、医学部に進学しました。小児科を選んだのは、子どもが正直でかわいいことが決め手でした。私は年子で3人の子を出産しましたが、体が丈夫だったこともあり、妊娠しておなかが大きい時も乳児健診などに携わっていたのです。私の主人は長らく兵庫県立こども病院に勤務していましたが、後に独立して垂水駅の近くで小児の脳神経内科を専門とするクリニックを開院しました。クリニックが2つになったので、法人名には主人と私の名前が1文字ずつ入っています。
開院して40年以上経過しますが、変化したと感じることは何でしょうか?
主訴はそれほど変わらず、風邪や体調不良で受診されるお子さんが多いです。ただ、予防接種の数が充実してきたので、水痘やおたふく風邪などの感染症は減りました。私が若い頃は麻疹や風疹のお子さんが多かったように思いますが、今はまったくと言っても過言ではないほど見なくなりました。一番変わったと思うのは、男性の育児参加が徐々に増えてきたことです。昔はお父さんが診察室に入ってくると、どきっとしたものでしたが、今はお父さんが1人でお子さんを連れて来ることも珍しくありません。開院当初に来院していた子が今度は親になってお子さんを連れて来ると、院内に置いてあるおもちゃを見て「まだ同じものがある!」とか「懐かしいな」と言ってくれることもありますよ。
診療室の壁にたくさんのお手紙が飾られていて、とてもすてきです。

幼稚園の年長とか小学校低学年で手紙を書いてくれた子が今は大学生ぐらいになっていますから、便箋の色が変わっているものがありますし、時の流れを感じます。手紙の数もどんどん増えていきました。折り紙でセミや折り鶴を作ってくれたものも、こうして飾っているのです。子どもだった患者さんが成長して、ソプラノ歌手として東京で活躍している方や、プロのバレリーナになって写真をくださる方もいます。ある時、私のちょっとした言葉がけが心に残っていたようで「先生に救われました」と言ってくださった方がいました。そのようなときは、やはりうれしい気持ちになりますね。とにかく毎日忙しくしているうちに、いつの間にか40年以上たっていたという感じです。
子育ては「その子のタイミング」を大切に
荻野先生は漢方にも精通されているそうですね。

私が漢方を用いるようになったきっかけは、家族が皮膚の症状に悩んだ時、たまたま漢方薬を使う機会があったことでした。そこで、当院を開業する前に東洋医学を専門とする先輩の先生に教えを請いながら、知識を増やしていきました。当院では、子どもの夜泣きで困っているという相談を受けたときなどに漢方薬を処方することがあります。独特の香りや味がありますから、子どもが飲めるのかと思う方もいらっしゃるでしょう。不思議ですが、体に合う漢方であれば無理強いしなくても自分から飲むことができるのです。逆に、嫌がって飲まないときは体に合っていないと判断します。漢方は体に足りないものを補う目的があるので「子どもが抵抗なく飲める味かどうか」も重要な基準になります。
子育ての経験を診療にどのように生かしていますか?
私自身、子育てをする中で広い心を持つようになりました。例えば、指しゃぶりが止められないお子さんの相談を受けたときには「大人が無理に止めさせなくても、その子なりの時が来たら止めますよ」と言うこともあります。子どもによってタイミングはさまざまです。鼻が詰まった時に吸いづらくなって止める子もいれば「もうお姉ちゃんになったから止めようね」と伝えるだけでストップする子もいます。ちなみに、私の娘は小児科の医師として亡き夫のクリニックを継承していますが「医師になれ」とも「小児科に進め」とも言ったことはないのです。夕食の時に夫と私は診療の話を毎日のようにしていたのですが、その会話を聞いていたからでしょうか、娘も自然と医師になっていました。
育児に悩む親御さんにはどのような声かけをしているのでしょうか?

近頃、スマートフォンでいろいろな病気を探し、症状から心配して訪れる親御さんが増えたように感じます。高熱が出たり、嘔吐があったりして調べると、深刻な病気が出てきて不安になるようです。そのようなときは「あまり調べ過ぎないで、心配ならとにかくおいで」と伝えるようにしています。また、最近は子どもの発達についての情報が広がっていますから、中には他のお子さんと比べて落ち込んでしまう方もいます。発達の遅れが顕著な場合は専門の医療機関に行ったほうがよい場合もありますが、心配ないケースも多々ありますから「大きな目で見て、待っていても大丈夫」という話をするようにもしています。私は診察する際に、親御さんがお子さんにどのような対応をしているのかも観察しながら、しっかりと話を聞くことを大切にしています。
子どもに向き合う時は、おおらかな気持ちで
かかりつけ医として大切にしていることは何でしょうか?

当院では、お子さんと親御さんの風邪の症状を一緒に診療することもできます。なので、親御さんが高齢になっても通院していただけます。特に女性は、便秘や不眠などの症状がある方も多く、その場合は漢方を処方します。体調不良や健康診断の数値について相談を受けた際に、専門の先生を紹介すべきと判断したときは、適切な医療機関につなぎます。こうした窓口のような役割も担いたいと思っています。私が「いつ引退しようかな」とつぶやくと、皆さんが「先生、この子が大きくなるまで診察して」とか「辞めたらだめですよ」と引き留めてくださいます。そこで、もう少し頑張ってみようという気持ちで、今年の11月から電子カルテに挑戦し始めました。
お忙しい毎日とは存じますが、リフレッシュのための趣味はありますでしょうか?
学生時代からではないのですが、ずっとテニスをやっています。一番下の子どもが3歳ぐらいの時に、テニススクールができてから始めました。当初は夫に反対されたのですが、前からやってみたかったので「いいえ、私はやります」と言って(笑)。日本全国の医師が300人以上集まって開催されるテニスの大会があるのですが、私はその大会にも出場していましたから、北海道から九州までさまざまな場所に足を運びましたよ。女性医師の部で何度か優勝もしています。近頃は大会にこそ出ていませんが、今でも休診日にはテニスに出かけています。あまりに暑い日などは無理できませんが、テニスはすぐに行ってすぐに帰って来られる気軽なところも良いですね。
最後に、読者へのメッセージをお願いいたします。

最近は保育所に子どもを預けて働く親御さんが増えてきたので「うちの子は頻繁に熱を出すので、仕事を続けていいのか悩みます」という声を聞くことが少なくありません。そのようなとき、私は「みんな同じよ。だんだん小児科に来なくなるからいいのよ」と声をかけることがあります。あまり深刻に悩み過ぎず、おおらかな気持ちで子育てをしてほしいですね。それから、1歳半頃からいわゆる「イヤイヤ」が出たときに、困難を感じる親御さんもいます。わがままが出始めた頃の親の対応が重要ですから「ここが親の頑張り時」と思って接してほしいですし、しつけについての相談があれば、私のほうでもアドバイスをさせていただきます。何か困り事があるときは、なるべく早めに小児科に来て安心していただければと思います。