竹谷 哲 院長の独自取材記事
竹谷クリニック
(大阪市都島区/都島駅)
最終更新日:2023/11/13
大阪メトロ谷町線の都島駅からすぐ。にぎわう都島交差点に面した場所で、長く開院する「竹谷クリニック」を訪ねた。クリニックの歴史は古く、現院長の竹谷哲(たけたに・さとし)院長の祖父が耳鼻咽喉科クリニックを開いたことに始まる。1980年代半ばには、竹谷院長の父が現在の地にクリニックを開き、2008年に継承した。大阪大学医学部第一外科に身を置き、心臓病の先端治療に励んでいたところからの転身で、悩んだ時期もあったそうだ。ただ、自身の医師としての新たな役割に気づいたことから、同院での診療だけだなく、多職種を巻き込んだ「大阪心不全地域医療連携の会」を発足するなど、地域貢献にも尽力する。「生まれ育った都島のために働きたい」と爽やかな笑顔で話す竹谷院長に、医師としての歩みから今後の展望までをじっくりと聞いた。
(取材日2023年8月23日)
3代にわたり、都島に根を下ろし医療を推進する
この都島区で、3代にわたって診療されているそうですね。
もともと祖父が都島区内で耳鼻咽喉科を開業していて、その後、勤務医だった父がここにクリニックを開いたんです。ちょうど僕が大阪大学医学部の第一外科に入局し、心臓外科を専門に心臓移植や人工臓器に関わる医療に携わっていた頃でした。心臓病の治療に用いる心筋シートを実際に作ったりして、毎日がすごく充実していました。ところが急に父が体調を崩して、クリニックの診療が立ち行かなくなってしまい、戻ってくることになったんです。それまで大学病院で心臓の手術や治療ができるという喜びを持って仕事をしていたので、この空間に身を置いた時に「これでいいのか?」と思ったことはありました。ところが、この都島区には未治療の心不全の患者さんがたくさんいらっしゃることをだんだんと知っていくにつれ、「おまえは、ここで働け」と天に言われているような気持ちになりまして、当院で働くことが腑に落ちました。
日常はどんな患者が多いのですか?
この周辺に住んでおられる方が一般的な風邪や体調を崩して来られます。それと、僕の専門が心臓なので、心不全や循環器系を患っている患者さん。あと、父の時代に内科医院としてここを開業しましたが、もともと父は消化器外科をやっていて、僕も外科系をやっていますので、基幹病院で外科手術を受けた患者さんが来られることが多いですね。最近は手術をした後、早くに仕事に復帰される方が多いので、夕方の時間帯の診察にはがんなどの術後の患者さんが薬をもらいに来たり、状態の確認のために来られたりということもあります。
一般的な風邪から心臓まで幅広く診る。まさに地域のかかりつけ医ですね。
この辺りに暮らす人は古くから住んでおられる方と、新しく建ったマンションに引っ越されてきた方と、大きく2つに分かれます。それなので求められる医療も、高齢者の医療と急性期の医療と2つに分かれるんです。当クリニックはそのどちらにも対応しています。訪問診療にも在宅での看取りにも対応していて、火、水、木曜日の午後は、通院が難しくなった患者さんのもとへ訪問診療に行くようにしています。自分で車を運転していると子ども時分に見ていた風景とマンションに変わっていく景色が混在していて、「あそこにはあれがあったよなぁ」と感慨深くなったりします。訪問診療先の患者さんの中には、僕が子どもの頃から顔見知りの方もいらっしゃいます。
地域の人全体で、心不全を診ていける仕組みづくりを
心不全をみんなで診よう、という活動をされているそうですね。
地域のかかりつけ医でも心不全を診れるようにしよう、というところから始めた取り組みです。僕がここに戻ってきてわかったことの1つが、未治療の心不全の患者さんがたくさんいらっしゃるということでした。心不全は大阪市のような大きな都市だと、さまざまな病院があり、治療そのものや治療方針、説明の仕方もそれぞれで、患者さんは混乱してしまうでしょう。患者さんに病気のことをもっと知ってもらうことはもちろん、基幹病院と地域のクリニックなど、医療機関同士も連携し合って共通認識を持たないといけない。そのために2017年「大阪心不全地域医療連携の会」(OSHEF:オーシェフ)を立ち上げて、教育、啓発のための講演活動を始めたんです。
具体的な活動内容を教えていただけますか?
「ハートノート」といって、心不全の患者さんを在宅で診ていくための、参考書のようなものをつくりました。僕をはじめとした医師だけじゃなく管理栄養士や看護師、リハビリテーションに携わるスタッフや地域の医療支援施設なども協力してくれた共著のノートです。患者さんが自己管理をしながら点数をつけてもらえる構成になっていて、自宅での血圧の測り方や脈拍の取り方なども紹介してあります。そのつけた点数に応じて、3点、4点ではかかりつけのクリニックへ、5点になればすぐに基幹病院へ行きましょう、という目安にしてもらいます。この点数はケアマネジャーやヘルパーさんと医師間でも共通言語化されていて、ケアマネジャーさんが医師に「5点です」と電話をすれば、緊急入院へとスムーズに移行することができるよう仕組みを作っていただいています。
画期的な取り組みですね。大阪から全国へ展開も進めているとか。
この取り組みを広く展開していくために、病院に説明に伺うと「そんなことが、どうしてできたの?」という話しになることもあります(笑)。でも医療者というのは、患者さんを良くしたいという熱い気持ちを持っていますから、本質はみんな同じなんですね。最初は大阪市内の4つの病院でスタートした取り組みが、2023年8月現在、123の病院が参加してくださっています。患者さんに適切な医療を提供するためにも、これからもたゆまず努力を続け、全国に広げていくつもりです。
周りの人たちに理解を得ながら、前進して行く
早期に適切な医療につなげることは大切ですね。
心不全で再入院するというのは、それだけ医療費がかかってしまいます。「ハートノート」をうまく活用し、早期に適した医療につながることで、再入院のリスクを下げ、医療費の負担軽減に大きな役割を果たすのではないかと考えています。また再入院が減ると、病院においてもゆとりが生まれ、救急搬送が減ったというデータも得ています。さらに「大阪心不全地域医療連携の会」では、地域で働くケアマネジャーやヘルパーさん向けにワークショップを開催したり、その様子を全国配信も行っています。ケアマネジャーさんやヘルパーさんの80%以上は、患者さんを良くしたいと考えておられるのですが、勉強する機会が少ないとの声もあります。僕たちが持っている症例や事例から学んでもらえる機会が提供できればうれしいですね。
クリニックの特徴、強みは何でしょう?
大阪大学で心臓に関わる医療に従事してきましたので、先進の治療から地域の特性を踏まえた医療まで、幅広く診れるというところが当クリニックの特徴だと思います。あえて専門を挙げるならば、「都島が専門」というようなところでしょうか(笑)。僕が高校生の頃は、祖父、父に続いて医師になることに迷った時期もありました。自分がどんな医師になって、どういう医療をしないといけないのか、ということについては、実は未だにずっと自問自答していますし、その答えは年々変わります。だからこそ考え続ける努力はずっとしないといけないでしょうし、幸運にも医師という職業につくことができたのですから、今できることを精いっぱいやりたいという思いでいます。
今後の展望についても伺います。
1つは今まで通り地域の人たちが安心して暮らせる環境を作っていくこと。そして2つめは、都島区医師会として、ICTを活用した多施設多職種間での医療介護連携を強く推し進めいくことです。これには心不全だけでなく、糖尿病、骨粗しょう症や認知症、乳幼児医療などの疾患も含まれています。さらにこの秋には都島区民の方々を対象にした、「歩こう会」のイベントも開催する予定です。小さいお子さんから高齢者の方まで、この地域の人たちがよりうまく生活できるように考えて、行動と努力を続けていきたいと思っています。