服部 阿紀彦 院長の独自取材記事
なぎつじ耳鼻咽喉科
(京都市山科区/椥辻駅)
最終更新日:2023/05/01

黒を基調にしたスタイリッシュな外観が目を引く「なぎつじ耳鼻咽喉科」。服部阿紀彦院長が1986年に開業してから36年にわたり、地域住民のQOL(生活の質)を重視した診療を続けている。さらなる「心地良さ」をめざして、2020年に近隣に新築、移転。京都市営地下鉄東西線の椥辻駅からすぐの立地のため、沿線に住む人や仕事帰りのビジネスパーソンも多く訪れる。服部院長は小児内科からキャリアをスタートし、新生児や産婦人科などでも臨床経験を積んできた、経験豊富なベテランドクター。クリニックの移転、先進機器の導入など、今なお変化を恐れることなく現役で走り続けている。「画廊」をコンセプトにしたという待合室で、さまざまな話を聞いた。
(取材日2022年5月17日)
開業以来の積み重ねを糧に「人心一新」の思いで移転
2020年にクリニックを新築、移転されたのですね。

京都で耳鼻咽喉科を営む兄の知人が医療関係のテナントが入ったビルを所有しており、そこに空きが出たため開業したのが1986年になります。そこから百数十メートル離れた現在の場所に移転しました。新築にあたり、クリニックというよりは「画廊」のイメージをコンセプトにしました。私は絵画や彫刻などアート鑑賞が好きなんですよ。待合室は前よりゆったりとくつろげる広さにし、椅子やソファーはすべて同じ方向に並べて患者さん同士が対面しないようにしました。このレイアウトだと適度に距離を取ることができ、感染症対策にも一役買っています。清潔で優しい空間にもこだわっており、常にクリーンな空気を保つための空気清浄機も設置しています。
移転した経緯を聞かせてください。
開業した36年前にお子さんだった患者さんが親となり、そのお子さんを連れて来院してくれています。スタッフも、結婚・出産・子育てを終えて戻ってきた人材が多数います。積み上げてきた歴史を糧に、人心一新(じんしんいっしん)したいという思いから移転を決めました。患者さん、当院のスタッフ、そして医師である私、三者がそれぞれの日々を生きています。これまでもかかりつけ医として、地域に根差して診療に努めてきましたが、気持ちを新たに、皆が心地良い時間を過ごせるような環境づくりにさらに力を注ぎたいと思ったのです。
どのような患者さんが多いのでしょうか?

乳児から小児、そして高齢の方まで幅広く来院されています。以前の場所も駅から近かったのですが、移転によりさらに近くなったためか、地下鉄の沿線にお住まいの方がお仕事帰りに立ち寄られるケースも増えました。京都市内はもちろん、滋賀県から通う患者さんもいらっしゃいます。開業したばかりの頃は学区が重複するエリアにあったため、小学生がプールに入る夏が最も忙しい時期でしたが、今は花粉症の季節、春がピークです。春のスギやヒノキに限らず、秋のブタクサなど、通年、何らかの花粉に悩む患者さんが受診されます。花粉症の眼科の処置、副鼻腔炎や難聴、耳鳴り、めまいといった耳鼻咽喉科の一般的な症状のほか、小児内科としての役割も担っています。そのため、お子さんが通いやすいよう、診療時間にも配慮しています。
開業医の役割を重視。患者のQOL向上に尽力
診療方針について教えてください。

QOLの向上が最も重要だと思っているので、患者さんがいかに心地良く過ごせるのかを優先して考えています。耳鼻咽喉科の場合、早いうちから治療を開始することで、手術をせずに済む場合も多々あります。病気の入り口をすくい上げ、見極めるのが私たち開業医の役割ではないでしょうか。その結果、命に関わる重篤な症状であるなら手術が必要になります。そうなれば手術が可能な基幹病院をもちろんご紹介します。ただ、その前の段階、日常的な疾患に対しては、患者さんに寄り添い診療することも大切です。そういった開業医で提供する医療と、紹介先の病院で行われる医療の「すみ分け」も重視しています。
患者さんと接するときに心がけているのはどのようなことですか?
患者さんが自分や自分の家族だったらと考えて、どういう診療、対処をするかを意識しています。以前、ある女性の医師が胸の違和感を覚えて医療機関を受診したところ、自然気胸が判明しました。簡単にいうと肺に穴が開いて、一時的に空気が漏れる状態です。最初は経過観察と言われたそうなのですが、納得できなかった彼女は「同じ医師としてご自分ならどうされますか」と主治医に尋ねたといいます。結果、かなりまれなことですけれども検査を行い、がんが見つかったそうです。こういうケースもあるのです。どんな症状であっても、まず自分なら、自分の家族ならどうしてあげたいか、どうするのがベストなのかを念頭に置いて判断を、診療をしています。
印象に残っている患者さんとのエピソードはありますか?

次回も受診してくださいとお伝えしていたのに、2年近く音沙汰のない患者さんがいました。その方が急に来院され、「がんでした」とおっしゃったのです。今一度当時のカルテを見直すと、やはり「要注意、次回検査」と書いていました。私としては重篤な症状である点を丁寧に伝えたつもりが、患者さんには伝わっていなかったわけです。自らの力量不足を突きつけられたと同時に、かかりつけ医としての責任をあらためて自覚させられた忘れ難い出来事です。それからは以前にも増して、ホームドクターとしての役割のすみ分けを重視するようになりました。ですので、高度な検査や医療が必要だと判断したら、患者さんにきちんと説明し、理解してもらえるよう努めています。
情報過多の時代だからこそ、意思疎通を大切にしたい
感染症対策に力を入れているそうですね。

診療室と待合室の天井に、空間除菌脱臭器を埋め込んで24時間稼働させています。あと、診療室と待合室の照明の一部を昨年から抗菌ライトに替え、診療室では診察チェアを囲むように取りつけています。見た目は一般の照明とほとんど変わりませんので、インテリアに自然になじんでいるのもうれしいところです。このような対策は、患者さんだけでなく、私たち医療者にとっても安心につながります。患者さんには安心して受診していただける、スタッフには安全に働いてもらえる、そんな環境をこれからも整えていきたいですね。
今後、取り組んでいきたいと考えていることを教えてください。
すべての医療、治療は必要悪なのです。もちろん医師として「こうあるべき」というスタンスを持つのは悪いことではありません。しかし、患者さんにも選択する権利があります。命に関わるようなケースは別にしても、患者さんの思いを尊重したいという気持ちもあります。かかりつけ医として患者さんのQOLを向上させるお手伝いを続け、患者さん、スタッフ、私の三者が上手に関わっていきたい。クリニックを移転、新築したのはそれを実現させるためでもあります。その上で、医師としてのポリシーとの整合性、どう折り合いをつけていくのかは難しいところでもありますが、今後も考え続けていくべき課題だと思っています。
最後に、読者にメッセージをお願いします。

ご自分に合ったかかりつけ医を見つけて、気軽に通院してみてはいかがでしょうか。今は誰でもインターネットで検索し、医療についてのさまざまな情報が得られるようになりました。しかし、情報は玉石混交で、医師の視点から見ると疑問を感じる情報も少なくありません。簡単に情報を入手できるからこそ、患者さんも医師をうまく利用してほしい。医師とコミュニケーションし、医師の生の声や見解を聞くのは患者さんにとってもメリットが大きいと思うのです。自分が調べた情報だけで完結するのではなく、信頼できる医師と対話をすることで得られるものはたくさんあります。そして、情報を精査し、正しいものを伝えるのも、私たちの務めです。どんな小さなことでも気楽な気持ちでご相談ください。