辻 嘉文 院長の独自取材記事
つぢ医院
(大阪市天王寺区/天王寺駅)
最終更新日:2025/05/08

大阪市営地下鉄谷町線・天王寺駅、アベノ地下街の6番出口から徒歩約1分の場所にある「つぢ医院」。同院は1942年の開業以来、3世代にわたり80年もの間この地で肛門科を専門に診療してきた医院だ。「よく『痔=即、手術』というイメージをお持ちの方が多いですが、実はそういうわけでもないんですよ」と話す辻嘉文院長に、「肛門科医院」とはどんな治療を行うところなのか、痔になったら患者はそれとどう向き合うべきなのか。詳しく話を聞いた。
(取材日2017年6月5日/情報更新日2022年9月2日)
戦前から続く歴史あるクリニック
なぜ天王寺で開業をされましたか。

当院を開業したのは、前々院長である私の祖父です。祖父は開業前、この近所にある現四天王寺病院に務めており、このあたりに土地勘があったようです。だから天王寺で開業したんじゃないでしょうか。または、祖父の実家が奈良の五条だったので、五条と行き来しやすいという点で選んだのか……。いずれにせよ、この医院が開業したのは1942年、今から80年ほども前のことですから、もう確認のしようがありません(笑)。ちなみに、今は息子が初期研修を終わって専門分野の勉強をしているところなので、いずれはここを継ぐことがあるかもしれません。その時、世間のニーズや社会情勢がどうなっているかはわかりませんから、肛門科医院として継ぐかどうかはわかりませんが、大切なのは地域の健康に貢献することなので、もし肛門科専門でなくとも、私は良いと思っています。
こちらの医院を継ぐまでの先生の経歴を教えてください。
肛門科分野というのはやはり一般的にマイナーな分野で、あまり誰もやりたがりません。私も最初はメジャーな分野である外科に進みました。関西医科大学を卒業後、関西医科大学外科その後、大阪大学医学部第二外科に入局し、止血研という研究室に所属し、そこで医学博士を取得しました。ハーバード大学医学部への留学なども経験しています。そうした経験を経て、私がこの医院に戻ってきたのは40代の頃、1997年です。まず副院長に就任しましたが、それが実質的な代替わりでした。私が副院長に就任して以降は前院長である父は完全に引退し、2002年には私が正式に院長に就任しました。
消化器外科はどう違うのでしょうか。
ここでは、大腸内視鏡などは置いておらず、設備としては肛門鏡、直腸鏡などをそろえ、S状結腸以下の部分を専門にして診察しています。疾患としては、肛門の3大疾患と呼ばれる「痔核」「痔ろう」「裂肛」の他、看板には掲げていませんが、性病の患者さんがいらっしゃることもあります。よくある誤解として「痔=即、手術」というイメージをお持ちの方が多いですが、実際受診されても手術に至るような患者さんは10に1人いるかいないかくらいです。また、痔を見つけたら注射(ALTA注)をする医院も多いですが、当院ではそういったこともあまりしません。
お薬だけで痔は治るのですか?

いいえ。痔はお薬だけでは完治することはありません。痔というのは、二足歩行の人間ならではの疾患なんです。二足歩行をしているから肛門に血液が集まる。そこに、無理な排便習慣や酒とタバコ、不規則な生活という要因が重なって痔が悪化することも多いです。お薬と生活習慣の改善だけでも症状の軽減が期待できますが、完治したとはいえません。
診療方針は「患者の希望に沿った診療」
患者層や主訴に何か特徴はありますか?

肛門疾患は、全年齢層がかかる可能性があります。また、男女比もほぼ同じです。赤ちゃんでも裂肛や痔ろうになって、親御さんが診察に連れて来ることもあります。ただ、年齢層としてはやはり20代以上が多いですね。裂肛は多少、女性のほうが多く、痔ろうが男性のほうが少し多いくらいでしょうか。主訴としては、肛門の痛みやかゆみ、出血、便が出にくいなど。患者層は、昔は日本全国から患者さんが来てくれていたようですが、最近はそこまで宣伝もしていませんし、関西、特に大阪からの患者さんが多いですね。たまに中国や韓国から患者さんが来ることもあります。
診療方針や、診療の際に心がけていることはありますか?
基本的なことではありますが、診察時にタオルをかけるとか、女性患者の場合は必ず女性の看護師が同席する。逆に、男性患者の場合は希望があれば女性看護師を退出させるなど、患者さんの羞恥心に対する配慮は欠かさないよう診療しています。また、あくまでも患者さんのご希望をよく聞いて、それに沿った治療を行うよう心がけています。先ほどもお話ししましたが、痔になってクリニックを受診すると、即、手術をされると思っている人が多くいます。ですが、実際はそういうことはあまりないんです。たとえ、患者さんご本人が「今日手術をしてくれ」と言われたとしても、きちんとした検査を経てからしか手術は行えないからです。また、仮に手術をしたほうが良いという診断であっても、最終的に手術をするかどうかを決めるのは患者さんご本人です。
手術したほうが良いのに、手術をしないで済ませることもできるのですか?

脱肛を伴うような痔核の場合は、手術か注射しか手立てがないのは事実です。しかし、患者さんが「脱肛したままでも良い。痛みと出血さえ止まれば見た目は気にしない」と希望されるのであれば、あえて痛みを伴う手術という選択をしないことも可能です。重要なのは、それぞれの治療のメリットとデメリットの兼ね合いですね。手術をしなければ痛みはありませんが、脱肛はそのままですから、見た目には影響が出ます。手術で治療はできますが、やはり痛い。当院では患者さんが、そうしたメリットとデメリットをしっかり理解した上で選択ができるよう、丁寧な説明を行っています。
心身ともに楽になるために、思いきった決断も
医師をめざしたきっかけについて教えてください。

環境によるところが大きいですね。祖父も、父も医師でしたし、親戚にも医師がいました。私にとって医師というのは最も身近な職業だったのです。逆に医師以外の仕事をまったく知らなかったので、子どもの頃から「大人になったら会社勤めをする」というイメージは一切持っていませんでした。医師以外で興味があった仕事といえばパイロットですが、目が悪いので、無理だろうなとすぐ諦めました。後は、実はお菓子屋さんなどのお店を経営してみたいという興味はありました。スイーツ、特にケーキが好きで、料理なども凝りだすと止まらなくなるタイプです。
休日はどのように過ごされるんですか?
土曜はたまに勉強会などに参加します。薬や治療は日々進歩していくので、それを把握するためにも、勉強は欠かせません。あとは、釣り、ゴルフ、スポーツ観戦など……と、言いたいところなのですが、趣味と言えるほどやってるわけではないんですよね。ゴルフなどは、好きな人は週に2~3回も行きますが、私は半年に1回くらい。そんなペースでは当然のことながら全然上達しませんし、むしろ下手になっていっています(笑)。最近はコロナ禍ということもあってあまり出かけられないのが現状ですし、基本的にはインドアタイプですね。
読者に向けて、メッセージやアドバイスをお願いします。

来るのは恥ずかしい、と思う方も多いとは思いますが、もし何か少しでも気になることがあれば、勇気を出して受診してほしいと思います。来るまではいろいろ悩んでいても、実際に受診してみたら「なんだ、こんなものか」「もっと早く受診すれば良かった」という方が多いように思います。早く受診してしまったほうが心も体も楽になりますよ。仮に傍から見たら「こんなの病気の内に入らない」という程度の症状でも、ご本人がそれを気にして悩んでいるなら、それは苦しい状態です。まずは気軽に受診してください。また、時々「薬局で相談して薬を買ったが、効かなかった」と来院する患者さんがいますが、診察もなく自覚症状を伝えただけで適切な診断などできるはずがありません。順番が逆です。まずは診断があって、それからその診断に応じたお薬です。体のため、そしてお金や時間を無駄にしないためにも、まず適切な診断を受けましょう。