難治化するアトピー性皮膚炎は
心理的側面が影響している場合も
上田皮膚科医院
(京都市山科区/京阪山科駅)
最終更新日:2025/01/07


- 保険診療
一般的にアトピー性皮膚炎は、アレルギー性疾患であり皮膚疾患であると捉えられることが多いが、アレルギーや皮膚疾患としての治療を施しても、なかなか改善しないケースが少なくない。「難治性アトピー性皮膚炎がトラウマ体験による心的外傷後ストレス障害(PTSD)や日常生活や人間関係のストレスなど、不安定な精神状態による影響も考えられるから」と話すのは、長年アトピー性皮膚炎の治療に取り組んできた上田英一郎先生。現在、大阪医科薬科大学病院のQI管理室で医療の質向上に取り組みながら、同大学の小児アトピー専門の外来や母が院長を務める「上田皮膚科医院」で、心理面のサポートも大切にしたアトピー性皮膚炎の治療に努めている。その豊富な経験をもとに、アトピー性皮膚炎の原因や難治化する理由、治療のためのヒントを聞いた。
(取材日2024年9月12日)
目次
原因は単純じゃないからこそ、何でも相談できる医師を見つけることが自分に合った治療を見つける第一歩
- Qアトピー性皮膚炎の原因について教えてください。
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A
▲患者の要望を大切にする治療を心がける
アトピー性皮膚炎は皮膚のバリア機能不全によってかゆみを伴う湿疹、炎症を引き起こす皮膚疾患ですが、その原因は一言で語れないほど実は複雑です。アレルギー体質をはじめ、不適切な生活習慣で肌が刺激され発症する場合もあります。そして、もう1つの大きな原因になり得るのが、精神的ストレスです。人は強いストレスがかかると自律神経のバランスが崩れ、皮膚のバリア機能不全が起こるという研究報告もあるほど。治療してもなかなか改善がみられない難治化している場合には、皮膚疾患、アレルギー性疾患としての側面だけでなく、患者の精神状態や取り巻く環境などの心理社会的側面も含め、総合的に判断することが必要なのです。
- Q判断を間違えて適切な治療にたどり着けず、悪化するケースも?
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A
▲どのようなことが起きても安心できるよう設備を備える
多いと思います。原因が混在していることが考えられる以上「アトピー性皮膚炎だからこの薬を使えば良い」という単純なものではなく、治りにくさがアレルギーの重さによるものなのか、生活習慣や心理社会的側面によるものなのかを見極めなければなりません。皮膚症状自体は軽くても心理社会的側面のストレスが多いから良くならないとか、自暴自棄になってセルフケアができていないとかの場合、強い薬剤による治療は患者さんの体にも経済的にも負担がかかるし、思うような治療効果は見込めないでしょう。適切な治療を導き出すためにも、バックグラウンドに応じたコミュニケーションや心身医学的なサポートも大切です。
- Q具体的にはどのような治療を行うのでしょうか?
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A
▲患者の気持ちに寄り添った、地域に密着したクリニック
薬に関しては「デュピルマブ」という生物学的製剤の注射薬が2018年に登場し、アトピー性皮膚炎の治療は劇的に前進しました。重症患者への治療にも大きな効果が期待でき、ステロイド外用薬や保湿剤など従来の方法に加え、患者さんの状況や症状に応じた治療の選択肢が広がっていますね。まずは標準治療で改善を図ります。難治化している場合は心理的な側面も確認し、必要に応じたサポートも行います。難治化した成人の患者さんの治療をはじめ将来の難治化を防ぐために子どもの頃から適切な治療を行えるよう小児科での治療にも力を入れています。
- Q先生が重視しておられることを教えてください。
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A
▲診察室。検査機器が充実
原因を把握するためにも、患者さんとのコミュニケーションは不可欠。難治化して長年悩んでおられる患者さんほど「この先生のもとで治療を受けてみよう」と思ってもらえるような信頼関係を構築することが重要です。例えば、誤った情報をもとにステロイド忌避になっている方に「それは間違い」と厳しく指摘するだけでは、不信感を募らせ治療の機会を失わせてしまいます。相手の気持ちを理解しながらも正しい知識を提供しつつ「どうすれば良くなるのか一緒に考えていきましょう」と提言。治療には患者さん自身のモチベーション維持も不可欠なので、不安や疑問に寄り添いつつ同じ方向を向いて治療を進めていくスタンスを大切にしています。
- Qアトピー性皮膚炎の治療を受ける上で大切なことは何でしょう?
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A
▲家族のよう温かく患者と会話する
まずは、アトピー性皮膚炎を、単に皮膚炎やアレルギー反応と一元的に捉えるのではなく、生活習慣や精神的なストレスなど多角的な視点から見極めることです。そのためにもしっかりと話を聞いてくれる、病院や医師と出会うことが大切です。職場の人間関係のストレスで難治化している人に、「症状が治まったら仕事に復帰できますよ」と言っても改善するわけがありません。もちろん、すべての人に心理的サポートが必要というわけでなく、一人ひとりに合った治療があるはず。だからこそ、何でも相談できる病院・医師との出会いが大きなポイントに。その上でさまざまな角度から治療方法を探り、適切な治療を導き出してほしいですね。