神谷 敬雄 院長の独自取材記事
神谷産婦人科医院
(門真市/西三荘駅)
最終更新日:2021/10/12
京阪本線の西三荘駅から徒歩約8分。大きな看板も掲げず、周囲の住宅に溶け込むように立つ「神谷産婦人科医院」を訪ねた。院長は神谷敬雄(かみや・たかお)先生。関西医科大学産婦人科教室へ入局し、長きにわたり周産期医療の前線で活躍してきた経歴の持ち主でありながら「取材は恥ずかしい」と笑う。大勢に向けて話すことは苦手だが、一対一で患者と話すことは大好きなのだそう。さまざまなリスクを想定し、無事出産した後は診療で患者を励まし、産後うつになる傾向のある患者には「気軽に電話しておいで」と優しく言葉をかける。そんな懐の深い神谷院長に、最近の出産事情から医院がめざす産婦人科医療まで多角的に聞いた。
(取材日2019年10月31日)
リスクを予想し緊急を要する症例にも対応していく
落ち着いた外観からも、地域に根差した産婦人科医院という印象を受けます。
当院は1963年に父が開院しました。当時はここから50mほど離れた場所にあったのですが、だんだんとお産が増えて手狭になったため、こちらに移転してきました。以前はベッド数が6床だったのを9床に増やしましたが、またすぐに足りなくなったため、2回増築を行って、今は14床です。昔、父がお産に携わった方が大きくなられ、また当院で出産を、と来院していただけることがうれしいですね。
こちらは産科だけの診療ですか?
産科と婦人科を診療しています。子宮筋腫などの婦人科の疾患や、子宮内膜症などの内分泌疾患の方、不妊や更年期でお悩みの方も来院されますし、子宮がん、乳がん検診も行っております。私は関西医科大学を卒業後、同大学の産婦人科教室に入局し、周産期医療と内分泌治療をメインに幅広く学んできました。特に周産期医療につきましては、同大学病院が緊急を要する症例も受け入れていたため、たくさんのことを学ばせてもらったと思っています。大部分の妊娠、分娩は順調に進みますが、一部の場合で異常が起こり、母子ともに危険が迫ることがあります。妊婦さんお一人お一人に対して、どんなリスクがあるのか、そしてそのリスクに対してどのように対応していくのか、を常に考えながら診療することが大切です。特に最近は高齢出産が増える傾向にあり、それに伴って妊娠中の異常が発生する患者さんも増加傾向にあるように思います。
妊娠中の異常とはどういうものですか?
妊娠中にだけ発生する問題で母体に影響を及ぼすもの、胎児に影響を及ぼすもの、母子ともに影響を及ぼすものがあります。ポピュラーなもので言えば妊娠高血圧症候群。血流が悪くなるため胎児に十分な栄養が行き渡らず、胎児が発育不全を起こすことがあります。胎盤の位置が低い前置胎盤や、胎盤が早い時期に子宮から剥がれてしまう常位胎盤早期剥離では、母子ともに命に関わることもあります。合併症を伴う場合は、こちらの対応の仕方によってはどういった状態にでも転んでしまうという怖さがあります。そのため、当院では分娩手術時の予期しない出血にも対応できるように、特殊な血液型をのぞきほとんどの血液型の血液を用意しています。特殊な血液型の方に関しては、妊娠35週目ぐらいから採血を始め、1000ccほどの自己血貯血で対応できる体制を整えています。
妊婦ファーストで設備と環境を整える
いろいろなリスクを想定して対応してくださるのですね。他には、どんな対応をされていますか?
当院は妊娠経過を慎重に診ていきますので、外来の通院回数はほかの医院さんより多いかもしれません。気になる方は毎週、また1週間に2回診察させていただくこともあります。通院のたびに費用がかさむと患者さんの負担も大きくなりますので、産婦人科医会から門真市へ働きかけています。妊娠中の異常が生じるリスクのある方は「今日、来ておいて良かった」となることも実際にありますから、面倒がらずに受診していただけるとうれしいですね。またお産に対し万全な体制を取るために、当院では1分娩に1助産師を心がけています。陣痛が始まってから出産されるまで、ずっと助産師が隣でサポートしますので患者さんも安心だと思います。ご家族が帰った後、夜中に陣痛がきたりすると妊婦さんは不安になりますが「助産師さんがそばについていてくれて、痛いね、ゆっくりいこうね、と励ましてくれて心強かった」というお声もいただいています。
診察室が3つありますが、どのように使い分けておられるのでしょうか?
第1診察室は婦人科系で腫瘍や不妊症の患者さんを診ています。第2診察室は主に周産期の方が中心ですね。第3診察室は新館の出入り口そばにあり、感染症の方を診察します。いつもは第1、第2診察室で診せていただく方も、風邪やインフルエンザなどで発熱があれば第3診察室へお入りいただきます。強力な換気扇を備えているのと、ほかの患者さんと接触する機会を減らすことで、院内感染に配慮できるかと思います。
入院中の食事がおいしいと評判だそうですね。
和食と西洋料理の経験を持つ3人の調理師が、院内の厨房で活躍してくれています。入院中は、食べることが貴重な楽しみとなりますから、食事が豪華でおいしいと皆さん喜んでくださいます。できる限り国産で安心安全にこだわった食材を、スチームコンベクションオーブンで栄養素を逃さないように調理します。腎臓病や糖尿病、高血圧の患者さんには特別食メニューも用意し、分娩後のお祝い膳は、当院オリジナルの和洋折衷フルコースです。特に人気なのはお肉料理ですね。定期的に管理栄養士さんに入ってもらって、メニュー指導も受けています。
いろいろな症状で困る患者の最前線の相談所でありたい
毎日お忙しいと思います。先生の1日のスケジュールと余暇の過ごし方を教えてください。
だいたい、朝は8時40分頃に入って外来を開始し、夜は8時頃まで院内にいます。中休みはありますが、その時間が手術や分娩になることも多いですね。昔は当直もしながら、24時間オンコールで働いていましたが、年齢的にもあまり無理をできなくなりましたので、今は控えています。当直は関西医科大学の医師に来てもらっています。休日も遠出はできませんから、せいぜい車を運転して京都へ出かけるぐらいですね。車を運転することが気分転換になります。近くの大型ショッピングセンターへ、院内で使う日用品を私自らミニバンで買い出しに行くこともあるのですよ(笑)。
今も心に残っている患者さんや症例はありますか?
関西医科大学附属病院からこちらへ戻って、1年ほどたった頃ですね。突然おなかの中の赤ちゃんの心音が悪くなり、医師は私一人、という状態で帝王切開に踏み切らなくてはならなくなりました。あの頃はまだ一人で手術することに慣れていませんでしたから、余計に焦りました。今は、帝王切開などの出血が多い手術があらかじめわかっている場合は、麻酔科の医師を手配します。麻酔科医師が血圧などの全身を管理してくれるので、私は手術に専念できます。そういう体制を敷けるのも、当院の強みだと思っています。
最後に読者へのメッセージをお願いします。
私が産婦人科の医師になりたての頃は、お母さんも子どもを産むということにあまり不安がなかったように思います。だんだんと少子化が進み、出産時期が高齢化している現在、高齢出産でリスクが増えることで、不安を抱える妊婦さんが増えたように思います。私は出産後の赤ちゃんの検診にも力を入れていますが、それは出産後のお母さんの様子を見守るためでもあります。入院の前後からナーバスになっていたお母さんが、産後うつになっていないかなあと心配だからです。当院はさまざまな症状でお困りの方のためにある最前線の相談所、というスタンスで診療をしております。小さな不安や気になる症状があれば、ぜひ気軽に来院してください。私と70人のスタッフ全員で、お母さんとお子さんをサポートさせていただきます。